28.真実はいつも一つ
「「「コッケコッコー!!!!」」」
うっるさっ!!
夜明け早々、この養鶏場にいる何百何千というニワトリが一斉に鳴きだした。
養鶏場の朝は早いな。
ギィー
俺がいる養鶏場の扉が開かれる。
「あ! イヒトさん、こんなところにいらしたんですね。夜の見回りはどうでしたか? 何かわかりましたか?」
「あぁ、コダイさん。それなんですが、卵を産まなくなった原因がわかりました。このニワトリなんですけど……」
俺は昨日話をしたニワトリを抱えて、コダイさんの目の前に出す。
「このニワトリがどうかし……た…………えー! こ、こ、こ、こ」
コダイさんがニワトリみたいになってしまった。
「こ、こ、このニワトリ! 魔獣化してるじゃないですかー!!!!」
「えー!!!!」
ま、ま、ま、魔獣化!?
魔獣って確か動物が魔素に侵されて変異してしまったものだよな……?
俺はてっきり魔物みたいに凶暴化して、他の生き物を襲うもんだと思っていたが。
こんなに理性的になるやつもいるんだな。
「イ、イヒトさん! そいつが原因なんですよね!? さっさと討伐しちゃってください!」
「と、討伐!?」
え? やっぱりこいつヤバいやつなの……?
「このニワトリおとなしいんですけど、やっぱり危険なんですかね……?」
「危険なんじゃないですか……? 私も魔獣を見るのは初めてなので、こんなにおとなしいとは思っていませんでした」
「実はこのニワトリからお願いを聞いていまして」
「えっ!? しゃべるんですか!?」
「なんか俺だけに聞こえるみたいです」
"俺、ニワトリと話せるんです"って、言っててなんだけど頭おかしいやつだな。
「そうですか。魔物や魔獣の中には言語を操るものもいると聞いたことがあります。それで何と?」
「最近、エサが粗末になって困っているそうです。それで抗議として卵を産まなくなったと。エサを元に戻してもらうことはできませんか?」
「えっ!? いや、エサのランクは変えていませんよ! 最近、従業員の勧めでエサを変えましたが、同じ価格帯なのでそこまで粗末になっているとは思えませんが」
ふむ、妙だな。
誰かが嘘をついている?
まずニワトリが嘘をついているパターン。
エサが粗末になったと嘘をつき、もっと待遇を良くしてもらおうとしているとか。
ただ単にエサが好みに合わないだけという可能性もあるか。
だが、魔獣化したニワトリはここの人間がコスト削減と言っているのを聞いたという。
次に、養鶏場の主であるコダイさんが嘘をついているパターン。
エサの価格帯を変えていないと言っていたが、本当は安いエサを使っている可能性。
あとは、エサの業者が嘘をついているパターン。
価格に見合わない粗末なエサを納品している可能性。
この辺りを確認していく必要があるな。
「ニワトリさん、エサが粗末になったというのは、味が好みに合わないという主観的なものではなく、客観的に見て粗末になったんですか?」
『そうだ。味だけではなく体にみなぎるパワーが全然違う』
そうか。味だけではなく、カロリーや栄養もショボくなっているようだ。
「それでは、コダイさん。同じ価格帯のエサに変えたと言っていましたが、それは事実でしょうか?」
「は、はい。同じ価格帯でより良いエサになるということで、それならそうしようということになりまして。ですが、本当に良いエサになっているかどうかは私にはわかりません」
コダイさんも嘘をついているようには見えないな。
卵を産んでもらえなくて一番損をするのはコダイさんだし。
となると、業者が低品質のエサを納入しているということだろうか。
「あ、あのー、何かありましたか……?」
俺とコダイさんが話しているところに誰かが話しかけてきた。
昨日会った従業員とは違う人だな。
「あぁ、ニワトリが卵を産まなくなった原因が、エサの品質が下がったからだと判明した」
「な、なんでそれを!? い、いえ、なんでそんなことに」
むむむ? この従業員怪しいぞ?
