第119話 距離が広がっていく……

「さぁ、兄ちゃん。私はそろそろ寝たいから、部屋に戻って!」

「お肌も悪くなるし、体内時計も狂ってしまう!!」

「これ以上、うだうだ言うとお母さん呼ぶよ!」


 虹心は少し強めの口調で、俺に言い放つ。

 虹心は真面目だから、規則正しい生活をしているのだろう。


(肌や体内時計って、虹心の体は何歳だよ!?)

(見かけは子ども体型でも、中身は50代ですか!??)


「分かった、分かった。自分の部屋に戻るよ。虹心…」


 俺は残念な表情で言って、クッションから立ち上がる。

 俺は虹心と兄妹愛を感じる、スキンシップを取りたかったのに……

 俺は表情を穏やかな表情に変えて、虹心に就寝の挨拶をする。


「じゃあ、お休み。虹心!」


「うん!」

「兄ちゃんも、お休み~~♪」


 さっきは厳しい口調で俺に言った割に、虹心は笑顔で挨拶を返した?

 あいつの考えている事は、本当に良く判らん!!

 俺は虹心の部屋から自室に戻る。


(俺が虹心を意識し始めた事によって、虹心は逆に警戒し始めたか…)

(それが……普通だわな!)

(あの時(※)の虹心が、異常だったと考えるのが普通だわな!!)


 (※)第18話から第23話を参照


 俺だって実の妹を、恋人関係に発展させるのは、倫理に反していると感じる。

 今までは微塵も思わなかったのに、伊藤さんを意識するように成ってからは、虹心も意識してしまう様に成ってしまった。


(伊藤さんと恋人関係に成るのが、一番の理想だが……)


 伊藤さんと虹心を比較すれば、伊藤さんが圧勝で有るだろう?

 それに結婚だって出来る。

 虹心はあくまで、伊藤さんの下位互換で有る!?


「俺も、そろそろ寝るか…。明日も学園だし」


 俺は明日の事をぼんやりと考えながら、その日は眠りについた……


 ☆


 翌日も、普通に学園へ行く。

 その日も、俺一人で学園に向かう。


 俺が虹心を誘うのも、何だか変だし、虹心も付いて来る気配は無かった。

 元々、ずっと別行動で通学をしていたのだから今更、虹心と一緒に通学するのは俺も恥ずかしいし、虹心もマイペースを崩したく無いのかも知れない?


 何時も通りの時間に、俺は教室に入るが、二村さんは相変わらず俺を無視してくれて、今朝は松田や陽キャラグループ達。更に一緒に居るDQN女子達の会話を、本当に楽しみ始めていた!!

 伊藤さんの言う通り、順応性は良いのかも知れない……


(何だか、今までの二村さんとは違うな……)

(伊藤さんと縁を切ったことで、間違った意味で一歩成長したか!?)


 俺は伊藤さんとの約束を守るため、自席から澄ました表情で、それを遠くから眺めている。

 今の俺は、それしか出来ない……

 二村さんが嫌がっているならまだしも、自ら進んで行っているのだから、俺が口を挟むことでは無い。


 今の所……。二村さんに、目に見えた変化は無さそうだが、松田が二村さんにデレデレする姿を面白く無さそうに見る、DQN女子の姿が有った!

 表面上では会話を楽しんでいるが、二村さんが見ていない所では、嫌悪な表情を見せていた!


(あのDQN女の名前は……確か、古賀だったよな?)

(古賀は松田に、好意を寄せているのか??)


(これが悪化すれば……二村さんは、古賀を筆頭にするDQN女子達から、苛めを受ける可能性が有る訳か……)

(この辺も、伊藤さんに報告だな…!)


 二村さんの行動を詳細に調べる気は無いが、俺はスマートフォンのメモ帳機能を使いメモ入力をして置く。うっかり忘れないためだ。


(そろそろ、朝のHRが始まるな…)

(午前中は二村さんの監視に徹底して、昼休憩時に伊藤さんへ連絡を取るか?)


 俺は心の中で考えを纏めて、自席から二村さんの観察を続けた……

 しばらくするとチャイムが鳴って、今日も学園の一日が始まり出す……


 ☆


 昼休憩の時間……


(かなり、不味いな……)


 何時もなら、直ぐに購買へ向かってダッシュをしているのだが、俺は自席で座って考えている。

 午前中の二村さんの行動は、普段と変わらないと言いたいけど俺の予想通り、松田がかなり二村さんを攻めているし、二村さんもかなり松田を意識している……


(二村さんが俺に対する好意が、どれだけ残っているかは不明だが、俺を見限る気なら二村さんは、短期間の内に松田と関係を深めるだろうな……)


 これは、弱りましたな……

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