第4話 清らか地蔵の話

 峠の分かれ道に鎮座するお地蔵様のお話です。お地蔵様でも増上慢になると怒られるというお伽噺です。



「清らか地蔵の話」






 このお話はある峠道に立つお地蔵様のお話です。




この峠道の分かれ道に鎮座するお地蔵様は「清らか地蔵」と言われていました。このお地蔵様、実は「清らか」と言うとおり、心清らかな人には道を尋ねられればちゃんとお答えしますが、悪い人には答えることがありません。




 その謂れはこうなんです。




 今より遥か昔々ですが、道に迷ったある名高い聖人様が峠の地蔵様に村への道を尋ねたところ、地蔵様は道を正しく教えてその村の人々を救い、またある時は村への道を尋ねた山賊に別の道を教えて村を危難から救い、その為、近くの村人達からは大変徳の高いお地蔵さまとして慕われました。




 その為、毎月一の日には近くの人々が集まって地蔵様に沢山の花やお供え物が供えられ、その徳をあがめるようになり、集まる村人が遥か天竺の菩薩様よりこちらの地蔵様の方がきっと徳が高いはずだというものですから、この地蔵様、まだ若くもあった為か、いつのころか増上慢になってしまい、自分でもそうかもしれないと思うようになりました。




 そんなある日、杖を突いた一人の老人が峠道を歩いて来ました。老人は遥か遠いところから歩いてきたためかふらふらとして、時折、小石に躓いたりしていました。




 その老人、何を思ったのか地蔵様の側まで来ると、地蔵様に腰かけて身体を休めました。


 驚いた地蔵様は頭を動かして怒りました。




「こら爺様!!私は清らか地蔵とこの辺りでは信仰の高い地蔵様だ。それに腰を掛けるとは何事だ!!」




 驚いた爺様は、頭を下げて謝りました。




「地蔵様、儂は薬師です。花坂村の病気の子供を助ける為にこの道を歩いていましたが、下の坂道で息がきれ、思わず腰を掛けてしまいました」




 しかし、地蔵様は怒りが収まりません。それでこの爺様に「嘘」をついて懲らしめてやろうと思いました。




「よし、爺様、花坂村に行くには左の道を行けば良い。顔も見たくない!!直ぐに立ち去れ!!」




 怒られた爺様は這う這うの体で地蔵様に言われた通りの道を歩きました。実はこれが嘘だったのです。花坂村へは右の道でした。


 爺様はついに花坂村に着かず、噂では村の子供は死んでしまったとのことです。




 それから数日後、あの峠道で腰を掛けた老人が子供の手を引いて地蔵様の前に現れました。




「何だ?爺様?」




 地蔵様が言います。するとその老人が突然怒りました。




「この馬鹿者め!!私は薬師如来だぞ。よくも私に嘘をついたな。今日は亡くなった子供の手を引いてやってきた。いいか、今からお前を懲らしめてやるぞ!!」




 そう言うや、薬師如来は地蔵の口を開いて舌を引きぬいたのです。


「お前はこの世の正しい人を導かねばならぬのに、いつの頃か増上慢になりおって。だから舌を抜き口がきけぬようにした。それだけではない、お前も仏道に連なる身であろう、是より心入れ替えて修行するようにこのけなげにも散った子供の御霊と共にこの峠道で是より万年修行せよ!!」




 そう言って子どもと地蔵の手をつなぐと、光を放って消えてゆきました。




 これはある峠道に立つ地蔵様の話です。




 もしあなたがどこかの峠道の別れで子供と口のない地蔵様の石像を見つけたら、このお伽噺を覚えておいて、どうか亡くなった子供の為に手を合わせてください。




 これはそんな地蔵様にまつわるお話です。




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