好きを好きなままで
シヨゥ
第1話
「正義のヒーローはやっぱりかっこいいな」
彼女が言う。
「こんな歳でこんなことを言うのもあれだけどね」
と付け加えてはにかんだ。特撮オタク、とレッテルを貼るにはライトな彼女の特撮好き。そのドラマと勧善懲悪という構成が分かり易くていいという。
「歳は関係ないでしょ。かっこいいものはかっこいいし、好きなものは好きだし」
「そうかな?」
「そうだよ。例えば僕はオムライスが好きだ。オムライスといえば子供が好きな料理の定番。だけれどもオムライスを僕が好きと言っちゃいけないなんてことはないだろう?」
「そうだね」
「それと同じだよ。君がヒーローをかっこいいと言うということをダメということは誰にもできなんだよ」
「そっかそっか。でも、他の人に聞かれたら恥ずかしいよね」
そう言って頬を掻く。
「確かにそれはあるかな。まあそれも大人になったってことだろうね」
そう返すと彼女は首を捻る。
「周りからの見られ方を気にしだしたってこと。きっと『ヒーロー好きの女の子』なんて思われたくないって気持ちがあるんだと思うよ」
「たしかにあるかも。嫌だね。好きなことも好きと言えないなんて」
「言えなくても思いを捨てずに生きられているからいいじゃないかな」
「えっ?」
「好きなものを好きなまま大人になれたこと。それはまっすぐ育てたっていう証明だと僕は思うな」
好きを好きなままで居続けるのは難しいと常々思っている。
「好きをごまかさない。捨てない。諦めない。そんな執着にも似たなにかを子供は持っていると思うんだ。それをごまかして、捨てて、諦めて、大人になっていく。そうならずに隠しはするけど諦めない君を僕は尊敬すらしているんだよ」
これは偽らざる僕の気持ちだ。
「だから好きになれた。これも付け加えておくよ」
「……ありがとう」
彼女呟くようにそう言う。
「君も『好き』と言うことを隠さないよね」
「僕は子供だからね。思ったことを素直に伝えたい。そう思うんだ」
「そっかそっか」
「それに思っているだけじゃ伝わらないこともあるからさ」
「なるほど。ということはお昼はオムライスだね」
「そういうこと。いいかな?」
「いいよ」
「ありがとう」
話しはここまでといった感じで彼女は立ち上がりキッチンへと向かっていく。その足取りが軽く見えるのは気のせいだろうか。
好きを好きなままで シヨゥ @Shiyoxu
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