第14話 ミラー様とのお茶会のようです。

「どう? この庭園は気に入ってくれたかな?」


「はい、とても綺麗で良い匂いに囲まれて幸せな気分になれます」


「それは良かった。君の黒髪にはこの白い花が似合いそうだね」


 そう言うと花を一つ摘み、私の髪に挿してくれる。


「うん、イメージ通りだ。まるで君を飾る為に咲いていたみたいだ」


 うん、ミラー様が言うと何でも様になる。

 今日はミラー様に誘われて、王宮の庭園でお茶会をしている。とても美しく花が咲き誇っているのだが、私の後ろにはローラン、ミラー様の後ろにはマークが控えているので2人きりではない。そうこの会話を2人に聞かれてるのが私には居た堪れない。


「……アリガトウゴザイマス」


「うん? 調子でも悪いのかな?」


 そういうと私の顔を覗き込んでくるミラー様。綺麗なお顔が近づいてきて思わず目を閉じてしまう。


 コツン。

「うーーん熱はないみたいだね。うん? でも顔が赤くなっているよ」


「……」


 もう私の思考回路は崩壊している。何、これは何のプレーなの。私はおでこで熱を測られていたの? え、ミラー様って天然なの? まつ毛もこんなに長いんだぁ羨ましいな。


「おーーい。ユリ殿ーー?」


「……」


 目の前でひらひらと動いているこれはミラー様の手なのか? その手ですら神々しい光を放っているように見えてきた。


「マークどうしよう、ユリ殿の様子がおかしい」


「ミラー様が離れればすぐに回復すると思います」


「離れて彼女が倒れたら大変じゃないか」


「そのままでいる方がユリ殿の心臓に悪いかと思いますので、ここは大人しく離れて下さい」


「分かったよ」


「……」


「ユリ殿、ミラー様はもう近くに居ないので安心してください。はい、しっかり深呼吸して」


「スーー、ハァーー、スーー、ハァーー。やっと生き返ったぁ。いやあ危なかった。マーク様ありがとうございました」


「いえ、こちらこそすみませんでした。ミラー様には後で厳しく言っておきますので」


 マーク様のおかげでやっと落ち着いてくることが出来た。ミラー様とマーク様は二人とも26歳らしいのだが、どうやらマーク様にはミラー様も弱いみたいだ。


「落ち着いたようだし、あちらでお茶をしながら話そうか」


 そういうと庭園の端にあるテーブルに案内され、ローランがお茶と焼き菓子を出してくれる。


「それで話というのは無線機についてで良いのかな」


「はい、まず確認したいのですが、これはどういった場面で使用する予定なのですか?」


「主な使い道はダンジョンの中から外への連絡手段にしたいんだ。今までダンジョンの中で危険な目に遭っても外へ助けを呼べずに亡くなってしまう冒険者も多いんだ。だからそういった時に外部へ助けを呼ぶことが1番の目的だよ」


「私の力がそんなところでも役に立つんですね」


 何も分からず言われるまま作業をしてきたが、この力が誰かの役に立っていると思うと嬉しい。ここでこの仕事を続けるのも良いなと思ってしまう。


「そうだよ。君は気づいていないかも知れないが、今まで作ってきた魔道具だって沢山の困っている人を助けているんだ」


「ありがとうございます。そう言われるとやる気が出てきます」


「それは良かった」


「ではやはり持ち運びの邪魔にならないものが良いですね」


 うーーん持ち運びに邪魔にならなくて会話出来るもの……。そうだ! あれがあるじゃないか!!


