第20話 無事ギルドに登録出来たようです。

「そもそも冒険者ギルドに行って何の登録をすれば良いの?」


「何も分かってないのか……」


 そうすると彼は説明してくれる。ギルドで冒険者として登録しないと、依頼を受けられないから稼ぎがなくなってしまうそうだ。そして今回はパーティーを組むのでその登録もする。1人での場合とパーティーでの場合だと受けられる依頼も変わってくるそう。


「パーティーを組むのに、パーティー名を登録する必要があるんだがどうする?」


「名前を付けられるの!? それならもちろん勇者のパーティーでしょう!!」


「お前恥ずかしくないのか……? それにそんな名前を付けたら周りからは嫌な目で見られるぞ」


「周りの目なんか気にする必要ないわ。それにあなたは勇者なのでしょう? 勇者のパーティーなんかあなたしか名乗れないんだから使わなきゃ」


「……お前がそう言うなら構わないが」


 そう言って前を歩く彼だが、その横顔は少しだけ嬉しそうに見えた。その顔は年相応らしく見えて、少しホッとする。私がいる事で少しでも彼の負担を減らせたら良い。



 ◇



「ではこれでヤマモトユリさんと、『勇者のパーティー』の登録を完了しました。何か質問はございますか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 受付に出した身分証のカードを受け取る。スキル開示をすると、所属パーティーの欄に『勇者のパーティー』と追加されており嬉しくなる。


「ではこちらがギルドについての説明書です。今日は依頼を受けますか?」


「どうする?」


「簡単な物を受けて行こう。その方がお前も流れも分かるだろう」


「では初心者用の依頼は今こちらがオススメですね」


 そう言って受付が5枚ほど依頼書を見せてくれる。ダンジョン内に入って、ダンジョン内にのみで取れる薬草や、魔石の採取が多いみたいだ。納品による収入もそこまで高くない。1つの依頼で3000〜5000ルーンくらいだ。

 通常はこういった軽い依頼と合わせて自分のレベルにあった依頼を複数受けるらしい。そうでないと生活が成り立たない。今日は私の最初の依頼ということで、薬草を50個採取して3500ルーンの依頼を受けた。



 依頼を受けると、受付からブローチを渡される。例の私が作ったブローチだ。


「これは今日から配布が始まった通信機です。ダンジョンに行く際に貸し出しており、緊急時に外部との連絡がとれるようになっています。詳しくはこちらに……」


 そう言って受付が渡してくれようとするのだが、丁寧に断り自分の物を見せる。持っているのにわざわぞ借りる必要はないからね。


「自分のブローチ……? そうですか、確かあなたは落界人としての登録でしたね。これはあなたが作った物なのですね。これにより冒険者の安全もだいぶ上がると思います。みんなを代表して感謝申し上げます。ではあなた達のパーティーには貸出不要と追加で記載しておきますね」


「はい、そのようにしてもらって大丈夫です」






 ギルドを後にすると、彼にも専用のブローチを渡す。


「これをお前が作ったのか。さすが落界人だな。やるじゃないか」


「でしょ? 使い方は相手のことを思い浮かべてブローチに魔力を流して……」


 私は彼に連絡の取り方を伝えて、試しに通信をしてみる。


「もしもし、聞こえる?」


「あぁ、お前のアホっぽい声が聞こえる」


 ブチッ。思わず通信を切ってしまった。本当にそう言う所がまだ子供なんだから! ミラー様とは大違いだ。


「もうすぐ着くぞ」


 そんな私に構わずに彼は進んでいく。以前私たちが過ごしていた森の奥にそのダンジョンはあった。


「あなたがいつも昼に通っていたのはここだったのね」


「あぁ。ここのダンジョンが今のレベルにはちょうど良かったからここで鍛えていた。奥の方は強い魔物が多いが、今日の依頼は手前にあるからそんなに危険はない」



 そう言われてホッとする。やはり魔物と対峙するのはまだ怖いから安全だと聞いて安心した。魔王をやっつけると宣言しておいて情けないが、こればかりはまだ慣れないのだから仕方ないだろう。



 ◇



「やっぱり結構ジメジメしてるのね」


 ダンジョンに到着し中に入ると、そこは洞窟のようになっており、ジメジメとした空気が纏わりつく。


「まだここはマシな方だぞ。地下に行けば行くほど増してくる。そして魔物もうじゃうじゃし始めるからな。ダンジョンによっては上に進むところもあるが、残念ながらここは地下に降りていくダンジョンだ」


