27.ニワトリベッド

 うめぇーーーーーーー!!!!

 ぷりっぷりな鶏肉。

 しっとりな鶏肉。

 とろっとろな鶏肉。

 鶏肉料理のオンパレードだ。


 やっぱり漁師料理みたいに、その専門の職業の人はおいしい食べ方を知ってるよなぁ。


 焼く、揚げる、蒸す、煮る。

 もも肉、むね肉、ささみ、とさか(?)、よくわからない部位もある。

 はふ~、最っ高~。


 これで夜もぐっすり眠れたら、もっと最高だったのに……

 一宿一飯の恩もあるし……いや夜は徹夜だから一飯の恩だけか。

 まぁそれでも恩があることに変わりはない。

 そろそろ見回りに行くとしますか。


「イヒトさん、行かれるんですね」


「はい。問題が解決したら、またうまい飯食わせてください」


「グッドラック」


 何か今生の別れみたいになってしまった。

 俺はまだ生きるぞ!




 さて、どこを重点的に見回るかな。


 デデン!

 突然ですが、皆さんに質問です。

 皆さんならどこを重点的に見回りますか?


 1.侵入者が入って来ないように外周の柵?


 2.どこで何が起きてもいいように満遍なく?


 3.犯人は現場に戻るというから、夜中に見張りが物音を聞いた場所?






 すべてノーだ!

 そんなリスクの高い場所に行って、魔物や盗賊と真正面からぶつかってしまったらどうするんだ!


 まずは自分の身の安全が大切だ。

 これがショボ男のリスク管理術だ。

 ちょっとミスしたって、生きてさえいればミスを取り返すチャンスもまた廻ってくるというもんだ。


 ならばどうするか。

 それは……


 ニワトリの気持ちになるために、鶏小屋の中で一緒に夜を明かすのだ!


 これならば建物の中だからリスクも少ないし、鶏小屋を守っていたと言えばちょっとはメンツも立つだろう。

 なんてズルいんだ、俺。

 ショボ男が人間社会の荒波を泳いでいくには、こういう手も積極的に使っていかないとすぐに飲み込まれてしまう。


 というわけで、鶏小屋の中でも最もリスクが少なそうな、真ん中の小屋に潜伏するとしますか。


 おじゃましまーす。

 俺は怪しい人じゃないですよー。

 音を立てないようにこっそりと小屋の中へと滑り込む。


 ニワトリさんは思い思いの場所で寝ているようだ。

 俺が入ってきても騒ぐことなく、じっと動かない。


 俺も空いているスペースで休むとするかな。

 ニワトリがいない場所を選んで座り込む。


 起きてる時のニワトリは目がギョロっとしててちょっと怖いけど、寝てる時は結構かわいいな。

 羽毛がもふもふしてそうだし、囲まれて寝てみたいかも。


 それにしてもニワトリと俺の間の距離が遠いな。

 確かに俺が空いているスペースを探したわけなんだが。

 ニワトリってあんなに集団でかたまって寝るものなのか?


 かたまっているのがおかしいのか、俺がいるスペースが空いていることがおかしいのか、何もおかしくないのか。

 もしかして俺がいるスペースになにやらよくないものがあるのだろうか?

 まさか毒とか……?


 一度気になると気になってしょうがない。

 それまで何も気にならなかったのに、隣のおじさんのズボンのチャックが開いてることに気付いたとたん、もうそこにしか意識がいかなくなってしまう。

 人間そういう風にできているのだ。


 怖くなってきたので、ニワトリさん、そっちに行ってもいいですか?

 俺はそーっとニワトリの方に近づく。


 あれっ?

 なんかあのニワトリおかしくね?


 集まって寝ているニワトリの中心にいるニワトリ、なにかおかしいような……

 明るい時にはわからなかったけど、ちょっと光ってる……?

 それに他の個体よりも少し大きいような……


『それ以上近付くな』


 え!? だ、誰ですか!?


 俺は辺りを見回すが誰もいない。


 もうホラーなんですけど!!


『お前は私の声が聞こえるようだな』


 ひぇっ!? また聞こえた!


 俺が戸惑っていると、中心にいた怪しいニワトリが前に進み出てきた。


「も、もしかして、あなたの声でしょうか……?」


『いかにも』


 に、ニワトリが、しゃべったぁぁああぁあぁーーーー!!!!






 …………ま、そういうこともあるよな。異世界だもの。


「ど、どうも。俺はあなたに危害を加える意思はありません」


 よくわからないものに対しては下手に出る。

 これ長生きするための鉄則。


『そうか。ならば私の願いを聞き届けてはくれないか?』


 ま、またお願いか……

 もうここまで来たら聞きますけども。


「願いというのは……? 俺にできることならいいのですが」


『私は少し前までこんなに意識がはっきりしていなかった。それが急にはっきりして、人の言葉もわかるようになったのだ。自分たちは卵を産むためだけに生かされ、このようなところで暮らしている。それを知って、人にお願い事をするなら卵を産まなくなるのが1番効くんじゃないかと思ったわけだ』


 そうか、卵が供給されなくなったのはそういうことだったのか。


 確かにひどいよな。

 自由を奪われ、ただただ人の為に卵を産む生活。

 そりゃあ、反抗したくもなるよな。

 "人間ども! 俺達を解放しろ!"ってな。


「そうですか。こんなところに閉じ込められて、卵を産むだけの日々はツラかったですよね」


『いや、それはいいのだ。ここは安全で安心して暮らせるし、仲間もたくさんいるので結構楽しくやっている。卵はここに泊めてもらってる宿代だと思えば安いもんだ』


 へ? そうなの?

 勝手に悲惨な生活を想像していたが、そうでもないようだ。

 まぁ、そう思うように品種改良されてきた結果かもしれないが。


「それでは、何が問題なのでしょう?」


『それが数日前からエサが粗末になったのだ。コスト削減だのなんだのと言っていたが、これはさすがに許容できない。直接言ってやりたかったが、こちらの言葉を理解できるものがいなくてな。お前が来てくれて助かった』


 なるほど。食に関することでしたか。

 食べ物の恨みは怖いというからな。

 特に動物にとっては1番重要なことだろう。


「わかりました。明日、ここの主であるコダイさんに話してみます。……というわけで、俺もここで寝させてもらってもいいですか? できればニワトリさんに囲まれて寝てみたいのですが」


『あ、あぁ、別に構わないが……』


 それでは、遠慮なく失礼しまーす!


 うーん、きもちい…………くないな、あんまり。

 もっともふもふであったかくて気持ちいいもんだと思っていたんだが。

 実際はなんかモゾモゾするし、臭いし、ほこりっぽいし、全然気持ちよくない……むしろ悪いかも……


 俺はちょっと後悔しつつ、卵問題が解決しそうだと安心しながら眠りについた。



 ―◇◇◇―

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