【感謝9万PV】電車飛び込みお姉さんと人間不信家出男子
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
第一章:エロ巨乳お姉さんと俺とチート元カノ
第1話:電車飛び込みお姉さん
このお姉さん電車に飛び込もうとしていた。
この出会いが俺の未来をああも変えるようになるとはこの時の俺は知りもしなかった。
■■■
俺が学校に行くつもりだったら多分、その異常に気付かなかっただろう。
月曜の駅のホームで、一人のスーツ姿の女性が吸い寄せられるようにホームを通過する特急電車に近づいていくのを。
「カツカツ」でもない。「スタスタ」でもない。あえて言うなら「ズリズリ」という感じの歩き方。右足と左足の1歩の歩幅も違っていて、授業でやった剣道の
黒髪ストレートのその女性は、特急がホームに近づくにつれ、少しずつ歩く速度を早め安全のために超えてはいけないという白線の方に近づいていた。
朝の駅のホームは、通勤・通学のラッシュの真っただ中。ホームに人は多いけれど、都会の駅のホームのように朝には人がホームを埋め尽くすようなことはない。普段からこの駅を利用している人は、次の電車の乗り口の場所を知っていて自然とそこには列ができている。
また、ホームドアが設置されているのは地下鉄だけで、こっちの私鉄の方はまだ整備が追い付いていない状態だった。
ホームから線路は見えている。特急がホームに入ってきているが、この駅は通過駅。電車は一切減速していない。そんな中、そのお姉さんはどの人の列とも違う位置にいた。
もしかしたら、俺だけがこのお姉さんの「異常」に気づいていたのかもしれない。
このお姉さん電車に飛び込もうとしていた。
俺は、駅のベンチに既に1時間以上座っていた。その間、何本も電車は通り過ぎた。何かを考えているようで、何も考えていなかったのかもしれない。駅のホームでただ一人気になったのはそのお姉さんのことだった。
たくさんの人を見ていると、一人だけ何か動きがおかしいと感じたのだ。もしかしたら、単なる勘違いかもしれない。その場合、知らない女性の腕を掴んだ男子高校生という事で事案になってしまうかもしれない。
それでも、気付いた時には、俺はベンチから立ち上がっていて、お姉さんの左腕の二の腕の辺りを掴み、その歩みを止めていた。
「あ……」
俺が二の腕を掴んだことで、お姉さんがビクッと反応した。
一瞬だけ目が合った次の瞬間にはお姉さんは逃げて行ってしまっていた。
目が合ったのはほんの一瞬。「刹那」という言葉が頭に思い浮かんだ程の一瞬だった。
それでも分かった。お姉さんは美人だった。それもかなりの美人。歳の頃なら20代半ば。ただ表情はかなり疲れていて、視線もおかしかったように思う。
ただ、走って逃げて行ったお姉さんを追いかけるほど俺には元気がなく、その場で呆然と立ち止まっていた。
しばらくして我に返った俺は、行き先がないことに気づき一旦ホームを出ることにした。それも特に決まった行き先があったわけではないが。
ホームから階段を下って連絡通路に向かう途中、
「あの……大丈夫ですか?」
お姉さんは頭を少しだけ上げて、顔は見せず髪をかき上げ、耳にかけながら答えた。
「あ、すいません。大丈夫です」
それだけ聞けば普通の親切な人は立ち去るだろう。
ただ、俺はそのお姉さんのあの時の目が忘れられず、お姉さんが座っている階段の数段下に立ったままお姉さんを見つめた。
「あの…」
そのうち、お姉さんが変だと思ったのか、顔を上げこちらを見た。
「「あ……」」
やっぱり、さっきの「飛び込みお姉さん」だった。
「さっきの……」
あえて俺は口に出した。万が一違った時に単なるナンパだと思われたくなかったので。お姉さんもなんだかばつが悪そうな顔をしていた。ただ、ホームで見た時よりも幾分目はしっかりしていたので、俺の役目は終わったのだとも思っていた。
所詮通りすがりの男子高校生だ。俺にできることはこれくらいまで。それ以上はこのお姉さんの人生だから、俺ごときに何かできるようなものではない。踵を返し階段を降りようとしている俺に後ろからお姉さんが声をかけた。
「あの……」
話しかけられたら振り返る。当たり前のことだ。足の向きは変えず、腰から上だけを捻るようにして俺は振り返った。
「よかったら……コーヒーご一緒してもらえないですか?」
言葉だけを聞けばナンパされているようにも思える。女性から声をかける場合は逆ナンだったか。俺は言葉は発せず首を縦に振ることで肯定した。
***
何の因果か、知らない大人の女性と駅のドーナツ屋でコーヒーを飲むことになった。朝のドーナツ屋は客も少なく空いているテーブルも多かった。
いや、正確には時間が午前9時近かったので、朝のラッシュは終わっていたから空席が多かったのだろう。
テーブル15卓ほどの店内は、俺とお姉さん以外は2~3人の客だけで、俺たち以外は一人客ばかりだった。きっと朝ごはんにドーナツを選んだのだろう。俺たちは一番奥の席に陣取ったので、周囲には客がいない。俺たちがよほど大きな声を出さない限り会話の内容を聞かれることはないだろう。
