ダンタリオンの手記 『人間が悪魔界に来た日』

悪魔暦千二百三十八年 五月十日午後八時七分 天気晴れ


 二時間前とんでもない事が起きた。私がこの世に生を賜ってから今まで数々の事象を目撃してきたが今回のは初めてだ。

 なんと人間がウォフ・マナフ西区に突然現れたのだ。第一発見者は友のグレモリー。人間に意識はなく、こちらの呼びかけにも反応はなかったが呼吸はあった。どうやら生きてはいるらしい。私達で話し合った結果、人間には申し訳ないが議事堂の地下牢に入れておくことにした。そして頭であるバアルに報告した。明日にもこちらに来るだろう。

 これは実に面白い出来事だ。前例のない事態に私の心は高鳴り、新たな知的探究心が湧き出てくる。

 妙なことがある。それはどうやってこちらに来たかだ。

 人間が自分の力だけで来たとは考えにくい。となると誰かの手引きにより連れてこられたと考えるのが妥当だ。でも人間界になんらかの影響を及ぼすこと、また人間界に行くことは禁止されている。一応正規のルートはあるが、手続きだけで一年はかかる。

 人間からなにかいい情報が聞ければいいが、それ以前に下等種族である人間を私達悪魔が生かしておくのかという疑問がある。

 しかし面倒なのはこの時期だ。なにも七十二柱の分裂が起こってる時じゃなくていいじゃないか。さらなる混乱を招くだけだ。

 起きたことは悔やんでも仕方ない。とりあえず私はあの人間を生かす方向へ動こう。

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