小説書こうぜ!でも手が止まる!

紅茶時間

第1話 はじまりはじまり!!

「なぁ、石堂!おいら、小説書きたい!」

 それは学校が春休み期間中であった時に起きた出来事。諸事情で学校の図書室にやってきていたオレ【石堂久遠いしどうくおん】と急にやりたいことを言ってきた悪友【麻倉千夏あさくらちなつ】。

 何を思って言ったのか、よくわからないがとりあえずオレから言えることは1つ。

「分かった。とりあえず、救急車を呼ぼう。あぁ、それよりも先に保健室の先生に連絡しておかないといけないか…」

「…何言ってんだよ?久遠?おいらはどこも悪いとこはないぞ…?」

「いや、だいぶ重症だ。病院行かないとやばいぞ」

 首を傾げている麻倉を横目にオレは、スマホから救急車の手配をする。

「待て待て待て!!ほんっとうにおいらはなんも悪くないから救急車呼ぼうとしないで!!」

 冗談を言っていると思われたのか、オレの行動を急いで止める麻倉。だけど、時は既に遅し。オレは電話を掛けてしまったのだが…。

「…あ、間違えて110番に連絡しようとしてた…」

「何やってんだよ!?今すぐ切れよ!おいらはなんも悪い事して無いんだから!!」

 悪い事はしてないけど、変なことを言っているのは確かなんだが…。

 まぁ、こいつにそれを言っても仕方がない。

 ということでとりあえず、急いで間違い電話だということを掛けた先に伝える。

 こっぴどく怒られたのは言うまでもなく。

「にしても、なんでおいらが小説書きたいって言ったらそんな変な反応するんだよ?おいら、おかしなことはなんも言ってないぞ?」

 浅倉は真顔でオレに問う。

 まぁ、確かにいきなり救急車を呼ぶなんて行動は今まで一度もしてなかったからな。

 とはいえど、こいつとの付き合いを思い返すと、こういう行動をしないといけない気がした。

 だから、この行動の意味を浅倉に伝える。

「あぁ、そうだな。小説を書くことは悪くないが、先日まで隣町の不良校の奴らをボコボコにしてたのは何処のどなたさんだったか…見に覚えがありすぎるんじゃないか?」

「うぅ…確かにおいらはあのときは悪うございました!!でもこれとそれとは意味が違うだろー!」

 確かに、関係はない。だが、あのボコボコに人を殴った手で繊細な文章を書けるかと思えば…想像がつかない。

 だから、書くことを止める。

 そもそもこいつは、なんでこんなにも小説を書きたいんだ?しかも急すぎる話であり、どうしてオレにそんな話をするんだよ!

 訳が分からないが一応、ここは様子見ということで麻倉に色々と質問を振る。

「千夏。まずお前に1つ聞く。…書くものは決まってんのか?」

 初歩的な質問だ。これで答えられなかったら「家へ帰れ!」と言い放とう。

「んー…決まってはいるんだけど、手が止まるんだよ。ってか、おいらって文才、ゼーロー!だから読みづらくて困ってる」

 浅倉はテレビニュースの音を真似して言う。表情は真剣そのものだから、相当困っているみたいだ。ならば、オレが出来ることはただ1つ。

「つまり、オレにその小説を読んで感想をくれって言いたいのか?」

「ザッツライト!そういうことだぜ!親友!!」

 グッと親指を立てる浅倉。先程の表情はなくなり、満面の笑みを浮かべている。

 なんだ、そういうことか。それなら読んでやらなくもない。

 そう思いながら、浅倉が書いた小説というやらを貸してもらう。

 そして、オレは黙読する。


【〈プロローグ〉

  漆黒の夜に翼を広げ飛び立つ奴は悪の組織のドンであり、正義のヒーローであった。奴が現れた街は地球外生命体から守られ、平和に暮らしているとの事。だが、それは奴の夜の顔であり、昼の顔は凶悪犯罪者として街を駆け巡るのであった…。】


 話はそれで終わっていた。

 感想は…。

「…浅倉」

「ん?どうよ?おいらの力作は??」

「…とりあえず、本当に救急車呼んでいいか?やっぱり、一度は病院に診てもらった方が良いんじゃないか…?」

「えー!?どうしてそうなるんだよ!?ってか、スマホ持つの止めろよ!久遠!!」

 オレは片手にいつでも電話できるようにスマホを持つ。もちろん、今度は掛け間違えが無いように番号も先に打ってある。

 とりあえず、素直な感想を言うと…。

「何だよ、この厨ニ病的話。ヒーローなのか、悪人なのか、さっぱり分かんねぇよ」

「いや、そこが良いんだろ!読者が読みたくなるって感じがして!!」

「お前は読者の何を知って言ってんだ!!この馬鹿が!読者であるオレは読みたくなってないだろーが!!」

 あぁ…急に頭が痛くなる。こいつが真剣に考えて書いたという小説をまともな気持ちで読んだのがいけなかった。

 というか、最近はあーいった小説が流行っているのか?オレには理解が出来ないんだが…。

「んー、じゃあ仕方ない!今度は異世界転生系の話を書くとするな!そっちの方が盛り上がりそうだろ?」

 そう言って、浅倉は机にルーズリーフの紙とペンを置く。

 よほど、小説を書きたいみたいだ。どうしてそこまでして書きたいのか…よくわからない。

 だからオレは浅倉に尋ねてみる。

「…千夏、どうしてそこまで小説を書きたいんだよ?書いても後に残って恥ずかしい想いするのはお前だけだぞ?」

 浅倉はその言葉に「んー…」と悩み始める。だが、すぐに俺の顔を見て笑う。

「自分が書いてて楽しいから!ということと今書いて、10年後、20年後の自分が見直して、そういえばこのときにお前と笑い合って読んでたなーっていう思い出を作りたいから?あとは読者に読んでもらって楽しんでもらいたいから!!書く理由はおいらには沢山あるからなんとも言えないんだけどなー」

 そう言って苦笑する浅倉。

 何だよ。ちゃんとした理由があったのか。色々とふざけて書いているのかと思いきや、案外まとも過ぎる理由にオレは反論の余地もない。

 ただ、親友として言えることはこれだけ。

「…じゃあ、頑張って書き上げろよ。そしてまた、オレに読ましてくれよ」

 励ましの言葉としてオレは浅倉に声をかける。浅倉は少し驚いた表情を浮かべるがすぐに笑顔になって頷く。

「おう!いい作品を書いてやるぜ!」

 威勢の良い声が静かな図書室内に響き渡った。

 そして、オレらのはじまりが今、誕生したのであった…。



【後日談】

 馬鹿なあいつが俺の家にやって来て発した一言。

「いい作品を書くためにまずは、久遠との会話を書いて投稿したけど良いよな?」

「…良くねぇよ!馬鹿!!早く消せ!」

「え?無理…消せない…」

「はああああ!?」

 やっぱりあいつは馬鹿中の馬鹿だった。

 カクヨムさんの運営の皆さん、どうか、この話は無かったことにしてくれ。

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