「ミラー様バッジってありますか?」


「バッジ? 聞いたことがない言葉だな」


「うーーん、ピンがついていて服とかに着けられるものなんですけど」


「これではダメかな?」


 そう言うとミラー様は服についていたブローチを一つ取って渡してくれる。


「これで大丈夫です!! 今から少し細工をしても大丈夫ですか?」


「ああ、問題な……」


「ミラー様! そのブローチは隣国からもらった宝石を使用しているんですよ! そんな簡単に加工させないで下さい!!」


「別にそれくらいな……」


「えっ……なんてもん渡してくるんですか! やめて下さいよ!!」


 一体いくらするのか、考えただけでブローチを持っている手が震えてくる。


「こちらでお願いします」


 そう言ってマーク様が先程のブローチと引き換えに、自分がつけていたブローチを渡してくれる。


「こちらは宝石など使っていないものですからどうぞ」


「ありがとうございます」


 マーク様がいて本当に良かった。ミラー様は普段はしっかりしてるくせに時々こんな感じの暴走があると最近分かってきた。イケメンで仕事も出来るけど少しポンコツなのだ。そんなポンコツっぷりもイケメン効果でむしろプラスになってしまうのだからずるい。


「あともう一つ欲しいんですけどありますか?」


「私のを使用してください。こちらも高価なものじゃありませんので」


 そう言うとローランがもう一つブローチを渡してくれる。


「ありがとう。ではやってみます」


 ブローチを2つ手に握り、あの某アニメの少年探偵団のバッジをイメージして魔力を流していく。あとは連絡方法はこうしてっと。

 魔力を流し終えるとブローチが一瞬淡く光る。これで魔道具に変化したのだ。


「出来ました! これが小型無線機です。話したい相手を思い浮かべて魔力を流すと、相手のバッジが振動します。振動を感じたらバッジを握り魔力を流すと相手と話せるようにしました」


「おお! すごいな。さっそく試してみ良いかい?」


「はい!! じゃあミラー様はこっちをどうぞ」


「少し離れた方が良いだろう。僕がある程度離れてから君に合図を送るから話してみてくれ」


「分かりました」


 そうするとミラー様が花壇の向こうに歩いていく。暫くするとバッジに振動が来たので、魔力を流していく。


「……ミラー様聞こえますか?」


「ああ君の可愛い声が良く聞こえるよ。大成功だ」


「……」


「……あれ? 返事が聞こえないな。やっぱり壊れているのかな」


「聞こえてるので大丈夫です! 戻ってきてください!!」


「せっかく君と2人で話せているのにもったいないな。じゃあそちらに戻るよ」


 戻ってきてご満悦のミラー様と少し疲れた様子のマーク様。いったいあちらで何があったのだろうか。



「これはすごいね。すぐにも広めて行きたいけど君意外には作れないからな。どうしようか」


「とりあえず安価で壊れにくい素材のブローチを生産させましょう」


「そうだな。それで各冒険者ギルドに配布して、ダンジョンに入る冒険者への貸し出しを義務付けよう。冒険者ギルドの職員にもこれを持たせて、何かあった場合はギルドに向けてヘルプを呼ぶようにすれば冒険者の危険もかなり減ってくるだろう」


「はい、それが良いかと思います。ではいくつ必要かの概算も出さなければいけませんね」


「ああマークよろしく頼む」


 ミラー様とマーク様の2人でどんどん話が進んでいく。こうして仕事のことになるとしっかりテキパキしていてとっても素敵なんだけどな。


「こほん。お二人ともこちらにまだユリ様がいらっしゃることをお忘れではないですか?」  


 ローランが声をかけてくれてやっと2人がこちらの世界に呼び戻される。


「あっ……ごめんユリ殿」


「いえ、私はそういったことは分からないので構いません」


「ユリ殿にはブローチの必要数が確保出来たらまた依頼するよ。それまではゆっくり休んでいてくれ」


「分かりました」


「本当はもっと一緒に居たかったんだがここで失礼するよ」


 そう言うと私の髪に刺した花に触れるミラー様。


「君とここで別れるのが寂しいな。君が僕の物になってくれたら良いのに」


「ミラー様……」


「もう心は決まっているんだろう? 申し訳ないがその返事は僕の心の準備が出来てからにして欲しいな」


「……はい」


「ありがとう。じゃあね」



 私を部屋まで送り届けてくれると、別れを告げて去っていった。彼の後ろ姿が少しだけ寂しそうに見えて、ほんの少し罪悪感を感じる。だけど私はミラー様とは婚約出来ない。一国を一緒に背負っていく覚悟など一般人だった私には無理なのだ。そういうのは幼い頃からちゃんと教育された令嬢がふさわしいと思う。


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