出会ったからには別れたい

高久高久

第1話

 公園で遊び疲れた俺は、ベンチに座った。

――遊び疲れた? いやいやおかしいだろ。公園で遊ぶとか。だって俺いい年おっさん何だけど? 通報案件になっちゃう――は? 何か目線とかおかしくね? 後手とか足とか見ると小さくなってるんだけど。組織? 黒の酒がコードネームのアイツらの毒のせい? 取引現場とか見た覚えないし、どういう事よ!?

 落ちつけ、落ち着け俺。最後の記憶は何だ? えーっとブラック企業ファッ〇ン糞会社から帰ってきて、深夜だから晩酌しつつ、休みだから徹夜覚悟で大人のゲームエロゲやって……何だろう、悲しくなってきた。俺、そんな人生で大丈夫か? 大丈夫じゃねぇよ、問題しかねぇ。

 一人ヘコんでいると、誰かが俺の前に立った気配を感じる。

 顔を上げると、そこに幼い少女幼女が居た。幼いけれど、将来美人さんになりそうねー、なんて言われそうな整った顔立ちなのだが、目を赤くして涙を流している。

 そんな少女がこちらを見ており、顔を上げた俺と目が合う――瞬間、心臓が跳ね上がる。いや、バックバクである。ドキがムネムネ、なんてボケかましてる場合じゃねぇ。心臓の鼓動が警告エマージェンシー状態を知らせている。


――俺はこの光景を知っている。何度も何度も、


――ここ、俺がプレイしていたゲームエロゲの世界じゃね?

 んで、目の前の泣いている娘、ヒロインじゃね?


 気づいたらエロゲ世界に入っていたでござる。普通なら喜ぶ状況かもしれない。何て言ってもエロゲなんだし、お約束の『ゲーム知識でヒロイン攻略確定やんけ!』となるんだろうが、このゲームはいかんのや。ジャンルに問題がある。


――このゲーム、NTR寝取られモノなんですよねぇ。目の前のヒロイン、がっつり他の男に取られます。

『ゲーム知識使えば回避出来るんじゃね?』と思うかもしれないが、ライターの趣味性癖なのか、このゲーム回避ルートが存在しないのNTR不可避である。何をどうしようと、このヒロインは主人公の行動一つで多種多様の男に性的な意味で食われてしまう。

 しかもこのゲーム、ヒロインがこの娘しかいない。更にSF少し不思議要素があり、NTRの度にこのヒロインとの出会いの場面に巻き戻る、所謂ループ物だったりする。そして主人公が救われる展開っていうのが一切ない。繰り返し地獄NTRを味わう羽目になる主人公。ライターは恨みでもあるのか。

 最悪な事にこのゲーム、純愛モノとして売り出しやがった。見た目だけならヒロインはプレイヤー俺達萌え豚に突き刺さる要素満載だったので、被害者続出。超炎上した。

 諦めきれないプレイヤーも『何とか回避ルートは無いのか!?』と徹底的にプレイしているが、結局見つかっていない。その結果『無間地獄』と呼ばれることになる。


 そんな主人公に厳しい世界。その引き金となる少女ヒロインと、俺は出会ってしまった。出会っちまった。

――やべぇよ、やべぇ。これどうする? どうすりゃこのヒロインと穏便に別れられる?

 うん、俺別にこの娘好きじゃないんだわ。あくまで見た目的な物が性癖に突き刺さった萌え豚としてブヒっただけで、キャラクターとして考えると「いや、別に」という感じだ。

 この娘、大人しい庇護欲を掻き立てられるタイプで、ゲームの主人公はそこで好きに『守護らねば』となってしまう。そしてそこを付け込まれてのNTR展開が大半なのだが、俺としては引っ込み思案というか、ちょっと押しに弱すぎて「なんだかなぁ」と冷めてしまうのだ。俺はもっと元気アクティブな、グイグイくる感じの方が好みだったりする

 しかし好みじゃない性癖に突き刺さらないからと言って、NTR展開を見せつけられてもそれはそれでダメージが無いわけじゃない『鬱だ死のう』となる。変に縁が出来て見せつけックス、なんて展開は御免だ。ヤるなら俺のいない所で、どうぞ。


 さて、穏便な別れの為に状況を整理しよう。今ヒロインが泣いているのは、迷子になったから。引っ越してきたばかりで、帰り方がわからないのだ。

 ここで本来の主人公はこの娘に一目惚れし、家を探す手伝いをしている内に仲良くなる。そこから縁が出来て、所謂幼馴染という関係になる。そして成長して他の男に寝取られる――と。

