第19話 パーティーとして認められたみたいです。

 一つしかないベットに腰掛けて待つ。暫くすると彼が戻ってきた。


「お前他に座る場所あるだろう。何でわざわざベットなんだ」


 開口一番にそんなことを呆れたように言う。


「ベットが1番フカフカだからに決まってるじゃない。床に座らせる気? 慣れない転移で疲れてるんだから、お年寄りを労ってよ」


 そう私が告げると諦めたような死んだ目をして床に座る彼。私が彼を見下ろすような形になってしまうが仕方ない。


「それで、なんで今さら戻ってきたんだ? 別にお礼ならもう貰ってるから要らないぞ」


「お礼なんて渡してないでしょ?」


「……ああそうだったかもな。もうその話は良い」


 彼の瞳がさらに暗くなった気がするがどうしたんだろう。彼に拾ってもらったお礼ならこれから返していく予定だ。けど私が戻ってきたのはそんなことじゃない。


「王宮で魔王についてだとか、ミラー様の運命だとか聞いたわ」


「……。それで? ここに居ることとそれは無関係だろう」


「いえ、関係あるの。私は魔王を倒そうと思ってあなたの所に戻って来たの。あなたも魔王を倒すのが目的なんでしょう? たった1人で旅をしているのは、一緒に魔王を倒してくれる人が居ないからでしょう?」


「そうだと言ったら何か変わるのか? そんなのお前に1番関係ないことだ」


「関係なくない! 一緒に戦うパーティーが居ないのなら私がなってあげる! ヒーラーも魔道士も神官も全部出来るから安心なさい!」


 そう彼に宣言をする。あなたを心配してきたと言ってもきっと彼は受け入れてくれない。だったら強引に仲間になってしまうしかないだろう。


「……はっ? 魔王を倒す……? お前はバカか。そんなことお前に出来る訳ないだろう」


「出来るわよ。だって私は異世界チート持ちだもの!! なんだって出来ちゃうんだから。私が居たら100人力よ!!」


 大分大きく出てしまったが、勝手に出てしまったものは仕方ない。私は自信満々と言ったように両手を腰に当てて胸を張る。


「……プッ。何だよそれ。やっぱりお前はバカだな……。別にお前が魔王を倒す必要はどこにもないだろう」


「そんなこと言ったらあなただって別に魔王を倒す義務はないでしょう? あなたの意志で戦っているんじゃなかった? 私も同じよ。せっかくこの能力があるんだもの。あなたやミラー様が戦っているのに、私だけ見ているだけなんて出来ない性格なのよ」


「……やっぱりお前はバカだよ。もうどうなっても知らないからな」


 そう言うと手を差し出してくれる彼。固い握手を結び、ここに2人きりの勇者のパーティーが誕生した。


「……ところでお前は何で俺の入浴中に現れたんだよ。あのタイミングで現れるとか本当あり得ないだろう」


 うん、それは私も思う。久々の再会を喜ぶ間もなかったのだ。でもまさか彼がこんな宿に泊まっていると思わなかった。てっきりずっとテント生活なのかと思っていたのだ。そのことを告げると彼は不服そうに答える。


「俺だってたまには宿に泊まるんだよ。最近は割と稼げていたから久々にな。今後はこんなことないように気をつけろよ。脱衣所とかだったら本当に誤魔化しようがなかったからな。今度からは俺の剣の場所に転移するようにしろよ」


「はい、反省しています」


 今後の話をしようとしたが、もう大分遅い時間な為とりあえず今日は寝ようということになった。


「……お前今日はどこで寝るつもりだ」


「あっ……。ここで?」


 そう首をかしげてみせると一発喰らってしまった。結局彼が宿の主人に空き部屋がないか聞いてくれ、1部屋借りてくれた。翌朝に食堂で待ち合わせその日は解散となった。


 ◇


 翌日に食堂で朝食を頂く。ここの宿では朝食も宿代に込みらしい。あとで自分の宿泊代を払わなくては。この前もらった報酬があるからと言ってこの生活がどれくらい続くか分からないのだから、無駄遣いは出来ない。


「おはよう」


「あぁ」


 髪に寝癖をつけた彼がやってくる。彼は朝が弱い。そんなところも変わっていなくて、嬉しく思ってしまう。


「? 何ニヤニヤしてるんだ?」


「ううん。何でもない。早く食べましょ」


 今日のメニューはサラダに、コーンスープとハム、卵にパンだ。シンプルだけど朝ごはんとしては十分である。

 王城で豪華な食事をなるべく早く断ってきて良かった……。あそこでそんな食事に慣れていたらこんなシンプルな食事に戻らなそうだ。



「……普通に食べてるんだな。王城の食事に比べたら質素だろう」


 考えていたことを言われてビックリした。一瞬リア様見たく考えを覗かれているのかと思った。


「そんなことないよ。王城でも豪華な食事は断っていたからこんなものよ」


 ただ食材は良いものが使われていたなと思うがそのことは黙っておく。


「そうか……。早く食べろよ。食べたら冒険者ギルドに行ってお前の登録をするから」


「……!! うん!」


 彼はちゃんと私のことを仲間として認めてくれたみたいだ。嬉しくてついつい早く食べようとするとむせてしまう。


「ゴホッゴホッ」


「バカ。ほら、水飲め。別にそんなに急がなくて良い」


「ふーー。早く食べろって言ったのはそっちじゃん」


「バーーカ」


 イラっ。やっぱり彼の所に来たのは間違いだったかも知れない。私がジト目で彼のことを見ていると、そんなことを気にせず彼は朝食を食べ終える。


「じゃあ俺は先に部屋に戻ってるからじゅ準備が出来たら玄関に来いよ。今日はこの宿に戻ってくる予定だから荷物は必要最低限で良い」


「分かった」


 本当に彼は先に行ってしまった。急いで朝食を食べ終えて部屋に戻る。必要最低限と言っても私はあのバックに全部入っているので、あのバックを持っていけば準備完了だ。

 外に出掛ける前に支払いをしようと宿の受付に立ち寄る。しかし支払いは出来なかった。彼が昨日のうちに今日の滞在の分まで払ってくれていたらしい。

 玄関に出ると彼が待っているので駆け寄る。


「ごめん、宿代いくらしたの? 払うわ」


「要らない」


「そんな、あなたにお世話になってばっかりだもの。そんな訳には行かないよ」


「じゃあパーティーの結成祝いだ。気にするな」


 そう言った彼の耳が赤くなっている。彼もパーティーを組むことを喜んでくれているようで、ここは素直に彼の気持ちを受け取ることにする。


「そういうことなら……ありがとう。じゃあ冒険者ギルドに出発ね!!」


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