人間の俺が魔王軍に入って活躍していたのに、勇者に魔王共々壊滅させられたので辺境の村で静かに暮らしはじめました。
クズの極み男
序章 プロローグ
0日目 レオンという男
彼は孤児だった。
生まれてすぐに教会の前に捨てられていたという。
教会のあった領地は税が重く、生まれたばかりの赤子が育てられないという理由で孤児になることはよくあった。
領民たちはそんな重税に頭を悩ませ、常に鬱屈とした雰囲気を出していた。
彼はそのまま教会の運営する孤児院へ引き取られた。
孤児院の環境はお世辞にもよいとは言えなかった。
運営している教会の司祭が孤児院の運営資金を削り、その分を貴族の領主へ賄賂として渡していたからだ。
そのため、食事は1日に1度、小さなパンが配られる程度敷かなかった。
育ち盛りなのに栄養が足りず、衰弱して亡くなってしまう子もいた。
彼に友達はいなかった。
どうやら他の子たちと比べ
彼は天涯孤独だった子たちの中でも、より孤独だった。
時々、近くの修道院からエルフの修道女が来てくれた。
彼女だけは彼を理解してくれた。
彼女と会うことだけが彼にとっての楽しみだった。
しかし彼が7歳の頃、魔王軍がこの地に攻めてきた。
領地を守っていた兵は魔王軍に次々と蹂躙され、悪徳領主は魔王軍の幹部に殺された。
皆が恐怖のあまりに震えた。
人類は魔王軍に捕まると惨たらしく殺されるというのが通説だったからだ。
余りの恐怖から、自害する者もいた。
司祭もそのうちの一人だった。
だが、魔王軍は他の一般市民には手を出さなかった。
やがて、占領された彼の故郷は美しい女性の姿をした魔王軍の幹部が治めることとなった。
彼女らは悪政を強いるどころか、一般の民への税は減らし、大きな商会などの金持ちからは多めに税を徴収した。
それでも以前よりは少なかった。
魔王軍の幹部はその税金で至福を肥やすのではなく、公共事業などへと使い、経済を回していった。
孤児院へも補助金が入るようになり、食事が1日に3度も出るようになった。
民へのしかかっていた重い税がなくなったこともあり、町は以前よりも活気にあふれるようになった。
そして、彼の眼には新しく土地を治めることとなった魔王軍幹部が、
後に10歳になった彼が魔王軍に志願したのも自然の流れだった。
魔王軍は人類国家と戦っていた。
戦う理由は彼にはわからなかった。
ただ一つ、魔王軍が人類に勝つと自分のように救われる者がたくさん増えると彼は確信していた。
彼は才能を持っていた。
その才能を活かし、彼は魔王軍の中でどんどんのし上がっていった。
人類との戦いで次々と武勲をあげていった。
まるで彼の活躍のおかげかのように、戦況もどんどん有利になっていった。
12歳の頃に同じような境遇で軍に入った人間達で特殊部隊を結成し隊長として様々な作戦を成功へと導き、15歳になる頃には、最年少で魔王軍幹部に任命される話が持ち上がったくらいだ。
だが、幹部になるためには自身の身体へ改造手術を施さなければならなかった。
彼は悩んだ。
だが、魔王軍の進撃は、ある時点で止まってしまった。
人類の切り札である勇者が現れたからだ。
次々と壊滅する魔王軍部隊と倒される幹部たち。
彼の故郷を治めていた美しい幹部も勇者の手にやられてしまった。
そこで彼は改造手術を受けることを決意をする。
改造手術は無事に終わった。
だが、手術が終わり眼を覚ました彼は信じられない言葉を医師から聞いた。
勇者に魔王が倒された、と。
魔王軍は壊滅した。
そして、彼は戦う意味を失った。
仇討ちは考えられなかった。
ただ、彼は自分の人生を変えてくれた人たちを失い、どうでもよくなってしまった。
■■■■■
「あんちゃん、俺の剣を取りに来たんだが、修理は終わったかい?」
扉から入ってきた無精髭のおやじが声を掛けた。
「終わってるよ。にしても、刃こぼれが酷かったぞ。手入れぐらいちゃんとしろよな」
「いいだろ~、俺だって忙しいんだし。あんちゃんの商売にも貢献できるしな」
言い訳をするおやじに対して、彼はため息をついてから言った。
「あのなぁ、武器を扱う鍛治屋としてはな、大切に扱われない武器は可哀相にしか見えないんだよ。それに、手入れのされていないガタガタの状態で不足の自体が起きたら、どうするつもりなんだよ。それでも町を守る自警団の団長さんだろ?」
「わかったよ~、そんなに怒らなくたっていいだろ」
そう言いながら、おやじは少し不機嫌そうな顔になった。
だが、手渡された剣を見ると、みるみる嬉しそうな顔になっていく。
「おお、やっぱすげえな、あんちゃんの腕は」
「そう思うんなら、ちゃんと手入れもしてくれよな」
「わかったよ、それでお代はいくらだ?」
「銀貨15枚ってとこだな」
そう言うと、彼は驚いた表情になった。
「おいおい、大丈夫かよその値段で。かなり状態が酷かったのにいつもと変わらねえじゃねえか」
「いつも来てくれてるお礼だよ」
おやじはすぐに納得して、腰にかけた巾着から銀貨15枚を彼に手渡した。
「そんじゃ、ありがとよ。また来るわ」
「あいよ、こちらこそまた頼む」
そうやって彼は、扉を出ていくおやじを見送った。
元魔王軍の特殊部隊隊長、レオンは今、辺境の村で鍛冶屋を営んでいる。
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