第12話 愛する方とは永遠に結ばれないでしょう
夫は、「愛する方とは永遠に結ばれないでしょう」と予言された。
予言は、政争から夫を守り、戦争で引き裂かれる婚約者を夫に与え、戦地へ夫を送った。その隣にいた私は、稀代の悪女になり、淑女の鑑になり、悪徳商人の娘になった。いろいろあったが、私達は今も生きている。
夫は私に、好きだ、大切だ、一番だと言ってくれるが、愛しているとは言ってくれない。解釈次第だと言いながら、夫は予言を気にしているのだろう。愛していると口にしてくれない代わりに、夫は精一杯、私に愛を伝えてくれる。口先だけの愛しているという言葉よりも、夫の愛のほうが、私は好きだ。誠実だとも思う。
それでも、愛称で呼んでくれるまでに、随分長い時間がかかった。初めて、うわ言でなく、愛称で私を呼んでくれたとき、夫は、恥ずかしがって顔を真赤にして両手で顔を覆ってしまった。いつまで新婚なんだと、その場に居合わせた人達に、呆れられてしまったのも、無理はない。当時、私のお腹の中には、一人目の子供がいた。今では懐かしい思い出だ。
私は予言とは関係ない。好きだ、大切だ、一番だ、愛していると、夫にも子供たちにも繰り返し伝えている。子供たちも、短い腕で私達を抱きしめて、愛の言葉を囁いてくれる。
商売のついでに、たまにこの所領に寄ってくれる弟は、もうすぐ結婚する。小さかったあの子が、夫に、父親になると思うと感慨深い。感慨に浸っていたら、夫が嫉妬した。姉の弟への愛に嫉妬する夫の心の狭さに、私は呆れた。
夫と、異母兄達は年が離れているし、同性だ。私が嫉妬に駆られることはない。不公平だと拗ねる夫は、私の口づけで機嫌を直した。夫が単純だと気づいたのはいつからだろう。本当に夫は、単純だ。
第一王子殿下から頂いた所領で暮らしている間に、夫は少しずつ怪我の後遺症から回復した。今も夫はあの杖を大切に使っている。陛下も殿下方も、夫に優しい言葉などかけてくれたことは、一度もなかったそうだ。強い権力を持っておられた王妃様のご実家の、ご機嫌を損ねるわけにはいかなかったのだろうというのが夫の見解だ。
夫は、見捨てられていたわけではなかった。教育係や、剣術の先生や、馬術の先生、子供が練習するのにちょうどよい大人しい馬などは、夫が暮らしていた離宮に、何の前触れもなく現れたそうだ。子供だった夫に、彼ら彼女らは、知恵を、技術を授けていった。
愛は様々だ。心の中の思いを語る言葉も様々だ。
愛する方とは永遠に結ばれないと予言された第四王子は、彼が何よりも大切にする家族に恵まれ、家族に愛されている。
大占星術師の予言どおりで、予言どおりでない人生を歩む夫は、今日も私の隣で、子供たちに囲まれ、幸せな日々を過ごしている。
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