 なら『ガン無視すれば逃げればいいんじゃね?』と思うかもしれないが、そうすると今度は悪い幼女趣味の大人変態に彼女はイタズラエロい事されてしまう。そしてその後は闇落ちルート突入だ。正体を隠して主人公に接近、付き合い始めたと思ったら実はその悪い変態大人ロリコン野郎の奴隷になっており、最後見せつける形でジ・エンドNTRとなる。その際『逃げたお前主人公のせいだ』と心にクリティカルを与えるように責めてくる有様である。

 ちなみに逃げたフリをして大人ロリコンを何とかしようとしても、間に合わなかったり、酷い物だと止めようとした主人公をボコボコにして縛り上げた上で、泣き叫ぶヒロインを見せつけながら――という徹底した地獄。ライター鬼畜生血も涙も無いのかてめぇ。

 となるとガン無視はあり得ない。だからと言って親切に家を探して(探すも何も知っているのだが)、変に縁が出来ても困る。主人公とこのヒロインは赤の他人でなきゃならない。

 色々と考えた。あれこれ悩んだ。無い知恵振り絞った。その結果――警察に任せる事にした。うん、別に俺が手を尽くす必要無いよな。交番も近くにあるし、流石にお巡りさんなら任せても大丈夫だろう。

 ヒロインと手をつなぎ、交番へと引っ張るようにしてつれていく。その間ずっと俺は素っ気ない態度塩対応を取る。縁が出来ては困るのだ。そんな様子に彼女は戸惑いつつ、何か言いたそうな態度を見せるが結局大人しくついてくる。

 その後は特に何事も無く交番へ到着。優しそうなお巡りさん(女性警官だったので何事も無いだろう)に彼女を引き渡し、名乗りもせずに立ち去る。彼女は何か言いたそうにしていたが、徹底してのスルー塩対応。心が痛まないわけではないが、お互いの為である。こんな展開、ゲーム中に無かった。


 こうして主人公彼女NTRヒロイン遭遇し出会い逃げられた別れた――筈だった。


「なんでや……」


 翌日、友達に誘われ遊びに行った先でばったりと遭遇してしまった。そう、彼女ヒロインとである。

 遭遇して、彼女はすぐに俺に気付いたようで嬉しそうに顔を綻ばせたかと思うと、何か言いたそうにもじもじしている。そんな姿がちょっと可愛いと思ってしまった。いかんいかん、絆されて待ち受けているのは地獄NTRだぞ。


「あれ、誰その子ー? ともだちー?」


 俺の後ろからひょっこり顔を出す友人。ゲーム中に立ち絵のあるキャラで、見た目は女の子(しかも可愛くて性癖にもどストライク)なのだが、騙されてはならない。こいつは男だ。しっかり寝取り野郎にもなるのだが、ネットで炎上し批判されたライターが開き直って『純愛ルートです』とこの友人と結ばれるアッー!展開を作りやがった。ホンマこのライターはドがつく畜生やでぇ。さっき遭遇して思わず尻押さえたわ。

 その友人を見て、彼女はショックを受けたガーンという表情になる。が、すぐに頬を膨らませ俺を上目づかいで睨む様に見る。やだ、ちょっと可愛い。そのほっぺぷにぷにしたい――いかん危ない危ない。絆されたらNTRだ。


「いや、友達じゃな――」

「そう、友達! 一緒に遊ぶの!」


 否定しようとしたら被せられた。そして俺の手を握って、強引に引き摺って行った。抵抗なんてする余裕も無く、ぽかんとする友人を置いて俺は彼女にお持ち帰りお家へご招待されることになった。


 何でや。穏便に別れたやないか。アレか? 出会った時点でフラグ成立なのか? それじゃ逃れよう無いじゃん。だってループ戻り先が出会った直後なんだぞ? どう足掻いても絶望NTRじゃないか。

――その後、彼女の家で何をしたのか覚えていない。最後の方で「私、あなたのお嫁さんになるから!」とキスちゅーされたので頭が真っ白になったのが原因である。

――いやいやいや! おかしいよね!? ヒロインそんな性格積極的じゃなかったよね!? ゲーム中キスは自分からできなかったでしょ!? NTR後は寝取り野郎に自分からキスどころか腰振りまでやってたけどなクソッタレが!


――俺は知らない。

 この後、ヒロインは寄ってくる数多の寝取り野郎共を、自ら返り討ちにする事を。

ヒロインの物』と宣言し、俺に一切女の子を寄せ付け無くなる事を。


――本来のルートを回避しNTRヒロインと別れIfルートに突入した純愛ヒロインと出会った事を。


――この時の俺は、まだ知らない。

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出会ったからには別れたい 高久高久 @takaku13

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