ちなみに、俺はレジでカフェオレを注文し、お姉さんはカフェインレス・コーヒーを注文した。会計ではお姉さんが「ここは私が……」と言って俺の分まで支払ってくれた。レジの店員から見て、スーツ姿の20代の女性と高校の制服のブレザー姿の俺はどんな客に見えていたのか……
テーブルでは「いただきます」と一言言ってからカフェオレに口を付けた。6月に入った頃と言ってもまだ暑いとまではいかず、飲み物はホットが好きな俺はホットカフェオレにしてよかったと思っていた。お姉さんはトレイの上に置いたままのカフェインレス・コーヒーに手を付けず、コーヒーの表面を見つめているようだった。
ドーナツ店の外の通路を歩く人も目に入ったが、既に学校は始まっている時間なので俺と同じ制服の人間はおらず、スーツ姿の男女が速足で歩いているのがちらほらと見えた。
「あの……ありがとうございました」
ふいに、お姉さんが言った。
俺はよそ見をしていたので少し焦ったが、やっと喋りだしてくれたのだと思い、コーヒーカップを持ったままお姉さんの方を向いた。
お姉さんは片手で頬杖をつき、もう片方の手は腕を組むように頬杖の手の二の腕の辺りに乗せられていた。
「私……とめてもらわなかったら……」
やはりと思った。お姉さんは吸い込まれるように特急電車の方に歩いて行っていた。衝動的な自殺ではないかと思ったのだ。そして、彼女自身今それを認めたようだ。
テレビか何かで見たのだけれど、自殺衝動がある人はその気持ちが持続するのはいいとこ30分間くらいで、それが過ぎると収まり冷静になるのだそうだ。
コーヒーを注文して席について……ホームにいた時から考えれば既に30分は過ぎているだろう。お姉さんも落ち着いただろうから、このあと再びくる特急を狙ったりはしないと思う。
「俺は何も気づいていませんよ。ちょっと危ないと思ったから手を貸しただけで」
自分から「気付いていない」と言った時点で、気付いていることになることは、言った後に気づいた。会話に慣れていないと思ったことをついついそのまま言ってしまうことが多い。
「優しいんですね」
俯き加減に少し笑みを浮かべてお姉さんが言った。
今更だが、スーツ姿の大人の人が高校生の俺に敬語で話している。普段からこうなのか、それとも自殺のことを負い目に感じているのか。美人だし、よく見ると胸もかなり大きいし、もっと自信をもっていいのではないかと思った。
「美人が死んだらもったいないです」
「!……美人だなんて……私なんか……」
お世辞のつもりなどないけれど、ついお世辞のような事を言ってしまった。
お姉さんは一瞬驚いていたけれど、すぐに下を向いてしまった。慌ててコーヒーカップを持とうとして「あつっ」っと言って離すあたりドジっ子属性もあるみたいで、年下の俺から見ても可愛いところがあると感じた。
「なにがあったんですか?」
別にこのお姉さんに興味があったという訳ではない。まあ、美人という事でそれなりに気になったので、そこまで含めると興味があったことにはなってしまうが、特別な恋愛感情や、恋愛に発展してほしいという気はまるでなかった。
ただ、お姉さんの目が気になった。絶望している目。なにも期待していない目。
それは、毎朝鏡を見た時に見る目に似ていて、そこが気になったのだ。
「会社では会社の人と中々うまくいかなくて、昨日はカレシの浮気が発覚して、今朝LINEで別れようと連絡が来て……何言ってるんだろ私、高校生の男の子に対して……」
自分で言っていて気づいたのかもしれない。単に彼氏に浮気されただけだ。それだけで衝動的に死のうとしていたとことだ。もちろん、本当の原因はそれだけではないのだろう。日常的にうまく行かないことが重なって自暴自棄になっていたのかもしれない。大人の世界も中々どうして、
「あ、ごめんなさい。自己紹介もしてなかったわ!私、
お姉さんが突然自己紹介を始めた。名乗られたら名乗るのが礼儀と言うものだろう。
「
「え!?桜坂高校!?頭いいのね!」
「それほどでも……」
最初の「え!?」はなんだったのか。「見た目に反して賢い学校じゃん!」という事だろうか。まあ
「あ!学校!よかったの!?遅刻じゃない!?」
「あ、いえ。いいんです……」
俺の様子が変だと思ったのか、お姉さんは覗き込むようにして聞いてきた。
「私も、会社休むけど……うちくる?」
「!」
普通の会話ならば成立しえない変な流れだ。俺は何も言っていないのに、お姉さんには俺に行き場がないことを知っているかのようなことを言った。まあ、男女が逆だったら即事案になってしまいそうだけど、男の方が誘われた場合はそうならないのは何故だろう。
「……いいんですか?」
「いいわよ?あ、でも、ちょっとだけ片付ける時間をください!5分!いや、10分だけ!できれば30分!」
両掌をこちらに向ける様なポーズでお姉さんは勝手に一人交渉を始めてしまった。俺からしてみればどこであっても「行先」ができたことが収穫だった。
家出をして学校に行かないことを決めた月曜日、俺は知らないお姉さんに連れられて、そのお姉さんの家に向かっていた。
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