第9話 婚約者の気持ちを知る
それから私は放課後になると薬を飲んで空き教室に幽霊のフリをしに行くと言う無駄な事をしなければならなくなった。
一気に放課後がだるくなった。
しかも休みは休みで公爵家のお茶会で演技をするニルス様と一緒にお祖父様の話し相手をしなくてはならないという地獄。
もうやだ。ほんと早くもっと長い時間消えていられる薬を作らないと!!
*
アンナ先輩に襲われた次の日からニルス様が頭に包帯をつけて登校したので生徒達は驚いていたし、流石のアンナ先輩も近寄らず我関せずで他の男と楽しんで避けているように思われた。
ニルス様がバラしても良かったけど彼は放課後に空き教室で
「あんなクソ女に縛られて襲われそうになったとか恥ずかしくて人に言い降らしたりできるかっ!」
と激昂していた。単なるプライドの問題だった。割とニルス様は本気で単純な騙されやすいバカなのかもしれなかった。
「おいマリア!いるんだろ?話を聞いてくれよ!」
と仕事を持ち込みながらニルス様が言う。
箒でコクリとうなづくと
「…俺の婚約者のイサベルのことなんだけど…」
と言う。
うえ?私の悪口でも言い始める気なのか?と思っていたが…眉を下げていつもの態度とは違う姿を見せた。
因みにいつもは常に上から目線で睨みつけ怒号とともに怒ってくるから正直ニルス様怖い。と私は思っている。なんか失敗しようものなら怒られるから。してないけどしたことにされたり。
『婚約者が嫌いなの?』
と書いてやると
「は?好きに決まってんだろ!?」
と言うから私はええ!!?と驚いた。待て。好きと言われたことなんかないしむしろニルス様私の事嫌いじゃない!!?
もはや訳がわからない。
「今まで夜会にも来ずに引きこもってるから学園で入学してくるあいつに一言言ってやろうと思ってたんだ!!それまで一度も会ったことなんてなかった!子供の頃の姿絵しか知らない」
とニルス様は言う。
「それでも俺は毎日その姿絵を気に入り想像してた…」
と言う意外な告白にどう反応していいか迷う。
「イサベルが遅れて入学式の部屋に入ってコソコソと後ろの方に並んだ時目が合って俺はあいつだって思った。姿絵から成長した姿を想像したものより……ずっとずっと…綺麗になってた」
とボソリと赤くなりながらニルス様は言う。
えええっ、最初からバレバレだったのか。
ていうかなんなの?この人!ならなんであんな酷いこと言ったの?私あの後吐いて大変だったのに!
「でも…俺…恥ずかしくて…式が終わったら話そうとして失敗した。頭ごなしに叱り付け心とは違う態度を取った。彼女の前に出ると恥ずかしくて反対の気持ちが出るんだ!」
えええ、ようするに天邪鬼的なやつ?
『謝ったら許してくれると思う』
とりあえず謝ってもらおうかと私はそう書いた。
しかし
「それができたら苦労しないんだ。マリア。今更遅い気もするし…イサベルの方は何も悪くないのにいつも謝ってくるんだ」
と言う。そういやめんどくさくていつも謝ってた。早く事を終わらせるために。怒りを少しでも鎮めるために。それが逆効果だったのか。
「俺は婚約破棄予定だからと言った。言ってしまった。皆の前で…。もう遅い。あいつは俺の事怖がっているし、俺が卒業と同時に婚約破棄するものだと思ってる。…どうしたらいいのかわからない」
とニルス様はしょんぼりした。
こっちもどうしたらこの捻くれ者にアドバイスしたらいいのかわからない。呆れるわ。
『暫く距離を置いたら?』
と書くとそれもニルス様は嫌がった。
「そ、それはダメだ!だってイサベルは綺麗で可愛いんだ!!他のバカ男が目を付けたらどうすんだよ!!」
と言われ流石の私も赤くなった。
そんな事思ってたとか普段の憎たらしい態度からは微塵も思いつかない。
だから毎日毎日靴箱とかに来てたのか。私が他の異性に声をかけられないよう。
なんて人だろ。
『とにかくイサベルさんも女性だし優しく声をかける努力をしてください!!』
と書いてやる。いつも怒鳴りながら話しかけるからびっくりして怖い。
『大声はダメ!!絶対!』
と書いてやる。私は私の為に書いてアドバイスするのがなんとなく変な気になりながらもこれは自分の要望を伝えるチャンスではないかとも感じた。
「う…しかし俺彼女を見ると緊張からガチガチになるのを隠す為につい大声で話しかけてしまうんだ…」
と悩むニルス様に私も悩み…
『では…猫など小動物を飼ってみるのはどうですか?その子に怖がらず話しかけてやれば練習になります!』
と書いたら
「成る程!それは思い付かなかった!マリア!ありがとう!俺は猫を飼うよ!!」
と張り切り仕事をささっと片付けると
「じゃあなマリア!!」
と出て行った。
私の透明化は解けて元に戻り誰もいないのを確認して廊下に出る。
「はぁ…態度が良くなるならいいんだけどな」
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