第5話 お客様

 朝早くから出向いたため、クラーク家の屋敷を出た頃にはお昼前になっていた。


 自分の屋敷に着くまで、私は婚約破棄について考えていた。


 こんなに急に婚約破棄をするつもりはなく、手順を踏んで婚約破棄をしたかったのに。


 タイミング良く事が進まないものね…

 

 今まで私はエドワードが浮気しようと、気付かないフリをしていた。

 

 噂なら聞こえないフリをすればいい、エドワードが女性と親しげにしている所を見ても、気付かないフリをすれば良かった。

 

 でも、ゴシップ誌に載ってしまえば周知の事実になってしまう以上、気付かないフリをする事は出来ない。


 婚約は私の好きな様にすればいいと言ってくださったお父様も、流石に黙ってはいないだろう。



はぁ……



 今後どうしたらいいかと考えてたら自然と溜息が出る。


 そんな事を考えていると馬車が止まり、屋敷に着いたようだ。


 屋敷に入ると執事とメイドが出迎える。  


「シャーロットお嬢様。おかえりなさいませ」


 執事に荷物を預け、浮き足立つメイドを不思議そうに見る。


 よく見たら耳が赤くなっている。


 

「どうしたの?耳が赤いわよ?」



 風邪でもひいたのかしら?

 この季節は日中は暑くても夜に冷え込むから、薄着をしていると風邪をひいてしまうのよね。

 

 そんな事を考えていると、メイドが興奮した様に話し出した。



「お嬢様!お客様がお見えです!」


「お客様?」


 久しぶりに帰国した私に会いに来る人なんていたかしら?

 エドワードとの事もあって、この国での友人は少ないのだけど。



 そんな悲しい事を考えながら、数少ない友人の中から誰が会いに来てるのか考えていると、メイドが話を続ける。



「男性がお見えです!しかも、凄い素敵な男性です!!」



 会いに来る男性の友人なんていたかしら?

 メイドが知らない、興奮するような素敵な男性なんていないのだけど。


 考えても思い浮かばなかった私はメイドに急かされる様に、応接室に連れて行かれる。


 男性が待っている応接室にやって来た私は、部屋の前で身を整え、一息つく。


 メイドはドアをノックして、微笑みながら口を開いた。


「お客様は約束を果たしにもらいに来たと仰られていました」


「約束?」


 男性と約束をした覚えがない私は困惑していると、部屋の中から声が聞こえる。



「どうぞ」



 聞こえてきた声で誰がいるのか分かった私は、部屋の中に足を踏み入れた。

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