第25話:閑話 健郎と明日香
昼休み、教室で健郎&明日香カップルは雑談していた。話題は、最近の
「ほい」とばかりに当然の様に渡し、健郎も当然の様に受け取った。将尚は昼休みふらりといなくなった。その少し前に、
「最近の将尚くんどう思う?」
「将尚?あぁ、だいぶ話しかけやすくなったな」
教室内の1つの机で前と後ろに椅子をそれぞれ置いて座っている。机にはお菓子。
とりあえず、明日香のきのこの山から開封された。
「そう!なんか肩の力が抜けたっていうかね!」
「うん、
以前、明日香は将尚に助けられたことがあった。
「クリフハンガーな」
「ハンガーノック!毎回全然違うじゃない!」
□□□
すぐに原因が思い当たった。「ハンガーノック現象」だ。ハンガーノックは、体内のエネルギーがなくなり、ガス欠を起こすような現象のことらしい。私は身長が低い分身体の体積が小さい。だから、エネルギーを蓄える量が少ないのかもしれない。こんな初心者みたいな事をやらかしてしまって超ハズイ。
トレーニングウェアなので当然食べ物は持っていない。立てなくなってきているのも問題だけど、ハンガーノックを起こしたこと自体が恥ずかしい。他の部員に見つからないように何とか寂れた公園に隠れた。
そこに丁度、登校中のクラスで見たことのある顔が通りかかった。ただ、誰とも話さない人。確か武田くん。竹下くん?竹中くんだっけ?とにかく、クラスメイトに見つかるのも恥ずかしいので、やり過ごすことにした。
「どうしたの?大丈夫?」
意外なことに、向こうから話しかけてきた。女子が公園の入り口で座り込んでいたら声はかけるか。
「あの……ハンガーノックで、何か食べ物……」
「お腹空いたの?アンパンならあるけど?食べる?」
お腹が空いたわけじゃないと弁解したいけれど、その元気もない。コクコクと頷いて差し出されたアンパンを受け取る。袋を開けてかぶりつく。何故この人は鞄にアンパンを入れていたのか?この人のお昼ご飯?色々考えたけど、まずは食べた。食べて少し時間が経てばエネルギーが充填されて普通に戻る。でも、その頃には彼はもういなかった。
着替えて部室を出ると、カレシの
「おつかれー!」
顔が見えると、健郎が
「ちょっと!気軽に頭撫でないでよ!」
「……慎重さ(身長差)はあるんだけどな」
健郎が掌を水平にして、明日香の背の高さから自分の背の高さにスライドさせた。
「うまい!」……そうでなくて。
ついさっき、ハンガーノックで危ないところをクラスの男子に助けられたことを伝えた。「マジか!?」と言って、お礼の品を買って行こうという事になり、食堂の自販機でパンとジュースを買った。
そして、一緒に教室に持って行った。まだSHRは始まるまでに少し時間がある。
「田中!朝は明日香がサンキューな」
そう言って、健郎は朝の彼の机の上に買ってきたパンとジュースを置いた。
「え?あ、あぁ、いや。いいよ」
最初何が起きたか分からなかったみたい。でも、健郎の横に私がいたので、理解したみたい。色々説明しなくても健郎がカレシだと伝わったらしい。
「あと、武田」
「ん?」
「名前」
「ああ、武田!サンキューな」
武田くんが苦笑いしていた。
「武田くん、ハンガーノック恥ずかしいから陸上部には秘密にして!」
私は手を合わせて拝むようにお願いした。マジでハズイから。
「ふっ、話す友達がいないから、心配しなくていいよ」
ちょっと自嘲気味に言った。
「ぶっ、お前面白いヤツだったんだな!」
健郎が武田くんを気に入った瞬間だった。
□□□
あれが切っ掛けだった。クラスで孤立して誰ともつるまない将尚くんを、健郎が構い続けていた。そんなのもあって、3人はどんどん仲良くなって、お互いを下の名前で呼ぶようになった。
話しかけたらちゃんと返す。
でも、自分からは話しかけてこない。
ちょっと変わった人。
でも、悪い人じゃない。
後でネットで調べたけど、ハンガーノックって死ぬこともあるらしい。それ以来、鞄には常にお菓子を常備するようになった。
高2の終わりの方で、藤倉さんと何かあったみたいで、将尚くんはいよいよ誰とも話さなくなった。藤倉さんとも話さない。クラスの雰囲気も悪くなった。いつも委員長が将尚くんに文句を言っていた。将尚くんが何かしたのかな?
ここ最近?急に将尚くんの雰囲気が変わった。変わったというか戻った程度?多分、1年の時くらいになった感じかな?どこか影がある感じというか……でも、以前よりは少し明るくなった?
関係あるのか分からないけど、ここ最近の将尚くんの周りには事件が多い。期末テストでいきなり学年1位を取った!しかも、ずっと1位常連だった藤倉さんをおさえての1位。確か、それまでは、健郎と同じくらいで200位くらいだったはず。
次は、打ち上げで行ったカラオケ。藤倉さんが急に歌うのをやめたから、何事かと思ったら、いきなりみんなの前で将尚くんに告った!しかも、なんかめちゃくちゃ可愛かった!
でも、ここで疑問が沸いた。最近、将尚くんが持ってくるあのお弁当は誰が作ったの!?藤倉さん?二人でちょくちょく教室を抜け出して話している。藤倉さんが作ったキャラ弁を食べている。それってもう付き合ってるじゃない!じゃあ、なんで告白!?
色々聞いてみたいけど、聞くチャンスがない。そろそろ夏休み。夏休みに聞いてみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます