第27話:夏の大三角関係
――― 頼む。誰か教えてくれ。今どういう状況なのかを!
夏休みになり、自由気ままな
話して決めている最中にちょいちょい恭子さんがLINEでメッセージを誰かに送ったり、受け取ったりして少し気になるのだけど、とにかく、行き先は決まった。
同棲している恭子さんとは
「おはよう、
「おわっ!花音!」
「斬新な挨拶ね。待ち合わせと言えば『待った?』『ううん、今来たとこ』がテンプレートじゃなくて?」
平日の朝9時の駅前に、花音がいた!目の前に花音がいた!
それも、ドチャクソ可愛い格好で花音がいた!
大きめな襟で胸元にはリボンが結ばれている。薄いグレーのスカートはヒラヒラがすごく、裾にはフリルがあしらわれていて女の子・女の子している。
かるーくロリータ・ファッションって感じ。花音の日頃のイメージからシャム猫を思い浮かべてしまう。それは、決して俺の思い通りにはならない。気高く、そして美しいイメージ。
それよりも何故、花音がここにいる!?しかも、雰囲気からデート?俺を待っていたってこと?恭子さんは!?
なんか分からないけれど、俺と花音をデートさせようとしたってことなのか!?
「あの……将尚……」
花音が指をもじもじしている。声をかけられて我に返った。色々考えてたし、すっかり見とれていた。なんならちょっと息するのを忘れてた。
「どうした?」
「どう?私服についてコメントが欲しいのだけど」
「服?そりゃぁ……可愛い服がびっくりするほど似合ってる。見とれてた」
花音がくるりと後ろを向いてしまった。俺は言い方を間違えたのか!?なんか、両掌で口の辺りを触っている?なに?吐き気?俺のコメントってそんなに絶望的なの?
耳まで真っ赤なんだけど、怒ってるの?
「ぎゃー!花音ちゃん可愛い!!」
花音のむいた方向から、恭子さんが来た。吐き気をもよおした顔(?)、怒った顔(?)の花音を真正面から見ることになった恭子さん。
その顔を見てめちゃくちゃ驚いてる。やっぱ絶望的に怒ってるとか!?
「ん。『ぎゃー』の後に『可愛い』という言葉は繋げても大丈夫だったかしら」
花音が冷静さを取り戻すと、冷静に恭子さんを揶揄った。
「なに?なに?今の花音ちゃんの顔なに!?なんであんな可愛い顔!?真っ赤になっ……むぐっ!ぐー!」
恭子さんが口を押えられて花音にどこかに連れいかれてしまった。なに気に仲が良いような気がする、この二人。俺は目の前で何が起きているのかさっぱり分からない。
恭子さんは、ゆったりとした白いシャツに小さな水玉のスカートみたいなズボン。ガバチョパンツと言ったか。
バッグはスカートの色と合っている。足にはサンダル。足の爪には真っ赤なペディキュア。
今日はブレスレットじゃなくて、黒いベルトの腕時計。相変わらずキマっている。大人・可愛い、お姉さんコーデだ。
「どう?カツくん」
恭子さんが戻ってきて、右手で首元の髪の毛を跳ね上げた。こういった仕草もキマっていて、モデルが雑誌から飛び出してきたのではないかと思ってしまう程だ。
「すごく……きれい」
「もー、やっだー、カツくん、あんまり素直だとリアクションに困るじゃなーい」
掌を反して「ちょいと」と、落語家みたいな大げさなジェスチャー。
「あ、いや、ごめん。ちょっと、余裕なかった」
「ちょっ、マジ・リアクションだと、こっちもテレるんだけど」
「「……」」
恭子さんと二人で真っ赤になって下を向いてしまった。
「コホン……私もいることを忘れないで欲しいわね」
花音が口元にグーを添える仕草で咳払いした。
「ごめん、ごめん、花音ちゃん。可愛いから許して♪」
恭子さんが両掌を合わせて謝る。
いや、だから、俺は置いてけぼりで状況が全く分からないのだけど。
「では」と恭子さんが仕切り直して、何かお言うとしていた。
「今日は、三人で遊園地に行ってしまいまーす!」
恭子さんが右手のこぶしを突き上げて、声高らかに宣言した。
「はぁ!?俺、聞いてないよ。どんな集まりなんだよ」
「うーんとね、『夏の大三角
「『夏の大三角
夏の大三角形とは、デネブ、アルタイル、ベガだったか。アニソンで覚えたし。彦星と織姫の星だったかな。
「じゃあ、『ご主人様カップルと性奴隷』?」
また出たよ、性奴隷。恭子さん性奴隷好きだなっ!そして、駅の通行人にこの会話を聞かれるのは、もう俺のストレス以外のナニモノでもない。
どこの世界に、今カノと元カノを連れて三人で遊園地デートするヤツがいるんだよ。軽く拷問だよ。
歴代アニメでもそんな回は絶対にない!花音を呼ぶ恭子さんも何考えているか全然分からないけど、のこのこやってくる花音も分からない。
この先盛り上がることもなく、気まずくなるだけだよ。まったく……
■■■1時間後・遊園地
「うひょー!」(ザバーっ)
今、コースター内に3人並んで水流コースターで大しぶきを上げながら大池に落ちたところだ。
なにこれ!?めっちゃ楽しい!めっちゃドキドキする!たのしーっっ!
誰?遊園地が楽しくないとか言ったやつ!遊園地は誰と来ても楽しいのだ。
「もー、水かかったわよ。ちょっと、お化粧直しに行ってくるわね。花音ちゃんは?」
水流コースターを降りたところで恭子さんが言った。
「そうね。私も行くわ」
「俺はそこらに座ってるよ」
危うく「ごゆっくり」と言いそうになった。トイレに行く女性にそれはデリカシーが無さ過ぎる。
水流コースターを降りたところで、みんなびしょびしょだった。女性陣はその辺り気にするだろうなぁ。
俺は歩いていたら乾くぐらいの感じ。とりあえず、そこら辺のベンチで待ってるか。待っている間にも服は乾いてしまいそうだけど。
ベンチの背もたれに寄りかかって、空を見上げた。首を左右に動かすとコキ、コキと音がした。
そう言えば、ここに来るまでの電車の中ではすごく冷や汗をかいたなぁ。
いつもの様に恭子さんは、俺の手に纏わりつく様な感じで腕を組んでいた。
それに対抗して花音も反対の手をつないできていた。いや、あなたは何してるの!?
「ちょっとぉ、カツくんは、お姉さんのカレシなんですけど?手つなぐのやめてもらえますかぁ?」
三人で電車のシートに横並びに座ったときに俺越しに花音に向かって恭子さんが苦情を言った。
「つないでないわ」
プイと反対方向を向く花音。
いやいやいや、電車に乗ってからは恋人つなぎに切り替えましたよね?あなた。
何これ?恭子さんに対する対抗心?俺が花音と手をつないだのはまだ2度目だ。
1度目は半年だけ付き合っていた頃。本当に何もせず、ほとんど会話もせず。学校から一緒に帰っただけ。
今思えば、花音はあれで楽しかったのだろうか。辛い思い出になっていなければいいのだけれど。
そして2度目は何?普通に日常でつないじゃってるし!恋人つなぎだし!手ちっちゃくて、可愛いし!
恭子さんはモデルばりにスタイルが良くて、笑顔が可愛い感じ。太陽みたいに輝いていて、すごく注目を集める。しかもエロい。さらに巨乳。これがまたさらに注目を集める。
一方、花音はクールビューティーで本当に顔が整っている。可愛い感じ。静かに、そして確実に可愛い感じで、清楚でおとなしい。
例えるなら月のよう。花音の方は一緒に歩いていると人が振りむくのが分かるレベルで美少女。
中学生くらいの男の子だと駆け戻ってきてもう一度すれ違っていくこともある程だ。それで、すれ違う時に横目に花音を見ていくのだ。
そんな注目度がカンストしているような二人を連れているだけで俺は生きた心地がしないのに、両方から手をつながれていた。
俺は普通の高校生。ちょっと心に傷を持つ程度の、普通の高校生。家出中だけど。そして、何もしなくても溢れてくる汗。
「カツくん、汗凄いよ?大丈夫?」
「今のうちに水分補給しておかないと脱水症状を起こすわよ」
片方からは、タオルで汗を拭いてくれ、片方からはペットボトルのお茶を出され。俺は何?王様なの!?
どうせ、ずっと後の伏線とかになっているんだと思うと、俺は気が気じゃなかった。
この二人何を考えているのか……だいたい二人とも頭が良すぎるんだよ。意図が分からな過ぎて俺ついていけないよ。
そんなついさっきのことを思い出していると、二人が化粧直しから戻ってきた。
「ナチュラルメイクかと思ったら、それですっぴんとか、どうなってんの花音ちゃん!こっちはアラサーなんだから、ちょっと手加減しなさいよ!この赤ちゃん肌!」
「あら、よかったの?私がお化粧したら、もう言い訳できないわよ?」
「ぐぬぅ……この美少女めぇ」
「美少女」が
なんだこの二人のこの会話。言い争っているのか、褒めているのか。仲良しか!?仲悪いのか!?俺はどのように二人に接したらいいんだよ。
■ブランコ・ウェーブ
チェーンの長いブランコに乗って、グルグル回るやつ。途中、降り上げられたり、振り下げられたり、とにかくグルグル回る。
1人乗りで、二人は俺の後ろに乗ったので、俺の視界には入らない。グルグル回るし、何故か俺は笑いが止まらなかった。
1人乗りだから、ひとりになれて気が楽になったのかなぁ?
