第49話:特別なパズル
恭子さんは駅で見つけた。花音の調査通りだった。やっぱ花音はすごい。
詳しく恭子さんから話を聞きたいけれど、もはや、あのマンションすらない。結局、喫茶店に行くことになった。
4人掛けの比較的ゆっくりしたテーブルに恭子さんと向かい合わせに座った。俺の横には花音。いつかのファミレスとは席位置が違っていた。
店は落ち着いた雰囲気で、19時過ぎの喫茶店は他に客がいなかった。
駅ビル内の騒がしい店とは少し違って、コーヒーも一番安いブレンドで1杯550円の店だった。ちなみに、学食のラーメンが360円なので、俺からしたら結構な高級品と思っている。
「……」
「……」
「……あなたたち、お見合いじゃないんだから何か言いなさい」
一番無口な花音だけが発言するというバグが発生した。
上目遣いの恭子さん。後ろめたい気持ちと、恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちが交わって珍しい表情をしている。
「恭子がいなくなって、将尚は電車に飛び込もうとしていたわよ。
「え!?」
恭子さんが慌てて顔を上げた。半分嘘が入っているのは、同じことをもう二度としないように脅迫も入っているのかもしれない。
いや、その節は花音様には大変お世話になったので、恥ずかしいからその話しないでいただきたい……
「カツくん、大丈夫だったの!?」
「まぁ……」
「……ごめん」
「……うん、もういなくならないで」
「……うん」
また恭子さんが赤くなって下を向いてしまった。ちょっと嬉しかったのかもしれない。まあ、俺がなんともないと分かっているから喜んでくれたんだろうけど。
花音は俺たちの会話を黙って聞いていて、静かに紅茶を飲んでいた。
「ところで、どうしていなくなったの?」
俺は恭子さんにこれを聞かなければならなかった。
「……ごめん」
「あ、責めてるんじゃなくて、理由とかあるのかなって……」
「一つは……お金が無くなって……」
「退職金は!?」
「
「じゃあ、失業保険は?」
「ブラック企業ってだけじゃ降りなくて……」
「俺が渡したお金は?」
「あれは……」
ここで花音が黙って手を上げた。俺と恭子さんが花音に注目した。
「恭子のマンションに教科書と一緒に置いてあったから、回収して将尚の机の引き出しに入れておいたわ」
「え?そうなの?」
「何度か言ったんだけど、あなた聞いてなかったじゃない」
恭子さんのことがショックすぎて、なにも聞こえてなかったのかも……
「使ってよかったのに……」
「あんな大切なお金使えないよぉ……」
また二人とも下を向いてしまった。
「他は?」
最初に「一つは」って言ったんだ。二つ目以降があるはず。
「貧乏なアラサー独身女より、花音ちゃんと一緒の方がカツくん幸せになれると思って……ご両親、お会いしたらいい方々だったし、妹ちゃん可愛かったし、理想の家族過ぎて、私には眩しすぎて……」
弱り目に祟り目といったところか。何か変な劣等感が爆発したのかもしれない。
「この会話、
花音は若干蚊帳の外になってしまったので、つまらないらしい。凄く活躍してくれた彼女を放置してしまっては申し訳ない。
「ごめんごめん。花音、ありがとう。お前がいなかったら、恭子さんは絶対見つからなかった」
「じゃあ、約束通り、また私はカノジョという事で。よろしくね、将尚」
「は!?え!?そんな約束した!?」
急な花音の発言で驚いた。
「今度は私が元カノ!?」
恭子さんがオロオロし始めた。
「いやいやいや!俺は恭子さんと別れないよ!」
「あなたたちも、もう気付いているんでしょ?この特別なパズルに」
「「特別なパズル!?」」
変なところで恭子さんとハモってしまった。驚いて声を出しておいてなんだけど、口に出してしっくりきた感じはある。
世間一般の男女は「ベターハーフ」なんて言い方もあるみたいに、自分の片割、つまり欠けた方のピースを探す。パスルのピースは2枚だ。
俺たちは
二人だけではうまくいかない、いかなかった。つまり、パズルのピースが3枚なのだ。
俺と花音だけでは、花音が物足りない。
俺と恭子さんでは、恭子さんの劣等感(?)が爆発して蒸発してしまう。
恭子さんと花音では、バチバチにバトル。
でも、三人の時は不思議としっくり来ていたんだ。
「三人でって……こと?そんなのモラルが……」
「恭子にモラルを語られるとは思わなかったわ」
まあ、自己紹介で「性奴隷」とか言ってたしな……
「まあ、お姉さん、花音ちゃんだったら、抱ける気がする!(ぽつり)」
「やめて。そういうのじゃないから」
花音がちょっと引き気味に言った。
「新しい扉が開いちゃうかと思って……」
「将尚、あなた、恭子に普段なにしているの!?」
「いや~、普通に……」
「あれで!?」
いやいやいや!そこで恭子さんがそんなに驚かれたら、俺は異常性癖とか思われちゃうし……
「お姉さん、最近では色々できるようになっちゃって……」
いつの間にか、花音が恭子さんの横に移動して、恭子さんの話を聞いてあげてる。俺ってそんなに異常!?
