ありがとう

璃々花

ワンルーム


「ごめん、私の『好き』は異性対象じゃない」


「じゃあ、なに?」


「『人間』として好き。」


「それって、違うの?付き合えないの?」


「『男性』としては好きじゃない、、、」


「違いが分からないけれど、君がそう言うなら。色々悩んだ結果でしょ」


「分かってくれて、ありがとう。ありがとう。」


「ねぇ、ひとつ聞いていい?俺のこと、異性として見たことあった?」



そう聞かれると、私は困る。出会って5日で、交際開始。出会ったきっかけは、今流行りのマッチングアプリ。好きなところなんて分からないし、正直、異性として見ていたのか、今でも不明だ。



ー-----


「好きよ」


その、彼の一言で私たちは付き合った。


その時、私は彼のどこが好きだったのか?


5日間で何が分かったのか、彼も彼で、私のどこに惹かれたのか。


分からないまま、始まった。


初夜。


私たちは一緒にお風呂に入った。彼は幸せそうな表情をしていた。もしかしたら、私は、自分のことを好きでいてくれることに対して、『好き』になっていたのかもしれない。


ー-----


私たちは喧嘩が一切なかった。なぜなら、私は何でも我慢する、そして彼は鈍感な人。さらに彼は『人の感情を考えるのか苦手』。でも、一緒に居て、すごく楽しかった。笑う時間が耐えなくて、こんなにも一緒にいて楽しい人っているんだ!と自分でも驚いた。そうでもないと、1年なんて続かない。一緒にカフェ巡りしたり、旅行にも行った。今でも思い出したら、笑える出来事がたくさんだ。


彼が実家暮らしで、私が独り暮らしであったため、私の家に来るのは多くなり、合鍵も渡していた。


しかし、

私の部屋はワンルームだった。


二人の生活には壁がなく、悪く言えば、一人の時間がなかった。私は一人の時間が無ければ生きていけない、、、。一緒に過ごす時間が長くなると、やはり、人間は悪いところに目がいってしまう。


家事、手伝ってくれない。

ずっと携帯でゲームしてる。

仕事の話ばかりしてくる。

寝る時間も起きる時間も遅い。

私と生活リズムが違う。


でも、『来ないでほしい』とは言えなかった。私は我慢してしまう性格だから。そして、一緒にいて、楽しいって思うことが出来る時間もあったから。関係は途切れないようにしなくちゃ、と思っていた。



だが、


突然、私の我慢は、プチン、と切れた。


もう、無理だ、、、。



なぜ、彼の生活を中心に動いていかなければならないのだろう。



ー-----


最後の日の夜。



私が今まで色々と我慢していたことを話すと、彼は


「きつかったね、ごめんね」


と言ってくれた。


そう、彼は優しすぎるぐらいの人間だった。


だから、涙が止まらなかった。


我慢する日々もあった。でも、その倍以上に楽しくて、笑ってばかりの時間があって、それを思い浮かべると、私は別れを選択したことを責めてしまった。


「ごめんね、ごめんね。私が悪い、、、」


「謝るのは、俺の方だよ。ごめん、気持ちを分かってあげられなくて」


泣いてる私を後ろから抱きしめてくれた。


これが、最後の私たちのハグだった。



でもね、


誰も悪くないのかもしれないね。

ワンルームが悪かったんだよ。


だって、出会えて良かった。



ー-----



私は、やっぱり、きっぱりと離れたくなかった。

楽しい時間が全くなくなるのは辛かった。ちょっと甘えたかった。


「これからも友達として、いてくれる?」


ダメなことだと分かっているのに、言ってしまった。


「そうでありたいけど、俺は、君を好きなんだ。それは、きつい。連絡を取り合うのも、きつい」


、、、そうだよね。でも「いいよ」の言葉を期待してしまっていた。彼は優しいから。


きつい思いをさせるのも、私にとってもきついことだ。


私は更に泣いた。


もう彼は私を抱きしめずに、そばから離れて、合鍵をテーブルに置いた。


「またね」


「今日が最後?」


「そりゃあ、ね」


「そんな、、、、」


「君が振ったんだよ。じゃあね」


彼はそそくさと私の狭いワンルームを出た。


私は部屋を見渡した。


この部屋がワンルームではなかったら?

私の我慢も減っていたのかな?


でも、思い出すのは、楽しい時間ばかり。


幸せだったよ。


じぶんから幸せを逃した気分だった。

でも、彼には連絡はしなかった。


テーブルに置かれた合鍵を握りしめて、私は子供のように泣いた。


ありがとう。ありがとうね



幸せになってね。

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