『脱獄』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
「囚人番号A-35号」
伊勢崎が看守に呼ばれ入らされたのは小汚ない牢屋。
その牢屋にはあと米長という男がいた。
話ベタなのかあまり喋らずつまらないやつだった。
投獄されてから一週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎ、もう一年になろうとしたとき
脱獄という言葉が頭によぎりそれを実行しようとした。
看守はなぜかこの刑務所に連れてこられたとき以来会ってはいなくそれどころか米長と自分以外の人間さえいないのか刑務所内は静かなものである。
連れてこられたときは目隠しをされ連れてこられたのでここがどこで、どんな構造でとかそういう細かいことはわからない。
食事、排泄などの生活に必要なすべてはこの牢屋の中で行われる。
牢屋はおよそ20畳ほどの広さでメッキ加工されたような銀色の壁に高い天井が遥か彼方まで続いている。
食事は時間になると壁に備え付けられた小さな搬入口から運ばれる。
脱獄すると米長に言うと米長は興味なさげに
「勝手にしろおれはいい」
設備は見た目より単純らしくドアはキーピックで簡単に開いた。
廊下も牢屋同様に銀色でまるで銀紙を貼ったようにキラキラと輝いている。
注意しながら行くが誰にも会わないし、声すらしない。自分たちが閉じ込められていた牢屋以外には部屋らしきものは見当たらない。
どれくらい歩いただろうか。時計はないので時間は定かではないが一時間くらい歩いたときに続いていた廊下は終わり廊下の先の正面にひとつのドアがあった。
伊勢崎はドアを開けた。
ドアを開けると中は真っ暗で何も見えない。どうしたことかと戸惑っていると
急に明るくなった。明るくなったと同時に全面ガラス張りの部屋だとわかった。
ガラスの向こうには宇宙の闇が広がっていた。
突如、背後から聞き覚えのある声がした。
「A-35号」
振り向くと米長がいた。
米長は自分は俺の監視役で機械なんだという。
「ただ、死ぬまでお前はここを出られない。そのかわり食事や衣服には困らない」
米長の言葉が終わると伊勢崎は腰が砕けたようにその場にへたりこみくるったようにいつまでも笑い続けた。
ただガラスの向こうには感情のない宇宙の闇が始まりも終わりもなく広がっているだけだった。
『脱獄』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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