「恭子、これからは私が半分肩代わりしてあげるから」
「ホント!?頼りにしていいの?花音ちゃん」
ひし、と手を取り合う美女二人。俺、悪じゃね?
「お姉さん、時々意識無くなってたみたいだし……」
「辛い感じ?」
「辛いのとは違うけど……あんなことされたら他で代わりが利かなくて……」
いや、相当人聞き悪いよ?俺ってそんなに鬼畜!?ついこの間まで童貞だった俺がすることだよ?
「……とりあえず、恭子さん体調は大丈夫なの?めちゃくちゃ顔色悪かったけど」
さっきまでは、目が死んでたし、顔色が終わってたし。俺たちと話していると、だいぶ改善されて来たみたいだけど。まあ、ちょっと話をそらしたんだけど。
「新しく入った会社が……ちょっとブラック気味で激務だったから、貧血起こして倒れちゃって……、そしたら、定時で早引きして良いって……」
「定時で早引き」とは?たった1カ月でこんなになるなんて分かり易いブラックでは!?恭子さんブラックを引くなぁ。
「まだ3か月ごとに契約更新の契約社員だし、休むことができなくて……トイレに行く暇もなくて……」
「恭子……そんな会社辞めてしまいなさい」
「でも、アラサー女の働ける会社なんて……」
恭子さんは、
「家はどうなっているの?」
「家?マンションは引き払ったし、実家の母親のところにお世話になってる感じね」
「実家でお世話?」
「あ、うちは私が家を出た後、母が引っ越して田舎に小さいところを借りたから……」
お父さんの話は出ないってことは、何か事情があるのかもしれない。
「早くお金を貯めて家を出ないと、家が狭いので母の負担が……」
「はー、私が、仕事を紹介してあげるから。住み込みの」
花音が変なことを言った。仕事紹介までできるの!?この美少女は!?
「す~み~こ~み~?」
「あら、嫌そうね。一日三食ご飯を作れば、あとは掃除や洗濯は適当でいいわ」
「それは仕事なの!?」
「給料は月10万円だけど、
「え?「食」と「住」が付いてて10万円!?美味しいかも」
「あと、美少女が一人付いてるわ」
「もしかして、それって……」
「そ、うちの家なんだけど、私、美味しいごはんが食べたいわ」
「でも、ご両親がいらっしゃるでしょ?」
「ん?私は一人暮らしだけど?」
いたよ!高校生で一人暮らし!こいつ絶対主人公だろ!
「春には、将尚も転がり込んでくる予定よ」
「「そうなの!?」」
また俺と恭子さんがハモった。そんな話は聞いたことがない。完全に初耳だ。そもそも花音が一人暮らしだという事も初めて知った。
「同じ大学でキャンパスライフでキャッキャウフフよ。カノジョの家に入り浸るに決まっているわ」
俺はどんなキャラなんだ……そういえば、花音もカノジョ宣言してた。俺は否定していないし、肯定してしまったのだろうか。父さんも母さんも琴音も花音のこと気に入ってたし……あぁ……抵抗勢力がいない!
「うわ……楽しそう……そして、ジェラシー」
「いっそのこと、恭子も受験してみたら?大学」
「え~、お金が……」
「給料天引きでいいなら貸してもいいわよ?」
「え!?……でも、アラサーだし……いや、ちょっと……」
真剣に考えてる!?
恭子さんは、実年齢より若く見えるし、化粧でケバい現役生より若く見えるかも……三人で一緒の大学生活とか夢がありすぎる。今すぐ大学に行きたくなる。
「まあ、それは追々でいいわ。今の会社辞めて家に来ない?ホワイトは保障するわよ」
「行く!ホワイト万歳!」
花音が恭子さんを雇ってしまった。そのお金はどこから出てくるのか……
なんか微妙なバランスで、絶妙なバランスの三人。一人が欠けてもうまくいかない。
明日、学校に行ったら、きっと花音は健郎&明日香と委員長に俺たちがもう一度付き合い始めた事を言うだろう。いや、言わなくても何らかの方法で伝えるだろう。
その時のニヨニヨ顔が目に浮かぶ。委員長も花音と付き合っていると言えば、満足してくれるのかもしれない。二股……というか、三人で付き合っているとは夢にも思わないだろうけど。
この変な関係は、ずっと続くのだろか。色々問題は起こりそうだ。それでも、三人で話し合って乗り越えていくのだろう。いつかの
これは、美人でエロくて巨乳なお姉さんとクールビューティーで最強チートな美少女
その物語は、今始まったばかりなのだ。
「ねえ、ところで、恭子はさっき抱きしめられていたけど、私はご褒美的なものはないのかしら?例えば、頭を撫でるとか……」
早速、前途多難そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます