第2話 このふわりにできないことはないの!

「ここは投資研究会の部室です!」


 私はちょっと声を大きくして言ってしまった。


「投資研究会? そんな部活あったかしら」


 あ、しまった……。

 そういえば非公認なんだった。


 それはそうだ。

 中学生で株価なんか見てる人、そうそういるものじゃない。


「えっと、お姉ちゃんが用意してくれて……」

「何者なの、そのお姉さん……。いえ、ちょっと待ちなさいよ……」


 お嬢様はなにやら「う~ん」とうなると、やや引きつった顔でこちらを見た。


「もしかしてそのお姉さん、『大宮陽奈』って名前だったりするかしら」

「え、なんで知ってるの?」

「そう……、そうなのね……、わかったわ」


 お嬢様は立ちあがると、腕を組んでこう言った。


「今日、ふわりたちは出会わなかった。いいわね?」


 それだけ言うと、お嬢様は部屋を出て行こうとする。

 私はそれを慌てて止めた。


「待って!」

「な、なによ、気安く触らないで」


「せっかくお友達になったんだからもうちょっと一緒に……」

「はあ? ふわりたちはお友達じゃないわ。そういうの大嫌いなの。お友達ならクラスで作りなさいな」


「む、無理~」

「ちょっ、泣かないで、泣かれたらあの人が……」


 その時、お嬢様のスマホと思われるものがバイブする。

 どうやらメッセージが来ているようだった。


 そしてそれを確認したお嬢様の目が、死んだ。


 その目のまま、私は部屋の中に戻され、ふたりで並んで座る。


「……とにかく、お友達なんて無理。ふわりはそういう関係いらないの」

「……そっか」


「だからふわりの奴隷になりなさいな。それなら歓迎だわ」

「奴隷は嫌! そういうの無理だから。私は社会の奴隷になりたくないから投資を始めたんだから」


 ついでに言うと人間関係とか絶対にめんどくさいから巻き込まれたくない。

 だから将来働かなくていいように投資をしている。

 私にはこれしかないって思ったから。


「投資ね。わかったわ。それってお金が欲しいのでしょう? ふわりの奴隷になれば、ふわりの家で養ってあげるわ」

「それじゃダメなの」


「何がダメなのかしら」

「それじゃ私の求める自由は手に入らないの」


 収入を誰かに依存してしまったら、一生そこから抜けだせなくなってしまう。

 確かに楽かもしれない。


 でも自由はない。

 その人にずっと左右されてしまうことが自由なわけがない。


「これは例えばの話なんだけど、無人島でお腹をすかせている人に魚を与えるだけじゃダメなんだって」

「なぜ? 食料が手に入ったら助かるじゃない」


「それはそうだけど、それは食べたらなくなってしまうでしょ」

「まあ当たり前ね」


「そうじゃなくて、魚の釣り方・捕り方を覚えるべきなの。そうすれば自分で食料を調達することができるでしょ?」

「確かにね」


「お金も同じなの。お金をもらっても使い切ったら終わり。稼ぎ方を知ることで金銭的に自由になれるの」

「そんな心配しなくても、ふわりは奴隷の世話を放り出したりしないわ。ふわりに忠誠を誓う限りわね」


「未来のことは完全に予測なんかできないよ。何があるかわからない。何かあった時に自分のことは自分で何とかできるようにしておきたいんだ」

「……貴女、本当に中学生なの?」


「私が大人に見える?」

「見た目は小学生に見えるわ」


「が~ん」


 私ってそんなにこどもっぽく見えるの?


「うう~」

「……わかったわ」


「え? お友達になってくれるの?」

「違うわ」


「ええ~」

「投資で勝負しましょう。貴女が勝ったらお友達になってあげる」


「え?」

「ふわりが勝ったら貴女は奴隷ね」


「ええ~」

「別にやらなくてもいいのよ。さようなら」


「ああ、待って!」

「勝負する気になったのかしら」


「うん、やる。でも私、負けても奴隷にはならないから」

「はぁ? 何をわけのわからないことを」


 投資という不確実性の高いもので賭けなんてできない。

 まして勝負となったら期限付きだと思うし、それで負けたら奴隷とかリスクが高すぎる。


 こんなのそのまま乗れるわけがない。

 でもせっかくお友達ができるかのしれないチャンス。

 ここはひとつ賭けに出よう。


 今までの会話からしてこの子はきっとプライドが高い。

 絶対にバカではないけど、もしかしたら思うように誘導できるかも。


「負けるのが怖い?」

「ふわりが負けるはずないでしょう」


「だったら私が勝った時だけご褒美があっても問題ないよね」

「ふわりに勝負するメリットがないわ」


「私をお友達にしなくていいメリットがあるよ」

「……」


 さすがに苦しいか……。

 しかしお嬢様は何か考えこむと、何回か頷いてこっちを見る。


「わかったわ、ふわりが勝ったら、貴女は今後話しかけてこない、それでいいかしら」

「うん、わかった」


 よし、なんとか奴隷は回避した。

 これならまあ、失うものはとりあえずない。

 それよりこの自信、どこからくるのだろうか。


「あの、ふわりちゃん」

「ふわりちゃん!?」


「あ、ごめん、私が先に言わないとね。私は大宮香奈」

「いや、そう言うことじゃないんだけど……。まあいいわ、何」


「ふわりちゃんは株をやったことあるの?」


 私が聞くと、ふわりちゃんは胸を張って言った。


「もちろんないわ! でもこのふわりにできないことはないの!」


 すごい自信だ。

 うらやましい限りだよ。

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