さよなら人生喫茶店

Tonny Mandalvic

人生さよなら喫茶店

 朝、何を食べたかを覚えていない。

 このような無味乾燥した毎日が続いたのと、株のデイトレで大量の利益が出たので道楽事業を起こすこととした。

 どうせあの世まで金を持っていくことはできないのだから。

 無味乾燥した毎日、変化のない日々を続けると、気が変になってしまう。

 そのせいか人生をさよならしたくなる衝動が起きてくるが、昔から人生さよならをしようとすると痛いのが嫌なのでさよならすることができない。

 それなので、勇気づけるため、人生さよならする前の場所に喫茶店を作り、人生さよならをする人向けの最後の晩餐として喫茶店を立てることとした。


 こんな店に本気で人生さよならしたい人が来るわけがないと思って営業している。

 なぜなら、本気で人生さよならをする人は、こんな店を素通りして人生さよならするだろう。

 気持ちを決めていればその時点で何も考えずGOTOHEAVENである。

 なので、普通に観光客向けの喫茶店として営業していた。

 看板には人生さよなら喫茶店としていたけどね。

 それ以前にそれほど味うまいとは思わない。シェフとしてのトレーニングを受けたわけではないし、そんなにうまくなくても、U○○の冷凍、おっと誰か来たようだ。


 今日は大雪だ。

 まあ冬場はろくに観光客も来るわけがないしこんなところに来る奴なんかいるわけがないだろうと思ったが、客が来た。

「いらっしゃいませ。」

 普通に対応する。

 当店は食券式である。

 そのほうが金でもめないからである。


 カウンターに客が座る。

 今日みたいな日は、人生さよならしたい人が来る日だ。

 人生さよならをしたい人のための最後の食事となる。

 こういうときほど気合が入るのは悪趣味だからだろうか。


 彼女はコーヒーを頼む。

 普通にコーヒーを出す。

 車が前にあるわけではない。

 最終バスは行ってしまった。

 これは人生終了者だと思い僕はうきうきしている。


 まあ、うきうきしていたって何か声をかけたりすることはないけれども。


 人生をさよならするという決断をするということは偉大だと思う。

 がけからわざと落ちたり、自分で首を縛ったりする決断をしたことに対して、安易かつ軽率な気持ちで引きとどめようとするのは浅はかだし、引き留めた後に関して、死ぬまでペットのように面倒を見るというのであれば話は別であろうが、面倒を見られないのであれば、当人の決断を妨げてはいけないと思う。



 一応、ケーキセットがあるけれどもいかがですかと勧める。

(決して金をむしり取ろうと思っているわけではないよ)


 彼女はケーキセットを頼んだ。

 おっし、最高だぞ。

 当店自慢の(出来合いのというか出来合いと言っても俺が試食してうまいと認定したのだから最高だろう。)チーズケーキの包装をとって提供する。

(当店自慢の興部町チーズケーキである。)



 彼女は適当に食べていた。


 無言の時間が流れる。

 出た瞬間金を回収したのは言うまでもない。



 ああくそ、今日も客が来ねえから、ニコ○○動画でも作るかあるいはくそ小説でも書くかでたらめ記事でも書くかと思っていたところ、彼女が不意に話をした。

「看板の外にある今から人生を終了しますといえばコーヒー一杯ただって本当ですか?」


 この店を作るときに決めたのは、先はがけなのだから、人生を終了させる覚悟のある人の最後の癒しとなってもらいたいというのが少しあるからである。

 覚悟した人間に対して、生半可な気持ちで説得するぐらいなら、気持ちよく人生を終了していただいたほうがよろしいだろう。

 後終了したいけど困っている人のために蒸留酒も大量に用意しています。

 ウォッシャー液だって売ってます。

 後別に道楽だし、くそまずいコーヒーぐらい一杯ただにしたっていいだろう。

 次の機会になんか飯食ってくれればいいし。

 なお当店自慢は地元のイチゴを使ったガレットです♡

 後はツブ貝と昆布のガレットもあるよ。まずいけど。

 何で人生終了する人に飯ただにしないかって、原価があるのと、本当に落ちるかどうかは知らないし(第一それをやったら自殺ほう助で捕まります。)死ぬことを見ないで返したらただ飯食えるスポットとして有名になって客層が悪くなったら困るからね。

