第76話 相談を始める その1

「…伊藤! 今日も熱心に勉強か!!」

「関心、関心……んっ?」


 男性教員の野太い声が、自習室内に響き渡る。

『自習準備室』で待機している教員が、本当に見回りに来た!?

 けど『ノックぐらいしろよ!』と思うが、これがおごる教員姿で有る!??


「……伊藤…?」

「その男子……特進の生徒では無いだろ?」


 男性教員が、眉をひそめながら伊藤さんに質問するが、伊藤さんは澄ました表情で答える。


「はい…」

「普通コースで、同学年の三國君と言います」


「普通二年の三國ね……」


 男性教員は呟きながら、胸ポケットから手帳を取り出して、俺の事をメモに取っている!

 俺と伊藤さんの机上には、数学・英語の教科書。更にはノートも適当に広げて有り、カモフラージュは完璧に出来ている。

 男性教員が、俺をとがめ始めないと言うことは、俺が伊藤さんに勉強を教えて貰っていると、男性教員の中では認識しているのだろう。


「三國……何て言うんだ?」


 男性教員は俺に目線を合わせて、低い口調で言うが同時に、少々睨みを利かされる!

 男性教員の中では、俺は不審者扱いなのだろう……


「三國武蔵と言います……」


「……クラスは?」


「2年7組です…」


「2年7組の三國武蔵と……はい、分かりました!」

「三國…。知っての通り。普通だけでは、この部屋は使えないからな!!」


「はい!」

「理解しています…」


 俺はそれを、素直に返事をする。

 学園(学校)内で教員に刃向かっても、碌な目には遭わない。


「自習室の時間は、18時までだから、それまでに切り上げる様に!!」


 事情聴取をする口調で言った後は、俺に警告を与えて、最後は上から目線で物事を言ってから、男性教員は教室を出て行く。


『ピシャ!』


 男性教員が遠ざかって行く音を確認してから、俺は小声で伊藤さんに話し掛ける。


「……本当に、抜き打ちで来るんだね!」


「さっき、言ったでしょ。三國君…」

「抜き打ち、有るよと…」


 伊藤さんは澄ました表情で言う。


「それは良いのだけど……教員が俺のことをメモしていたよね」

「何か、罰則でも有るの?」


 俺は少し恐れる口調で伊藤さんに聞くが、伊藤さんは表情を変えずに答える。


「大丈夫よ!」

「自習室利用者の内訳を、教員が知りたいだけだから……」


「そうなんだ。伊藤さん!」


 俺は安心して、軽いため息を吐くと……


「それで、三國君…」

「彩織と仲を、深めたいのだよね…?」


 伊藤さんは、直ぐに二村さんの話しに戻すが、本当に感情を滅多に見せない人だ。

 澄ました表情で言う……。虹心とは大違いだ!?


「そうですけど……今頃に成って…!」

「クラス内にライバルが、二人も現れたのです!(汗)」


「ライバルが二人もか……。彩織はガードを全くしていないからね!」

「本当に暢気のんきな子だわ!!」


 伊藤さんは、他人事ひとごと口調で言う。

 表情も澄ました表情のままだ…。親友でも所詮、伊藤さんの中では他人事か……

 俺は逆に感情を交えながら、伊藤さんに困りや焦りを加えた表情で話し始める。


「だけど、伊藤さん。其処が大問題なのです!!」

「それが普通のクラスメイトライバルでは無く、一人はクラスを纏めている、松田と言う奴で、もう一人は少し不良DQNが入った、中田と言う奴なんです……(汗)」


「……二人共、彩織のタイプでは無いね!」

「彩織は、本当に三國君のようなタイプが好きだから」


「!!」


 伊藤さんは澄ました表情で言うが、本当に二村さんは俺のことが好きなの!?

 俺自身が『信じられない~~!?』で有った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る