「今日はこの1階での採取で良いんだよね?」


「あぁ。もう少し奥の部屋にあるハーブだな。傷薬の元になるから覚えておいた方が良い」


「?? 薬も自分で作っているの? あっでもヒールも多分使えるから今度怪我した時は治してあげる」


「……お前には常識が当てはまらないんだった」


 そうため息をつかれるが、別にお金なんか取らないんだから薬をつけるよりも早いと思う。彼は説明するのを止めてしまったようで先に進んでいく。この辺りは冒険者が常に出入りしているから薬草もないし魔物も出てこないらしい。状態の良い薬草を探すために奥深く進んでいく。


「本当は下に降りた方が手っ取り早いんだが魔物と出会うかも知れないから今日は奥に行くぞ。奥までも歩いて1時間程かかるから覚悟しておけよ」


「結構広いのね。地下はどれくらいあるの」


「俺が行ったのは地下10階までだ。10階まで行った時もただ下に進むのを優先したから3時間くらいだったが、1階ずつ全体をくまなく歩くと10階までに行くのに7,8時間はかかると思うぞ」


 げっ。そんなに広いのか。ゲームのダンジョンはあっという間にボスの部屋まで辿り着いたし、かかったとしても2,3時間だったから想像してたよりも広い。


「気をつけろよ。ここから先は壁に火が灯っていないから暗くなる」


「あっそれなら任せて『ライト』」


 私がそう唱えると辺り一面が照らされて明るくなる。それを見て一瞬驚いた顔をする彼にウインクする。


「ほら、私とパーティーを組んで正解だったでしょう?」


「……流石だな。だけど気をつけろよ。光があるということは魔物にこちらの場所を知らせているようなもんだ。だから魔物がいる階ではこんな明るくしたら命取りになる。それに採取する植物によっては光が苦手なものもある。この階ではその光でも問題ないが状況によって変えるようにしてくれ」


「確かに敵に自分の居場所を知らせていたら命取りだわ……。いきなり魔物のいる階に行かなくて良かった」


「そういったことを教える為に今日はこの階に居るんだろう。ほらもうすぐ薬草の生息地帯だ」


「やっぱりさすが勇者なだけあるわね。あなたが居ればダンジョン内はとても頼りになるわ」


 流石に1人でダンジョンにずっと潜っていただけある。彼はかなりこういった場所で頼りになりそうだ。今後は彼の足を引っ張らないように気を付けなければならないと気を引き締める。そうやって褒めると少し耳を赤くしている。褒められ慣れていないのかな?


「あったぞ。ほら、そこのハート型の草が今回の依頼物だ」


「ハート型……これ?」


「バカ、その赤いハートは媚薬に使われるやつだ。こっちの普通の色した草の方だ。普通そんなドギツイ赤い草触らないだろう。見るからにドクドクしいのに」


「だってハート型って言ったから色もそうなのかと思ったのよ! そっちの説明が足りないからでしょ!!」


「ああバカには1から10まで説明しなきゃいけないみたいだな。こっちが悪かったよ」


 ……私は大人。こんなガキの言うことにいちいち反応していちゃいけない。


「ほら、早く取らないとお前のペースだと日が暮れるぞ」


 …………私は大人。


「手が止まってるぞ、早く動かせないのかよ」


 ………………ベッシ。


「いってえなっ! 何すんだよ!!」


「いちいち突っかかる言い方しないで良いでしょう! 言い方ってもんを考えなさいよ! 今後はあなた1人じゃないんだから相手のことも考えなさい」


 うん、しつけって大事よね。軽くはたくくらい許して欲しい。相手はまだ17の成長途中だし、間違ったことは教えてあげないと。


「うっせえな」


「そんな言い方ばっかしてたら、またあなたの入浴中にお邪魔するわよ!」


「何だよその脅し文句! 脅しになってないだろう!」


「だって昨日はかなり取り乱してたし、やっぱり裸を見られるのは恥ずかしいんでしょう。嫌だったらもっと優しい言い方にしなさいよね」


「……ったく何でそう色々ズレてるんだよ。分かったよ、気を付けるから二度と入浴中に来るな」


 そうして私たちは薬草を採取してダンジョンを出た。初の依頼の報酬は以前買ってもらった服の代金として全て彼に渡した。彼は要らないと言っていたけど借りはちゃんと返さないとね。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る