第298話 路面崩落

「武蔵君なら……良いパティシエさんに成れると、僕は思ったんだけど残念だな……」


「だけど……興味を持ったら何時でも言ってね…!」

「僕は大歓迎をするから……」


(この子は本当に、彼氏が欲しいのでは無く、ケーキ屋の後継ぎが欲しいのか?)

(だが、それをするのは、新倉洋菓子店の店主で有る“おじいさん”で有り、孫娘の今日香ちゃんがする行為では無い筈だ!)


 俺の元から去ろうとする今日香ちゃんを、俺は真面目な表情で、呼び止める様に声を掛ける。


「今日香ちゃん…。俺から一つ。質問良い?」


 俺の言葉で、歩き始めた今日香ちゃんは直ぐに振り向く。


「……質問。良いよ……」


 悲しそうな表情で言う今日香ちゃん…。頼むからそんな表情をしないでくれ!///

 だが、俺はどうしても聞きたいことが有った……


「……今日香ちゃんは俺に好意を持って、俺と接しているのだよね?」

「ケーキ屋の後継ぎ確保の為に、俺と関係を持とうとして居るのでは無いよね…?」


 俺は真面目な表情で質問をすると、今日香ちゃんも真面目な表情だが、強気の口調で言い始める!


「今まで出会った男性の中で、武蔵君が、一番僕の波長に合っていると感じる!」

「武蔵君は真面目だし、虹心ちゃん思いの男性だ!!」


「僕は決して、おじいちゃんの後継ぎ確保の為に、武蔵君に近付いた訳では無い!!」

「武蔵君にはそう聞こえてしまったけど、僕はそんなつもりでは無い!!」


「だけど……武蔵君と凄く仲が良くなれたら、僕は武蔵君にお店のことも知って貰いたいと思っている!!」

「僕が僕で居られるのは、おじいちゃんや亡くなったおばあちゃん。そして、新倉洋菓子店のお陰だからね!」


「僕は……おじいちゃんが大好きだし、新倉洋菓子店も大好き!!」

「武蔵君は良い人だけど、出来れば新倉洋菓子店を一緒に盛り上げてくれる人が、もっと大好きに成れる!!///」


「…………///」


(……どう答えろと言うのだよ。今日香!!)

(俺が良いとか言いつつ……本音を思いっきり言っているし!!///)

(やっぱり、後継ぎ問題が滅茶苦茶に絡んでいるでは無いか!!)


「そう言う事だから……武蔵君!///」

「武蔵君は凄く良い人だけど、僕が新しい人を見付ける前に……答えを出してね!///」

「その……良い答えを!!///」


『ダッ!』

『タタタタタ、―――』


 今日香ちゃんは少し頬を染めて、拗ねた表情で俺に言い終えると、走って行ってしまった!!

 今日香ちゃんは虹心と同じ様に、運動神経も良さそうだ!


 そして、ベンチに取り残される……俺。

 俺にはモテ期が訪れるけど……全く、実を付ける気配が無いな。(泣)


「……アレを、今日香ちゃんからの告白と捉えて良いのか?」

「俺がケーキ屋の後継ぎを継ぐと宣言すれば、今日香ちゃんは何から何まで、俺に捧げてくれるだろう!?」


「一方的に好かれてしまったが、俺が今日香ちゃんと関係を持ってしまうと、後継ぎ問題にも首を突っ込んでしまう……」


 俺は困った表情で、一人喋りをしながら言う。


「何処かのアドベンチャーゲームのように、ゲームを何度でもやり直すことが出来れば、今回は今日香ちゃんルートを選択出来るが、人生での恋愛ゲームは、慎重に選択を選ばなければ成らない……」

「軽はずみな行動は、必ず失敗する……二村や伊藤さんの時のように……///」


 これがゲームの世界なら、俺は今日香ちゃんと仲良く成って、俺が学園を卒園後。洋菓子専門学校に進学して、それで今日香ちゃんとHをして愛情を深めつつ……最後はお店を任せられて、其処でハッピーエンド宣言されるだろう。

 そして最後は、俺と今日香ちゃんの幸せイラストで、ゲームの終わりを向かえるだろう!?


 だが、リアル世界では卒園後。俺が洋菓子専門学校に進学して卒業後、見習いパティシエに成って、何処かのお店で修行を積んで一人前に成らないと行けない。

 一人前に成って、新倉洋菓子店を引き継いだとしても、お店を維持しなければ成らないし、それにあの場所では無く、将来性を考えれば、新天地を求めなけれ成らないだろう。


 さらに、俺と今日香ちゃんから生まれた子で、その子に店を引き継がせ無ければ成らない!!

 現実世界はアドベンチャーゲームのように、ボタンをクリックするだけでハッピーエンドは訪れない!!


「今日香ルートへの道は崩れてしまったな…!」

「俺が『覚悟』と言う、復旧作業をしない限り、今日香ルートへの道は崩落したままだ!」


 俺の恋愛人生は、本当に一直線で進めない……

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