第15話 看病する者

「ロバート」

アレキサンダーはロバートの額に触れた。確かに熱い。


「アレキサンダー、お前はたっぷり反省しなさい」

アレキサンダーは、アルフレッドが手にしていた布を奪った。

「父上、先程、私に看病しろといったではありませんか」

奪った布で、ロバートの額の汗を拭おうとした。そのアレキサンダーの手にロバートの手が触れた。確かに熱い。


「アレキサンダー様」

ロバートは、遠慮してアレキサンダーを止めようとしているのだろう。掠れたいつもより弱い声で言われても、アレキサンダーは止めるつもりはなかった。

「父上の命令だ」

「ですが」


 騒々しく扉が開いた。弟子が医者を伴い、騒がしく帰ってきた。

「あぁもう、ロバート、君は何をしている。無理をするのはやめなさい。大人しく寝ていなさい。全く、無理ばかりする怪我人だ。アレキサンダー様、看病するならですね、その布、そこの桶、水が入っていますよね。その水で濡らして、しっかり絞ってから拭いてやってください」

「わかった」


 アレキサンダーは、言われたとおりにして、ロバートの額の汗を拭ってやった。ロバートは、ようやく抵抗をやめた。大人しくなって、アレキサンダーに看病させてくれている。

  

 騒がしい弟子も、少しは役に立つとアレキサンダーは思った。


「アレキサンダー、では、あとはまかせたよ。ロバート、お前はまずは体を治しなさい」

「はい、父上」

「ありがとう、ございます」


 アルフレッドは影に伴われ病室から出ていった。去り際に、影の一人がそっとロバートの頬に触れていったのが見えた。ロバートを介抱していた影だろう。影にも、面倒見のよいものはいるらしい。


 王太子であるアレキサンダーにも影はついているはずだが、会ったことはない。影について知り、影に命じることができるのは、国王だけと決められている。


 アレキサンダーが学ばねばならないことは、沢山あるのだ。


 気を引き締めようとしたアレキサンダーの耳に、医者の弟子の声が飛び込んできた。


「アレキサンダー様、顔だけじゃなくて、首筋とかも拭いてやってください。耳の後ろも丁寧に。それが済んだら、次はですね」

当面の間、アレキサンダーは、この騒がしい弟子に、ロバートの看病について教えてもらわねばならないのだろう。

「お前を看病しろというのは父上の命令だ。ロバート、お前は遠慮するな、いいな」

申し訳無さそうにしているロバートに、アレキサンダーは告げた。

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