アトラクションを降りたら「あー、おもしろかった」と二人とも言っていたが、あんまり盛り上がらなかったらしい。やっぱり、二人とも三人同時に楽しめるのがお好みらしい。
■ミラーハウス
結論から言うと、ミラーハウスはダメだ。花音がいる。あいつ鏡などに一切騙されず、最短コースでゴールしやがった。
通常ならば、鏡の無い枠と鏡のある枠の認識が曖昧になり、通れると思って、進んだら鏡にぶつかったり、逆に鏡だと思って、恐る恐る手を出したら何もない空間だったりして、錯覚を楽しむものだ。
俺たちは花音の後から着いて行くので、普通に鏡の間を通過しただけになった。1回も鏡にぶつからず、迷わずゴール。
「これのどこが面白いのか理解に苦しむわ」って言ってたので、意地悪して最短コースを進んだんじゃなくて、素で騙されない目をしているのね……
■超落下&回転コースター
4人まで横並びにそれぞれシートに固定され、足をつく場所がないジェットコースターに三人横並びで座る。
地上60mから一気に落下して、そのまま1回転するやつ。
60mって……ビルの20階から落ちるようなもの!?
左右の美女・美少女に気を取られ、ニマニマしていた俺だったが、いつの間にかシートに固定され、ゴトン、ゴトンとあり得ない角度で上に上がっている。
普通なら、遠くが見えて景色がいいなと思う程度なのだけど、60mってどうよ!?すげえ高い!しかも、足の下にはないもない。
足をつくところはないものの上ってる最中は数メートル下に板があって、地上は見えなかった。だから怖いと言ってもまあまあだった。
それが、頂上が見えて来た時が逆に恐怖。足元の目隠し板がなくなった。引くほど高い!
しかも、はるか下に地面が見える!今からあの垂直になったコースを落ちていくの!?俺が!?俺も落ちるの!?
直角に下に曲がるレールを前に、恭子さんはキャーキャー言っている。両手は上げたまま。これが最高に楽しめる姿勢らしい。
花音は、無表情。固まってるのか、余裕なのか。いつものクールビューティー・モード出たよ。
俺は、きっと血の気が引いていたと思う。だって、今からこれだよ!?
いよいよ落下。ガコンってなった。大丈夫これ!?
「きゃーーーー……あーーーー」みたいに落下の時、周囲の人の声が途切れるの怖い。その後、グルグル回っている時は俺はどこを見て、何が見えているのか全然分からなかった。
ただ、終わったときにはすごい脱力感を感じたのは分かった。
終わったあと、自分の両掌を見たら、小刻みに震えたいた。コースターから降りた時も足が震えていた。そうは言いながらも、なんとかちゃんと立てた。
それに対して、恭子さんはスキップして降りて行った。あの人どんな三半規管しているんだよ。
花音は、手が震えて、膝が笑っていて立てないでいた。俺が手を差し出すと、自然に手をとり、立ち上がってコースターを降りた。
「ありがと、
「いや……」
その後は何も言わず、黙っちゃった。もしかしたら、俺から花音の手を取ったのはこれが初めてだったかもしれない。
花音はちょっと俯いて、髪を耳にかけるような仕草を何度も繰り返した。ジェットコースターが初めてだったから、怖かったのかもしれない。
あと、やたらこちらをチラチラ見てくるんだけど、別に俺はもう一度乗ろうとは絶対に言わないぞ?真っ赤になっているのは怖かったからだろうか。すごくかわいく見える。
「ちょっとぉ。お姉さんを置いてけぼりで、二人でイチャコラしないでもらえますかぁ?」
恭子さんの半眼が痛い。俺は花音に手を貸しただけだし。花音はむこうを向いてしまった。なんだこれ。何だこの空気。
■■■
午前中だけでも、はしゃぎまくったので既にお腹が減っていた。
「そろそろ食事にしない?お姉さんお腹減ったんだけど」
「ああ、そうだな。確かに、お腹減った」
「ん」
誰も異を唱えない。連帯感あるな、俺たち。これが、元カノと今カノでなければすごく良いメンバーなんだが。
次のレストラン内で俺の知ることのないやり取りがなされる事を、俺はこの時まだ知らなかった。
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