私は世界を救えない~番外編~

五味九曜

本編第一部時点のお話

ゼータ外伝

<ゼータ>に関する面談記録

【Case1:スレイン・リード――除籍事由:経歴詐称】


「こうして話すのは初めてだったか。俺はオーランド・ドナートだ。よろしく」


「ふざけるな。こんな処遇が許されると思っているのか」


「気持ちはわかるが、落ち着いてほしい。確かに君の『除籍事由』は、少し――事実と異なる部分があるかもしれない」


「少し、だと……? あの馬鹿息子のでっち上げに乗っかって、私をこんな目に遭わせて、ただで済むと思っているのか? はっきり言って、貴様らは信用ならん」


「落ち着けと言っている。考えてもみろ、君の言う『馬鹿息子』のパーティにいて、君は満足していたか? むしろ新しいパーティで一からやり直したほうがいいんじゃないのか」


「ほう。貴様の言う『新しいパーティ』とやらが真っ当なものなら、悪くないアイディアだな」


「……そうか。事前にロキに当たっていたらしいな」


「なかなか面白いことが聞けたよ。あの錬金術師の少年以外、およそ人間として真っ当な者はいないんじゃないか?」


「だからこそ、君の力が必要だ。彼らをまとめる手助けをしてほしい」


「この期に及んで手助けをしろ、だと? そもそもリーダーは誰が務める? 相当の経験があっても、一筋縄ではいくまい」


「……。経験は――ゼロだ」


「何?」


「勇者としての経験はない。だが――」


「いい加減にしろ!! ただでさえ理不尽な処分を受けたというのに、貴様らのお遊びになど付き合っていたら、ますます兄上に幻滅されてしまう……!!」


「……。君に、見極めてほしい。彼女がリーダーとして適切かどうか。騎士として、仕えるに値するか」


「彼女? 女か」


「そうだ。歳も若い。だが、そんな先入観は無用だと、君ならわかってくれるはずだ」


「……。私の剣は安くないぞ」


「わかっている」



【Case2:ロゼール・プレヴェール――除籍事由:メンバー間の連帯を乱した】


「――それで、リーダーのノエリア・デ・ティヘリナがエルネスタ・デュンケルと衝突し、最終的に<アルコ・イリス>は瓦解したそうだが……」


「……」


「……聞いているのか?」


「……あっ。そうだわ、課長さん。大通りの広場のところにね、お洒落な喫茶店を見つけたの。あそこのパフェがおいしそうなのよ。一緒に行かない?」


「結構。そもそも、君は我々の監視下に置かれている。自由に行動することは――」


「課長さん、独身? こんなに仕事熱心でいかにもなエリートなのに。誰かいい人いないの?」


「今、その話は関係ない」


「あら、地味に気にしてるのねぇ。可愛いところもあるじゃないの。でも、そうね……どちらかといえば、年下のほうが好み?」


「関係ないと言っている。今は君の所属していたパーティの――」


「事務的な会話はすらすらできるけど、基本的に言葉足らずで勘違いされがち。部下からは怖い人だと思われてる。そうでしょう?」


「……」


「うふふ……。そうそう、ノエリアちゃんたちのことね。あなた、ノエリアちゃんがどんな子か知ってる?」


「……ああ。魔術の名門ティヘリナ家の令嬢で、帝都の女学院を首席で卒業した優秀な魔法剣士だ。なぜ彼女があんなことになったのか――」


「ダメね。全然わかってないわ」


「……」


「そんなんじゃ、私たちのことなんてなんにもわからないわよ。ああ、なんだか飽きちゃったわ。帰っていいかしら? お風呂に入りたいの」



【Case3:モーリス・パラディール――除籍事由:人格に問題あり】


「やあ! 君はオーランド君っていうんだね? ぼくのことは『マリオ』って呼んでよ。友達になろう!」


「ああ……どうも」


「せっかくだから、仲良くやろう。聞きたいことがあったらなんでも聞いて。もし退屈なら、何か面白いものでも――」


「いや、いい。これは君のパーティ除籍処分に関する聞き取り調査だ。君がいた<ブリッツ・クロイツ>で、リーダーが不審な死を遂げている。何があったか、教えてくれるか」


「なんだ、そんなこと? 前も話した気がするけどなぁ。リーダーのカスパルが、魔物をおびき出すのに囮を使おうって提案したんだ。それで、彼が囮になってくれたんだけど……失敗して、死んじゃった。残念だったねー」


