第4話 ありましたわよ、ふわりの口座
ふわりちゃんの部屋は特に変わった様子もない、ごく普通の寮の部屋だった。
別に何か期待していたわけじゃないけど、ちょっと拍子抜けしたかも。
まあ学園の寮だし、ずっと入れ替わりで使ってる部屋なんだから当たり前か。
持ち物の差はあっても、根本は同じ部屋だからね。
ここだけ大きかったり、シャンデリアがぶら下がってたりするわけではないということだ。
「さあ、さっそくやりますわよ」
「うん。パソコンはあるの? スマホでもできるけど、私はパソコン派なんだ」
「ありますわよ、ここに」
ふわりちゃんはテレビを指差していた。
「……テレビ?」
「後ろにつけてますわ」
「……おおっ」
これは超小型PCではありませんか。
実物は見たことなかったけど、本当に小さいんだなぁ。
「これ、いくらくらいするやつ?」
「20万くらいらしいですわね」
「……」
けっこう高いやつだった。
だとすると数年前のゲーミングPCくらいの性能はあるだろうか。
なんだか心がぐらぐらしてくるけど、とりあえず耐えて先に進もう。
PCを起動してもらって、私の使っている証券会社のサイトへアクセスする。
まあ、実のところ、私は親にやってもらったので口座開設の方法を知らない。
普段見ているサイトなので、それっぽいところを進んで説明を見る。
そしてそこで行き詰った。
当たり前といえばそうなんだけど、親御さんの証明とかもいるらしい。
確かに自分のこどもが知らないうちに株のトレードやってたらびっくりだもんね。
「ということみたいだよ」
「どういうことですの!? 自分だけ納得しないでくださる?」
「あ、ごめんね。私、友達いないから自分のペースで進めちゃう癖が」
「そ、そう……。そういうのじゃない気がするけど」
私はふわりちゃんに状況を説明し、親御さんに連絡を取ってもらうことにした。
ここから実際に口座を利用できるようになるまでしばらくかかるんだろうなぁ。
せっかくふわりちゃんの部屋まで来たけど、今日はここまでかなぁ。
それにしても、突然娘から証券口座開きたいとか言われるご両親の気持ちはどんなものだろうか。
でもお金持ちの家だと案外普通のことだったりするかもしれない。
私としてはもっともっとみんな株をやるべきだと思う。
この国で眠っている現金資産がどんどん株式にむかっていったら、いったいどれくらい株価を押し上げてくれるのだろうか。
私の持っている成長株も楽々10倍以上になったりするんじゃないかな。
ぐふふふふ……。
「ちょっとあなた」
「え、はいっ」
「なに気持ち悪い顔してますの? それより喜びなさい。ありましたわよ、ふわりの口座」
「へ?」
「銀行口座と一緒に証券口座も作ってたらしいですわ」
さすがお嬢様、我々のような下々の人間とは最初から環境がちがうらしい。
まあ、家族の全員が投資やトレードをやってる我が家も中々だとは思うけど。
「じゃあログインしてみようか」
「そうですわね」
ふわりちゃんがIDとパスワードを入力し、その間私は視線を外しておいた。
着替えを覗かないのと同じだと思う。
そしてPC画面に目を戻すと、私はそのまま固まってしまった。
自分ではわからないけど、他の人が見たら私の目は死んでいたことだろう。
それは仕方のないことだ。
だってその口座では、すでに2000万円以上が運用されていたのだから。
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