第9話 私達の結婚式

 私達の結婚式は、婚約式よりも簡素になった。当然だ。


 戦争中の婚約式には、婚約者を残して、国のために戦地に赴き、国のために散った王子を作り上げ、戦意高揚を目論んでいた王家の都合もあり、王妃様が大金を注ぎ込まれた。


 当初の目論見がはずれ、第四王子である私の婚約者は、怪我はしたが生きて帰ってきた。王妃様の計画を御破算にしてしまったのだ。


 後から聞いた話だが、傭兵達と寄せ集め部隊は、自分達と一緒に戦ってくれた彼らの総大将が、王家の威信のために、名誉の戦死を遂げさせられるのではと恐れた。有志を募り、順番を決め、日夜病院を警護してくれていたらしい。


 すっかり涙もろくなった私の婚約者は、それを知って泣いてしまった。私も、もらい泣きしてしまった。


 隣国との戦いの勝利の立役者として賞賛されたのは第一王子殿下だ。手柄を横取りしたはずの第一王子殿下だが、御本人の思いは別であったらしい。


 負け戦を、なりふり構わない卑怯極まりない手段を用いたとはいえ、勝ち戦に変えた第四王子、腹違いの弟に、小さな所領をくれた。所領の中には、私の婚約者の亡くなったお母様の生まれ故郷が含まれていた。


 私の婚約者はまた泣いて、私と両親はもらい泣きした。


 平民に降下する第四王子の結婚式に、王家は一切お金を出してくれなかった。私達も期待していなかった。というより無いほうがありがたかった。商売以外のことで、関わってほしくなかったのだ。


 私達家族は商人だ。金と物の取引は理解できる。王家の威信や名誉、貴族の矜持などと言われても、悩むだけだ。理解や共感は難しい。母ではないから、王妃様を相手に、同じ女でもあれはねぇ、などとは言えない。母の言いたいことはわかるけれど。


 私と私の婚約者は、王都にある小さな教会で、結婚式を挙げた。正式に夫婦になったのだ。


 誓いの言葉は、私達の都合に合わせたものだった。

「新郎は、誰よりも大切な新婦を、生涯大切にすると誓いますか」

「はい」

まだ立つ事もできない私の婚約者は、傷の痛みなど忘れたかのように、笑顔だった。

「新婦は、誰よりも大切な新郎を、生涯大切にすると誓いますか」

「はい」

私も迷わなかった。


 予言は解釈次第だ。言葉も解釈次第だ。


 愛には、沢山の愛がある。心の中に有る気持ちを表す言葉も、数限りないということに、私は気づいた。


 愛する方と結ばれることはないと予言された五歳の少年は、大占星術師の予言の意味を、正しく理解していたのだと私は思う。

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