 こんなサービスしているから役場の福祉課には結構怒られているが。

 能書き長くなったな、ちょうどいい文字数稼ぎだ。


「ただなのでコーヒー代を返金いたしましょうか。」

 人生終了すると決めた人間に対しては、その判断や覚悟を尊重するためかかわらないと決めている。


 後この人は終了に向かっていると思うが、死ぬ気のない人でもコーヒーただにしているので本気で死ぬ気ですかなんて聞いたら失礼だし。


「あと当店では様々なものを取り扱っておりますけれども、お使いになるものはありますか?」

 いたくない手に刺さらないなわかな、練炭は使えないか七輪ないし、彼女にはウォッシャー液がいいかな。記憶を飛ばして落ちるというのもありだな。

 この店酒類の販売免許ないからコップでの販売となるけど。

 この言葉をかけたのは、閉店後は外に出ていただくしかないからである。

 猛吹雪の中、外に出たって何もできることもない。

 このあたりには宿もない。やれることは人生終了である。

 女だから泊めてやれって。そんな下衆の極みみたいなことはしないよ。

「じゃあ縄でって、止めたりしないんですか。」

「止めるわけないじゃないですか。あなたが決断したことに対して、僕が意見を述べることはあなたに対する冒とくだと思うし、あなたが判断を覆した後で、あなたが幸せな生活を送ることができるという保証は何一つできないからです。」

「じゃあ逆に死なないので助けてくださいと言ったら。」

「じゃあ何をすればいいんですか。」

「ここに泊めるとかできるでしょう。」

「ここは宿ではないし、私の個人スペースに入って寝られる状態ではないので、宿に行けるようにタクシーを呼びます。」

 2回の居住スペースはゴミだめですからね、仕方ないね。

「タクシーを呼んでも行く金がなかったら。あと宿代もなかったら。」

「不法侵入名目で逮捕してもらって、警察に行っていただくしかないですね。」

 警察署も人生終了終了詐欺の人たちを相手にするのは大変だろうし、終了した人を相手にするのも大変だろう。

 それも込みで仕事なのかもしれないが。


「とりあえずコーヒーは一杯ただにしますよ。あともう一杯あげますよ。」

 何をどうしようもないし、何もできない。

 閉店時間がやってきた。彼女に閉店を告げ、出ていくように迫る。

 まあ踏ん切りつかないのは仕方がないし、暇だったので、なぜ死にたいのか聞くこととした。

 聞くと男に捨てられたらしい。

 よくある話だろう。

 とりあえず踏ん切りがつかなさそうなので、どちらにせよ普通に追い出したら自殺ほう助で訴えられてもつまらないから、警察を呼び相談をすることとしたが、警官も来れないらしい。

 別に殺されるような危険そうな人間でもないので、普通にほおっておくこととした。

 面倒なので、死にたくないのであれば明日までおいてやるのでの明日のバスで帰れと言い、放置しようと思ったが、金目のものをパクられたら仕方がないので、監視するしかない。

 残念ながら睡眠薬はないし、睡眠薬を与えたら傷害罪になってしまうかもしれない。よく知らんけど。

 暇だったので話を聞いてやる。

 関東らしい。

 何でここに来たのかと聞くと、狂ったカフェについてネットで見てくれたらしい。

 エゴサーチしないから知らないからね。


 とりあえず生きる気であれば、この客の職場も探してあげなければいけない。

 彼女はついに寝てしまったようだ。

 どうせ明日も客も来ないがベットの上に引き上げることとした。



 翌日、居住スペースから降りてみると、荒らされていた。

 しかしながら、この店は券売機以外何も金が入っていないので、彼女は絶望したようだった。

 もう一度、警察に電話をして、彼女を留置場へと連れて行ってもらった。

 終了しなければ彼女の人生は詰んでいたので、仕方がない。

 とりあえず自分もやられたことを言って、情状酌量の余地があることは伝えた。




 後日、留置所から彼女が帰ってきた。

 バスで帰れる時間にやってきた。

 金さえ払ってくれれば客であるし、前回は人生終了する覚悟がなく、生きるという選択肢をするうえでした行動なのだから仕方がない。


 彼女はコーヒーを飲んだ。何をするのか聞いてみたら、この街で農業の手伝いでもやるらしい。

というか、金がなければ帰ることすらままならない。

彼女の再起を願って、コーヒーをただにして渡した。

彼女はコーヒーを飲み終わった後、店を出て先へと進んでいった。















































 ENDING2


 翌朝、彼女はいなかった。

 どこへ行ってしまったのだろうかというと白々しい。

 とりあえず除雪をすることとする。

 ロータリー除雪機で除雪してやろうかと思ったが、やめてやる。

 スノーダンプで人が入れるようなレベルの除雪をしても、彼女の姿は見られない。

 どこへ消えてしまったのだろうか。

 それ以前に彼女の身元すら知らない。

 容姿もよくわからない。

 警察に届け出をしておいた。

 またもう一度、彼女がコーヒーを飲みに来てくれることを願って・・・・・







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さよなら人生喫茶店 Tonny Mandalvic @Tonny-August3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