第114話 妹に報告 その1

 ……


 俺が家に帰ると玄関には、父親と俺以外の靴が有った。

 母親や兄、虹心は既に帰宅していた。

 普段の時間よりかは当然遅いけど、昨日と比べれば遙かに早い。


 今日は連絡を入れなかったが、時間的に虹心から文句を言われる事は無いはずだ!?

 俺は母親に、帰宅挨拶をする為に台所へ顔を出す。


 この時間帯は、まず台所に母親は居るからだ。

 俺が台所に顔を出すと母親は当然居たが、虹心も母親と一緒に、晩ご飯の手伝いをしていた。


「母さん、虹心!」

「ただいま~~」


「武蔵、お帰り!」


「兄ちゃん。今日は早かったんだね~~!」

「お帰り~~♪」


 俺が、和やかな表情で帰宅挨拶をすると、母親・虹心が調理の手を止めて、それぞれが帰宅挨拶を元気な声で返す。

 虹心はさっきの事(伊藤)を早速、聞いてくるかと思ったが、そのまま母親の手伝いを再開させる。


(この場では聞かずに、後で聞くつもりか…)

(今晩は兄も居るから、聞いて来るとしたら夜の団らん後か、各自の部屋に戻った時以降かな…)


 俺はそう思いながら、台所から自室に向かった。

 虹心には、伊藤さんや二村さんの事を話せるが、流石に母親には相談もしたくないし、聞かれたく無かった。


 ☆


 晩ご飯と夜の団らんも問題無く過ぎて、各自が自室に戻った後。しばらくすると俺の部屋ドアがノックされる。


『コン、コン♪』


「兄ちゃん!」

「学園での相談結果が聞きたいから、私の部屋に来て!!」


 虹心はドア向こうから、陽気な口調で言う。

 やっぱり予想通りだ。

 それに、伊藤さんや二村さんの名前を出さずに“学園”と、言葉を濁して言っている。


(流石、虹心だな!)

(俺への配慮をきちんとしている!!)


「じゃあ、今から行くよ!」

「虹心!!」


 ドア向こうに居る、虹心に陽気な声で言いながら、俺は自室ドアをひらけると、サックスブルーパジャマ姿の虹心が居る。


「じゃあ、行くか。虹心!」


「うん。兄ちゃん!!」


 お互い、和やかな表情で声を掛け合い、俺は虹心と一緒に虹心の部屋に行く。


 二人で虹心の部屋に入ると、既に俺用のクッションが、カーペット上に用意されていた。

 段取りが良い、虹心で有る。


 よっぽど、今日の詳細を知りたい感じだ。

 俺は虹心が用意したクッションに座ると、虹心も自分のクッションに座って、和やかな表情で俺に話し掛ける。


「さて、兄ちゃんどうだった?♪」

「伊藤さんとの話し合いは?♪♪」


 虹心は、興味津々きょうみしんしんの表情で聞いてくる。

 嬉しい内容なら、俺も喜んで報告出来るのだが……

 俺は『しんみり』した表情で、虹心に話し始める。


「まぁ……無事に終わったと言うより、課題がたくさんだ…」

「俺の中では、満足出来る話し合いでは無かった……」


 俺の言葉が終わると、虹心は澄ました表情で聞いてくる。


「課題ですか。兄ちゃん…?」

「兄ちゃんが、二村さんと関係を断ち切る事が出来たら、伊藤さんが付き合って上げるみたいな?」


「!!」


(どうして、虹心は直ぐに答え合わせが出来るんだ!?)

(頭が良すぎるでは無く、何処かで盗み聞きしていただろ!??)


 虹心は、俺のあれだけの言葉で、解答を導き出してしまった!!

 俺の中では二村さんとの関係修復は絶望的だし、伊藤さんも決して、俺に興味が無い訳では無い。


 俺の中でも、伊藤さんとの関係を深めるべきだと、意識をし始めていた……

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