「……。カスパルが、自分が囮になると言い出したのか?」


「ううん。最初はヘルミーナがやるって話になったんだけど、彼女は治癒魔術師だから、万一のときに動けないと困るでしょ? それで、カスパルのほうがいいと思って」


「君が彼を糸で縛ったのか」


「そうだよー。ヘルミーナにナイフを渡しておいたから、いざってときは切れるようにしたんだけど……失敗しちゃったみたい。あんまり責めないであげてね。誰でも、失敗の1つや2つはあるものさ」


「……なるほど」


「そういえば、ヘルミーナはどうなったの?」


「<ゼータ>とは別の、新しいパーティに入る予定だ」


「それはよかった。彼女は優秀だからね、きっと役に立つよ」


「……自分のことは聞かないのか?」


「まだ情報が少ないからね。メンバーは、知っている人も知らない人もいる。リーダーのことは、全然知らない」


「直接会って、確かめるほうがいい。だが……二度とこのようなことを起こさないようにしろ。カスパルのように、死人を出すな」


「オッケー。みんな、いい友達になれるといいなぁ」



【Case4:ヤロスラーフ・イロフスキー――除籍事由:能力の制御が困難】


「さて、さっそく話を聞きたいんだが……どうした? 大丈夫か?」


「い、いやっ……あの、ここ、2人だけ……ですか? 他に誰か、いないんですか?」


「ああ。機密保持のため、話は俺だけで聞くことになっている」


「そんな! な、何かあったらどうするんですか!? こんな、狭いところで……」


「……? 心配はいらない。こんなところまで、誰も襲って来やしないだろう」


「そういうことじゃ……。あの……僕が何か変なことをしたら、すぐに誰かを呼んでください」


「あ、ああ。じゃあ――」


「すみません。この面談、どのくらいで終わりますか?」


「時間か? 30分程度を予定している」


「何時までですか」


「……ちょうど、15時30分だ」


「15時30分……」


「では、まずは君の元いたパーティについてだ。何があったかは知っていると思うが、君は『覚えていない』と証言したそうだな。それは本当か?」


「ほっ……本当、です。何も……何も覚えてない……です。ごめんなさい! 本当に――」


「いい、わかった。次に、今後の君の処遇のことだ。君はこれから、<ゼータ>というパーティに入ってもらう。やることは今までとさほど変わらない」


「あの、それ……断ったら、いけませんか」


「いけないわけではないが……そうなると、ずっとあの牢屋にいることになる」


「いいです。むしろそっちのほうが、安全でいいと思います……。僕なんか、迷惑しかかけないだろうし……」


「君は優秀な錬金術師だと聞いている。力の制御に関しては、追々対処していけばいい」


「違う……違うんです。僕は、僕は……――僕なんて、ずっと牢屋に閉じ込めておいてください。二度と、外に出さないでください……」


「君はなぜ、そこまで――」


「時間です。15時30分ちょうどです。すみません、失礼します」


「……」



【Case5:ゼク――除籍事由:仲間を皆殺しにした】


「なぜこうなったのかは、わかっているな?」


「……」


「俺は君を処罰したいわけではない。むしろその逆だ。君を弁護するための材料がほしい。答えてくれ、何があったのか」


「……」


「現場には戦闘の痕跡があった。並の規模ではなかったそうだな。君は仲間と、殺し合いになった。そこまではいいな?」


「……」


「きっかけを作ったのは、どちらだ? 君か、死んだ3人か」


「……」


「冷静に考えれば、3対1の殺し合いだ。君のほうが不利だったはずだ」


「……」


「あの3人の誰かから、仕掛けたんじゃないのか?」


「……」


「……答えたくないのなら、結構だ。これから君は<ゼータ>というパーティに加入し、我々の監視下で行動してもらうことになる。くれぐれも、問題は起こさないように」


「……チッ」


「! 行ったそばから、備品を壊すな。君は特に目をつけられている。少しでもまずいことをすれば――」


「うるせぇよ。俺は、魔族を殺す。それだけだ。指図するんじゃねぇ……!!」


「待て! 話はまだ――……。これは……相当、厄介だな。だが……」

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