「愛する方とは永遠に結ばれないでしょう」と予言された王子のお話

海堂 岬

第1話 不遇な王子の不幸な予言

「愛する方とは永遠に結ばれないでしょう」

残酷な予言だ。


 これを御年五歳で告げられた子供の心はどんなに傷ついたろうか。


 想像してみてほしい。私なら、多分、その場で泣いてしまうし、思い出しては泣き続けるだろう。


 それを言われてへこたれない人が私の目の前にいる人、この国の第四王子殿下である。一応の第四王子殿下だ。王子であることを疑問視する声も貴族の間では有るとか。母方の血筋が原因だ。


 陛下が、既に成人間近な立派な息子が三人もいたというのに使用人に手を出して、生まれた男児なのだ。


 国王陛下の幼い頃に生き写しの男児は、認知もされず、母親と離宮で、使用人とその子供として暮らしていた。ある時、王宮で病気が流行し、国王陛下、王妃殿下、三人の王子殿下全員が罹患した。王家存亡の危機である。王弟殿下達は、既に全員婿入りされ、国王陛下との仲は最悪だった。平民ですら知っていたほどだ。   


 そこで初めて思い出された男児の存在。本人の言葉を借りれば、離宮の腕白坊主は、突然、鼻垂れ小僧から、王子殿下となった。


 この国で王宮とある程度関わりのある者ならば、貴族ならずとも知っていることだ。


「天国と地獄だよ」

本人は、明るく笑う。どちらが天国なのか、地獄なのか、誰にも分からない。今が天国であり地獄であると言っているようにも聞こえる。元鼻垂れ小僧は案外強かだ。


 王家に生まれたお子様方は、お生まれになってから三年目のお祝いに、王国の大占星術師から予言を授けられる。その予言は様々だ。


 本来ならば、幼い頃に告げられるはずの予言だ。第四王子は、時期外れに、予言を授けられた。それだけでも異例であるのに、呪いのような予言だった。


「おそれながら、第四王子殿下は、愛する方と永遠に結ばれることはないでしょう」

大占星術師がそう告げた後、場は静まり返ったらしい。


 この話には、続きがある。大占星術師は、まだ少年だった第四王子に、直接言葉をかけたのだ。

「おわかりになりましたかな」

まだ、恋も愛も知らない幼い王子は、大占星術師に元気に返事をした。

「はい」

その返事を聞いた大占星術師は、幼かった王子を抱き締め、辛い予言であることをお詫びされたそうだ。


「僕個人は、爺さんに感謝しているよ」

第四王子殿下は、恐れ多くも大占星術師を爺さんと呼ぶ。他人に聞かれると困るから止めて欲しい。私は相槌を打つことはせず、殿下の皿に盛り付けられたお菓子を一個いただいた。

「その呼び方は、いけません。お仕置きです」

同い年であっても、平民の私は、相手に敬意を示さなければならない。

「本人が爺さんと呼んでくれって言ったのに」

第四王子殿下の言い訳を無視した。


 さっき丁寧な言葉で、敬意を表したのだ。一度くらい手を抜いても問題はない。


 私は、学園長直々に任命された殿下のお世話係である。敬愛すべき御方を、爺さんと呼ぶ第四王子殿下を、何度注意したかわからない。言ってわからない御方に、教育的指導として罰を、すなわちお菓子を一つ取り上げたのだ。後ろ指さされることはなにもない。


「休憩はおしまいにして、そろそろまた、勉強をしましょう」

「そうだね」

 私は、第四王子殿下のお世話係として、給金を受け取っている。私は平民、商売人の娘だ。契約の履行は重要である。


 同級生がお世話係になってしまう第四王子殿下の素行を私は当初心配した。だが、第四王子殿下は、最初身構えたよりも、はるかに常識的で、驕ったところのない方だった。


 お給金に応じた働きをするために、私は広げた教科書を睨んだ。

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