羊飼いの歌

@sunameritoaoi

羊飼いの少女

羊飼いの少女カウは大草原の中心で羊たちを探していた。


「ドリー!モルードゥ!…一体どこにいったらのかしら」

 

 舌打ちをして自分の家に帰る。すると食卓に上に一枚の置き手紙があった。


「なにかしら?ふむふむ、『理想郷に行きます。探さないでください。ドリーモルードゥ』…」


 カウは思った。私に黙って出かけるなんて。今まで世話してやった恩を忘れたのかしら。ていうか、あいつら字が書けたのね。


「絶対に許さないわ!挽肉にして薄く延ばして油で揚げてやる!」


 羊に逃げられては羊飼いの沽券にかかわる。愛用の肩掛けかばんに荷物を詰め込むとカウはドアを開けて戸締りを確かめ走り出した。



 

 カウは大草原を東に疾走していた。”羊飼いの草原”の西側は”世界の終わり”と言われる断崖で恐らくその先には行けないだろうとカウは考えた。逃げるなら東だ。


「歴史は俺に何をさせようというのか!」


 夕暮れ時に差し掛かった刻に、遠くで黒く長い筒を空に掲げ叫んでいる男がいた。緑の丸帽子と服を着ている。


「危ない人だわ」


 地平線にいる人の顔の黒子まで識別できる視力を持つカウは男を多きく迂回することにした。


「むっ、敵か」


 男の持った黒い筒から轟音と火花が散る。放たれた小さな鉄の塊がカウのこめかみに直撃した。


「痛いわね!なにすんのよ!」


 カウのこめかみに血管が浮かぶ。

 男はすぐに第二射にはいる。カウは一瞬で男との距離を狭めた。男の類まれな動体視力はカウの空間を縮めたとしか思えない移動を捕らえていた。撃鉄を引く。カウは短筒から放たれた弾丸を歯で受け止めた。


「羊三段!」


「ぐぅはっ!」


 カウの体当たりは男の身体を百メートル吹き飛ばした。


 殺しちゃったからしら?でも正当防衛よね。

 カウはぴくりとも動かない男に近づくと爪先で男の頭を数回、小突いた。


「なぜ、銃で撃たれて生きている?」


 男は生きていた。なんと!背負いかばんがクッションとなっていたのだ!


「銃ってその筒からでた玉のことかしら。痛かったわよ」


 答えになっていない気がするが、男は上体を起こした。


「私はカウ、羊飼いよ。あなたは誰なの?]


「そうか、お前がカウか。俺はクラウチだ」


「私のことを知っているの?」


「いや、知らんよ」


 カウは激しく瞬きをした。


「あなたはどこからきたの?ここは私の草原よ」


「俺は自衛隊士だ」


「兵士ってこと?」


「兵士とは違う。国家の自衛のためだけに存在する組織だ。どうやら遠いところに来てしまったようだ」 噛み締めるようにクラウチは言った。「俺は自分の国に帰らなければならない。ここは俺が守るべき国ではない」


 不思議なことを言うな、とカウは思った。この人は自分の意思でここにいるんじゃないのかしら?


「お前はどこに向かっているんだ?」


「いったでしょ。私の名前はカウよ。自分の羊を探してるの、見なかったかしら?」


 サカイは首を横に振る。「いや、知らんな。しかし、探すのを手伝ってやろう」


「国に帰らなくていいの?」


「帰る方法がわからないんだ」



 カウとサカイの当面の旅の課題は路銀だった。カウの手持ちの財産は神鉄100gのみで価値が高すぎて現金化ができない。そもそもカウ自身その価値を知らない。サカイは無一文である。


「まともな食事が食べたいわね」


 首刎ねウサギの丸焼きを食いちぎりながらカウはいった。カウがいうまともな食事とは塩味ぐらいの味付けをしていればクリアーできる。


「どうして金を持ってないんだ。どうやって生活してたんだ」


 ネックの部分をしゃぶりながら無一文のサカイが言った。


「羊毛と物々交換なのよ。お金なんていらないわ」


 身の無くなった骨でサカイを指してカウはいった。つまり羊がいない今、カウに資金源はない。サカイはサバイバル能力に長けていた。首刎ねウサギをしとめ、血抜きをし、皮を剥ぎ、火を起こして焼いたのは彼だ。しかし、文明社会の中であえて自給自足をする必要はないとサカイは思う。めんどうくさいからだ。

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