第32話 お祖父様と婚約者と温泉へ
アンナ先輩の取り調べを行い、アンナ先輩は学園を退学になりとても戒律の厳しい修道院へと放り込まれた。修道院とは名ばかりの女の陰湿ないじめが繰り返される所らしくアンナ先輩は
「なんで私が修道院行きなのよ!!ふざけんじゃないわよ!!本来悪役令嬢のイサベルが放り込まれる予定なのになんでよ!!」
とあれだけのことをしておいて訳のわからないことを喚き散らしていたそうでヘルベルト様は
「どうにも頭がちょっと壊れてるみたいだね」
といっていた。
「元恋人によく言えるな」
とニルス様は呆れていたが
「恋人じゃない単なる遊び相手だ」
と言い切った。
それから学園が長期休暇の時期に入った。夏季休暇で暑くなる時期だが、ニルス様のお祖父様のアルトゥール様がこの件が片付いたことを狙い温泉地へ行きたがった。
「夏ですよお祖父様!普通は涼みに行くのではないですか!?」
「何を言う?夏だから人が居なくてイサベルちゃんも安心じゃろい?人混みが嫌いなんじゃろう?今行けば格安で泊まれるぞ?夏はほぼ稼働していない宿がゴロゴロあるからのう!」
「ちっ!」
と舌打ちするニルス様に
「お前も回復したとは言え女に刺されたのじゃろう?全く軟弱な!」
「少し油断しただけです!!」
とむきになるニルス様。透明薬のことは伏せていた。
「ニルス様…アルトゥール様も行きたがっているし私は構いません」
人が居ないのなら別に大丈夫だと思うし。
「……イサベルがいいならいいが…このジジイとは混浴するなよ!!」
と言うとアルトゥール様が
「あ、ジジイと言ったな?筋肉で締め殺そうか?ワシだって若い頃はニルス体型じゃったが鍛えてここまで強くなったのに!!」
と言うとニルス様は青ざめた。
「嫌だ!俺はお祖父様のような筋肉ダルマにはならない!!!グエ!」
とアルトゥール様に筋肉で縛られる様子に私は久しぶりにクスクスと笑う。
*
侍女のサラも連れて私はニルス様とアルトゥール様と馬車に乗り込む。
「楽しみじゃのう!!イサベルちゃん!!」
と手を握るアルトゥール様の手を何とか外そうとするニルス様、ニヤつくサラと困る私とで馬車内は混乱する。
峠に差し掛かると山賊達が馬車の前に現れ御者台の男と護衛が降り立った。
「山賊!?」
とニルス様が驚く。アルトゥール様は
「そう言えばこの辺り出るんじゃったな。忘れておったわ…。歳を取ると筋肉のことしか思い浮かばん。どれ待っておれ!」
てアルトゥール様が馬車から降りて護衛達に混じり山賊達をあっという間に千切っては投げ飛ばし縛り上げ
「お前達、そんな筋肉でワシに立ち向かってくるとかなっとらんな!もう山賊など辞めろ!」
と説教してニコニコしながらまた戻ってきて旅は再開した。
「どうじゃった?ワシの大活躍!!」
「は、はい素敵でした!」
と言うとニルス様はムッとした。
「……俺も鍛えれば…いや、ダメだ。あんな筋肉ジジイ体型にはなりたくない!」
とブツブツ言っていた。
しばらく楽しい旅が続いた。温泉地まで2日かかるので野営する為馬車を停める。
「お祖父様…この辺りは安全なんですか?」
とニルス様が確認すると地図を取り出してアルトゥール様は
「ふむ、昔はよく黒狼の群れがいたんじゃが冒険者とかが狩ってるから平気じゃろ?」
と適当にしれっと答えていた。
「なんですかそれ?生き残りがいたら厄介でしょ?」
「うるさい奴じゃのう?そんなもんパッと倒しちゃえばいい」
「……全く…一応女性達もいるのですからね!」
とニルス様が怒る。
護衛のハンさんと御者台のマルクさんがテントを張り終わりサラと私が食事を作り終えた。野営なので簡単なスープや持ってきたお肉やらで調理したものだ。私は料理はそれほどと言うか全てが普通だがサラの作る料理は結構美味しい!
マルクさんとハンさんは競うようにサラの料理を食べている。サラもモテるんだから!
「カミラ姉様は元気かしら?」
とふいに思い出す。
「イサベルのお姉さんか。そう言えば会ったことがない。どんな方なんだ?」
とニルス様が聞く。
「カミラお姉様は私とは正反対な性格で旅行が好きで家にいる事が少なく旅先で珍しい物を持って帰ってきたりします。何というかトレジャーハンターのようなものに憧れていて…」
「そうですよ?カミラ様もお美しいですがお嬢様とは真逆で体術、護身術に優れており婚約者の方とは旅先で知り合い、結婚間近ですからそろそろ家に帰ってくると思うんですけどね」
とサラが付け足す。
「たぶん…何というかニルス様より強い…かも?」
と言うとニルス様がひくっとした。
「あああ!?そんなわけあるか?俺は男だし一応あの筋肉ダルマジジイ…ではなく、お祖父様にも鍛えられたくらいだぞ?」
「全く身についとらんがな?手に血豆作ったくらいでいばるんじゃない!」
と言われニルス様はブスーとした。
「お姉様の婚約者の方とは一度帰ってきたときにお会いしました。その時はまだ婚約者じゃなくて旅で知り合った友人と紹介されたのですが…なんだかとても優しそうな方でした。ね、サラ」
「ええ、とっても気遣いができて優しくてそしてとても弱そうな方でいつもカミラ様に守っていただいているそうです」
と言う。
「その婚約者の人も大丈夫なのか?」
とニルス様が言うがまぁ凸凹な関係で成り立っているらしく私にはいいお義兄さまになりそうだった。
食事が終わると明日の為早く寝ることになりサラと私はテントへ入る。ニルス様もお祖父様とテントへ入り、後の二人は交代で火の番だ。
深夜深くなった頃御者台のお兄さんのマルクさんが悲鳴を上げた!
全員起きた。
もしかして黒狼でも出たのかとアルトゥール様は拳を打ち、ニルス様は剣を持ちテントから何事かと出てくる。護衛のハンさんも辺りを見渡す。私達はソッとテントの布を開けて外を覗いた。
「お嬢様!何かあったらサラがお守りします!」
とサラも護身用のナイフを構えた。
すると…震えているマルクさんの足元に可愛い仔犬がいた!!
「はあ?」
ニルス様が間抜けな声を出してアルトゥール様が
「なんじゃ、犬ではないか?マルクよお前…こんな仔犬に怯えて…情けないのう」
「わ、私は犬が嫌いなんですう!」
と言い。皆は仔犬と遊びだした。
そこへ大きな影が現れる。
しかし皆気付いていなかった。
「あれは!!魔物!!」
テントの中から確認した。
巨大キノコに手足が生えた魔物がこちらにヨタヨタと歩いてくる!
「あ、あれは!図鑑で見たことがあります!幻影を出して獲物を捕らえる…シュリンギというキノコの魔物で仕留めると料理の材料になります!」
と言う私にサラは驚く。
「お嬢様の知識がこんな所で…」
すると仔犬はゆらりと霧になった。
しかし…
「あれ?イサベル?どうした?こんな所に」
「イサベルちゃん?いや…君は…バルバラ!?見間違うわけも…」
「「サラさん?こ、こんな夜更けにどうして?」」
とハンさんとマルクさんもそれぞれ何かを見ている。不味い!幻影だ!!
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