第5話 それはずるいよ、ふわりちゃん!
「……」
「……」
ふたりでその口座の金額を見て固まる。
私もデモトレードで1000万スタートのトレードをしたことはあるけど、リアルでそれ以上の金額がそこにはあった。
「……ふわりの口座だけでこれだけ入っているということは、ふわりの家はお金持ちなんですのね」
「今気付いたの?」
「なんとなくは思っていましたけど、今、ずしりと感じたところですわ」
「で、どうする? これあんまりいじらないほうがよくないかな……」
私の見たところ、この口座のポートフォリオは、なんというかかなりきれいだ。
もはや芸術の域。
どんな金融危機がこようともいずれはまた高値を更新するであろう優良企業を集めたもの。
配当も安定して入ってくるだろうし、完璧に守りに入っている感じだ。
成長株メインで大きく稼ごうとする私のポートフォリオとはまるで違う。
どちらがいいとかそういうものではないけど、この口座で勝負をするとか、そんなことやるべきじゃない気がする。
「ねえ、ふわりちゃん。ゲームで勝負しない? 確か株のゲームがあったはずだし」
「どうしてですの?」
「だって、触るの怖くない?」
自分で稼いだお金ならともかく、親が入れてくれたお金なんて私なら触れない。
「問題ないですわ。さっきメッセージが来てましたから」
「うん?」
ふわりちゃんは私にスマホの画面を見せる。
そこには彼女のお母様からと思われるメッセージが表示されていた。
『そこにあるお金、全部吹き飛ばすつもりであなたの好きにやりなさい』
『無くなってもまた入金してあげるから』
……。
は?
なにそれ、意味なくないですか?
お金増やすために投資するんじゃないの?
無くなったら入金って、それ投資しなくてもいいじゃない。
何か別の目的があるのだろうか。
もはや住む世界が違い過ぎる。
うわ~ん。
「で、どうしますの?」
「えっと、とりあえず50万円以内で株を買って、その損益を計算して勝負することにしよう」
「わかりましたわ」
もはやこれだけの金額を運用されていたら、いまさら全部売って50万だけ動かすなんてできないよ。
私も50万ピッタリってわけじゃないし、これならとりあえず条件を並べることはできるかな。
「それで、どうやって株を買うんですの?」
「あ、それはね」
とりあえず私はサイトでの操作方法を一通り教える。
何も難しいことはないので、それはすぐに終わった。
「簡単ですわね」
「まあね。難しいのは何を買うかだからね」
「それはどうやって選ぶんですの?」
「正解はないかな。人それぞれだし。私のやり方を教えようか?」
「そうですわね」
私は自分の銘柄選びの方法を教える。
と言っても選び方自体は別に複雑なことはない。
私のやり方は、企業の経営計画を見て、将来の利益から妥当な時価総額を計算して、現在と比べる。
そして十分な上昇余地があるのなら買う。
ただそれだけ。
「でもそれって時間がかかるんじゃありませんの? 何年も後の話をしているわけでしょう?」
「そうだね。だから期間を区切られると正直厳しいかな。でも短期売買って私はあんまり好きじゃないんだ」
「ふ~ん。でも私たちの勝負だと短期間で利益をあげないといけませんわよね」
「そうだね。私は今のやり方でやるけど」
「まあ、勝つつもりはありませんの?」
「そういうわけじゃないけど、どうせ得意じゃないやり方でやっても勝てないし」
「それはそうかもしれませんけど」
「それに私が買うとだいたい上がるからね」
「……え?」
「それで、そろそろ上がりすぎかなって思って売ると下がるんだよね」
「……え?」
「おかげで実はほとんど負けたことないんだよね」
「……何かの特殊能力ですの?」
特殊能力ではないだろうけど。
でも結果的に私の売買はけっこう短期間になっている。
さらに言うと、運よくそうやって売ってるから暴落はほとんど食らっていない。
そのおかげで私の少ない資産がここまで育ったんだけどね。
「……わかりましたわ」
「どうしたのふわりちゃん」
「ふわりは自分のやり方で勝負することにしますわ」
「ええ!? そんなの危ないよ」
「いえ、ふわりの直感がこうしないと勝てないと言ってますわ」
「直感は危ないよ、ふわりちゃん!」
「大丈夫、ふわりは負けても失うものはないし、お金はまた入金してもらえるし」
「それはずるいよ、ふわりちゃん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます