第33話 夕食の誘い

「話がある?」 

 

「はい。副所長に話したい事があります」

 


 いきなり私が話がある、と言った事に不思議そうな顔をする副所長を、私は真剣な顔で見る。



「今話しをするのか?」


「それ、は……」



 姿勢を正して聞いてくる副所長に言い淀む。


 副所長と話しをしようとは考えていたけれど、どのタイミングで話そうとは考えていなかった。


 今話したら、この後の時間が気不味くなってしまうかもしれない。

 それに、いざ副所長を目の前にすると、緊張してどう話したらいいか分からなくなってしまった。



「今日の終わり……夕食を取る時に話すのはどうでしょうか?」



 いつも夕食前に私を屋敷に送り届け、帰って行く副所長を私は夕食に誘う。

 

 夕食に誘っただけなのに、私の心臓はドキドキと高鳴っている。



 私が緊張しているのを知らない副所長は、私の誘いに驚いているようだ。


 恥ずかしくなった私は、副所長から視線を逸らして、返事を待つ。



「僕もシャーロットに話さないといけない事がある」



 副所長の言葉に顔を上げると、副所長は真剣な顔で私を見ていた。


 ジッと私を見た副所長は、顔を崩して笑って言った。



「夕食の時に話すのがいいかもしれないな」



 副所長の言葉に、私は顔をほころばせる。



「夕食はどこで取るんだ?」


「家の者に夕食を準備しておくように頼むので、私の屋敷で摂るのはどうでしょうか?」


 

 「外がよければ、レストランでも大丈夫ですが」と副所長に聞くと、「屋敷で大丈夫だ」と言った。



「では、準備をしておくように伝えておきますね」



 夕食を屋敷で摂る事になった私達は、時間を潰すために街へ出た。


 色々なお店が立ち並ぶ通りは、人通りが多い。手を繋いだり、腕を組む恋人が多くて気不味い気持ちになる。


 隣に立つ副所長を見ると、何もないように歩いていて、私だけが意識をしているみたいで、恥ずかしくなる。



「違法魔法道具の記事を読みました。捜査は解決に進みそうですか?」  


 

 この気持ちを紛らわすために、仕事の話をする。



「あぁ。捜査の人員を増やして、規制に取り掛かってはいるが、思ったより違法魔法道具の流通が多くて時間が掛かりそうだ」


「そうなんですね。私に手伝える事があるなら、教えてください。休暇はまだ残っているので」



 私の言葉に足を止めた副所長が口を開こうとすると、いつかのように私を呼ぶ声が聞こえた。



「シャーロット!!!」

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