第3話 婚約破棄⑵
かつての私はエドワードの『僕が望んだ事じゃない』という言葉に何も言うことが出来なかった。
婚約者の浮気に悩まされる事も、エドワードのことで女子生徒に陰口を言われるのも、私が望んだ事ではなかったのに。
でも、言葉を口にすれば惨めな自分をエドワードに知られるようで嫌だった。
私達は母親同士の仲が良く、親が決めた婚約者で、幼馴染みの延長線で婚約者になっただけ。そこに友達としての愛はあれど、異性としての愛はない。
ただの幼馴染みならどれほど良かったか、エドワードに婚約を解消しようと言おうとした事は何度もあった。
でも、エドワードの亡きお母様の言葉である『シャーロットちゃんがお嫁さんになってくれたら嬉しいわ』『エドワードをよろしくね』という言葉が呪いのように私を苦しめる。
そして、エドワードの浮気と女子生徒からの陰口に耐えれなかった私は外国に留学する事を決めた。
外国に留学してもエドワードの浮気は治らなかったが、私が悩んでる事を知った両親は婚約を私の判断で破棄していいと言ってくれたお陰でエドワードの浮気を気にせずに留学する事ができた。
まさか、帰国して直ぐに婚約者の浮気をゴシップ紙で知る事になるとは思わなかっけれど……
◇◇
笑いながら怒る私を困惑した顔で見るエドワードに言葉を続ける。
「エドワードは私がどうして留学に行ったのか知ってる?」
「それは…学びたい事があったからじゃないの?」
「確かにそうだけど、国内でも十分に学べたし、学園を卒業してからでもよかったわ」
「私が外国に行ったのはあなたのせいよ。あなたのせいで私がいじめられていたの知らないでしょう?」
「いじめ、られてた……?」
私の言葉にエドワードは驚いた顔をした。
エドワードは私がいじめられてた事を本当に知らなかったみたいね。助けて欲しかったあの頃の私はもういないのに、胸が痛むのはどうしてかしら…
「どうして…どうして、相談してくれなかったの?」
「相談しようとしたわよ。でも、あなたが言ったのよ『僕が望んだ事じゃない』って。そう言われたから、エドワードに言うのは無駄だと思って留学を決めたの」
数年ぶりの真実を知って、エドワードは驚いているけれど、学園時代も今も自分の行動で何が起きるか分からないのは変わっていないらしい。
「エドワード、あなたは今も昔も自分の行動に自覚を持つべきよ。未婚の男女が勘違いされるような場所で会うのは控えないといけないし、あなたは婚約者がいる身でしょう?それに、経済省長官子息であり、職員のあなたは令嬢とはいえ、関係者との私的な交友をするべきではないわ。これは、婚約者でもあり、幼馴染みとしての最後の忠告よ」
婚約者として、そして幼馴染みとして最後の助言だった。
「この事についてアマン卿は何と?」
私の言葉に俯いたまま沈黙していたエドワードから発せられた言葉は、私の父についてだった。
「お父様は婚約については私の好きなようにするように言われているわ。ゴシップ誌については…快くは思っていないでしょうね」
項垂れるエドワードを置いて、私は帰る準備を整える。
テーブルに婚約破棄の書類を置いて席を立った。
「この資料にサインをして屋敷に送ってちょうだい。なるべく早くに送ってくれるとありがたいわ」
「待ってくれシャーリー。こんな事で僕達の関係が終わってしまうのか?」
扉に向かう私をエドワードが慌てて引き止める。
"こんな事"ですって?
エドワードにとっては"こんな事"でも、私には長年苦しめられしきた事なのに。
エドワードは最後まで私を傷付けたいらしい。
「勘違いして欲しくないのだけど、婚約破棄は前から考えていた事なの。この記事はきっかけに過ぎないわ」
言うつもりがなかった言葉が毒となって口から出てくる。
「あなたが浮気をするたびに、私は惨めな思いをして来たわ。婚約者から愛されない女なんて言われたけど、気にしないで、これからはただの"幼馴染み"に戻るだけだから」
エドワードの傷付いた顔を見ても私は口を止める事が出来なかった。
これだけ言うと幼馴染としての関係も終わってしまいそうだが、「さようなら」と言って今度こそ私は部屋を後にする。
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