「コダイさん、もしかしてエサを変えるように言ってきた従業員はこの方でしょうか?」
「よくわかりましたね。そうです、このライツがエサの話を持って来たんです」
わかっちゃいましたよ、この事件の真相が。
「コダイさん、エサの納入業者とは直接会って契約しましたか?」
「いえ、このライツに一任しておりました」
やはりな。
「ライツさん、白状するなら今のうちですよ」
まぁ、今白状したら許されるとは言ってないが。
「わ、私には何のことだかさっぱり……」
「そうですか、残念です。あまり手荒な真似はしたくなかったんですが」
「し、証拠もないのに手を出したら、た、大変なことになるぞ!」
確かに証拠もないのに手を出したら、俺の方が犯罪者になってしまう。
そう、"俺が"手を出したらな。
「このニワトリ、実は魔獣化してるんですよ。それで、エサが粗末になったことにかなりお怒りのようで」
「ま、魔獣化!? う、嘘だ! そんな脅しには屈しないぞ!」
「ほら、早く白状しないとヤバいぞ! 魔力が高まって光りだしてる!」
俺はさりげなく光源に背を向け、抱いているニワトリを陰にすることで、淡く光っていることを強調する。
「ま、まさか、本当に……?」
あとひと押しってところかな。
「あぁ! もう本当にヤバい! めちゃくちゃ高まった魔力が漏れ出してる! そろそろどこかに被害が出てもおかしくないぞ!」
ぼそっ(10円玉召喚)
俺はライツさんの後方の空中に10円玉を召喚する。
召喚された10円玉はクルクルと回転しながら、地面へと……
落ちる。
キィーーーーン!
うーむ、いつもいい音がするなぁ。
「うわぁぁぁあぁあ!! ごめんなさい! ごめんなさい!! 勝手に粗末なエサに変えて、差額を懐にいれました! 許してください!」
10円玉が落ちた音を勘違いしたライツさんが、半狂乱になって謝りだす。
「ライツ……貴様……!!」
「本当に申し訳ありません! お金はお返ししますし、きちんと警察に行って罪を償いますので、どうか命だけはお助けを!」
この世界にも警察ってあるんだな。
かわいそうだしこのくらいで勘弁しといてやるか。
「ニワトリさん、ライツさんも反省しているので、このくらいで勘弁してやってください」
俺は陰になっていたニワトリを光のもとに出し、漏れ出た魔力(じゃないけど)が収まったように見せる。
「はぁ~」
安心したのか、ライツさんがへたり込む。
「いやー、イヒトさんありがとうございました! 卵を産まなくなった問題だけじゃなく、従業員の不正まで明らかにしていただいて、本当に感謝しています」
「コダイさん。お役に立てたようで、俺も嬉しいです。元々、お菓子を作るために卵を手に入れたかったので」
「そうだったんですね。それじゃあ、卵を産むようになったら、イヒトさんのところに送りますよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
産地直送の新鮮な卵だ。
これでおいしいお菓子が作れるぞー!
「それと今回の依頼の報酬です」
依頼だと思ってなかったから、報酬がもらえるなんてラッキー。
俺はコダイさんから2000円受け取る。
「え! こんなにいただいていいんですか?」
「卵の問題に不正まで暴いていただいたんですから、これくらい当然ですよ」
「ありがとうございます。それで、このニワトリはどうなりますかね?」
「そうですね……こちらに危害を加えるつもりもなさそうですし……どう思います?」
確かに難しいな。
これから狂暴にならないとも限らないわけで、養鶏場にとってはリスクだ。
ただ、まだ何も危害を加えられていないのに殺めるというのも……
なまじ俺は会話してしまっている分、愛着というか人間に近い感覚を持ってしまっている。
本人(本鶏?)に聞いてみるか。
「ニワトリさん、人間や他のものに危害を加えるつもりはないんですよね?」
『当たり前だ。エサさえ美味しければ、ここは楽園だからな。わざわざ危険を冒すようなことはしない』
魔獣化しても考え方は家畜のままだな。
「コダイさん、このニワトリは危害を加えるつもりはないと言っています。話している感じも理性的ですし、むしろこのニワトリがいることで、野犬が寄ってこなくなったりするかもしれませんよ」
「そうですか。それなら安心ですかね。何か危害を加えて、また卵を産まなくなっても困りますし」
ふぅ、なんとか説得できたみたいだ。
「よかったですね。エサも元に戻るし、ここでいままで通り暮らせますよ」
『うむ。また何かあったら卵を産まなくするので、よろしく頼むぞ』
いや、それは勘弁してくれー!
こうして卵騒動は解決したのだった。
―◇◇◇―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます