プライス・レス~off season~
風見☆渚
梅雨の中のバースデーソング
・働く女
典型的な、まじめのA型。
いつもそう言われる。
別に、したくてそうしてるわけじゃないのに・・・
大学を卒業してから、気が付けばあっという間の1年ちょっと。
今日は、私の誕生日。
それと一緒に、彼氏いない歴がちょうど1年。
1年前の誕生日、大学2年から付き合ってた彼氏にフラれた。
同級生だった彼とお互い社会人になって、きっとこのまま結婚して子供が出来て、そんな普通の生活があるんだろうなと、勝手に思ってた。
でも、彼は違ってた。
私といると疲れるって、そう言われた。
しかも、他に好きな人が出来たらしい。
気を使わなくてもいい娘なんだって。
私にだって、別に気を使わなくてよかったのに・・・
なんで、誕生日プレゼントが別れ話なの?
別に気にしてない。わけでもない。
思い出しついでに、1年前も彼にフラれた駅前。
そこにあるカフェで一人、自分用で買った小さな誕生日ケーキを目の前にティータイム。
今日誕生日なんだって言ったら、彼はそんな事も忘れてたって。
そんな日に言わなくてもいいのに・・・
でも、そんな男となんて結婚出来ない。
そう。今の結果に大満足。
1年間、そう自分に言い聞かせてきた。
彼とは、大学1年の頃に飲み会で一緒になった。
その後も会う機会が増えて、お互い趣味も一緒で意気投合。
勢いでなんとなく付き合っちゃった。
それから社会人になって、お互い忙しくなって、一緒にいる時間がどんどんなくなって・・・
私も、ストレスぶつけたり余計な事たくさん言ったかもしれない。
それでも、誕生日に言わなくても・・・・・・
なんか泣けてきた。
あ、雨降ってきた。傘忘れた・・・・・・
コンビニで傘買って、もう帰ろう。
雨で靴もビショビショ。
雨とか関係なく、足が重い。
駅前の雨が当たらない場所。
ストリートの男の人が、ギター片手に歌ってる。
あ、この曲好きなやつだ。
良いなと思って、つい声をかけちゃった。
別に言うつもりはなかったんだけど、今日自分の誕生日だと伝えたら、彼は私の好きなミュージシャンが歌うバースデーソングを弾いてくれた。
なんか、自分が惨めだなって。
雨のせいかな。泣けてきた・・・
ギターの人にお礼を言って、電車に乗って家につく。
明日、休みだから。何も考えたくない。
化粧も面倒くさい。もうそのまま寝よう。
それから、1年。
何となく、駅前のカフェで小さなケーキを目の前に、一人バースデーパーティー。
1年前もこんな事やってたな。
気が付けば、1年前と同じ駅の同じ時間。
そういえば、前にも・・・
いた。
あのギターの人だ。
あれから気になって、時々通り過ぎてみたときは全然会えなかったのに、今日はいた。
ギターの人は、私の好きな曲を今日も歌ってた。
最後の曲。
彼はそう言って、去年私に弾いてくれたバースデーソングを歌っていた。
歌い終わった時、私は彼に声をかけた。
彼は私に気付いていないようだった。
彼は、1年前にこんなことがあったから、なんとなく今日も歌ってみたのだと。
照れて言う彼の顔が、可愛かった。
知らない人のつもりで、今日は自分の誕生日だと伝えた。
最後だったのに、彼はもう一回あのバースデーソングを歌ってくれた。
今日は雨は降ってない。
でも、私の頬に温かい水分がゆっくりと流れていった。
・ストリートミュージシャンの男
俺は、自分の事を主張するのが下手だ。
だから、歌は好きだ。
素直に自分の気持ちを言葉にのせる事が出来る。
それとは関係なく、まめな方だとよく言われる、どこにでもいる普通のA型。
いつもは普通に、サラリーマンとして働いている。
そう、歌っても働いても、ごくごくありふれた普通の人間。
そんな俺だけど、仕事はそこそこ頑張っている方だ。
と、思う。
そこそこの経験もあって、それなりに大きなプロジェクトも任されている。
所謂、どこにでもいる普通のがんばっているサラリーマンだ。
たまに時間があれば、学生時代から続けている路上ライブをやりにいく。
会社からは離れている場所。
だから、たぶん会社の人間はこんな俺を知らないと思う。
今日も久々に歌いたくなった俺は、長年愛用しているギターを片手に駅前に向かった。
今日は、寂しく一人で自分の誕生日を祝う為に歌いに来た。
酔っぱらいに絡まれる事もあるが、時々こんな俺の歌を楽しく聴いてくれる人もいる。
そういえば1年前、泣きながら雨の中を歩いていた女の子がいた。
声をかけられ、少し話をした。
その時その子には言わなかったが、自分と同じ誕生日だったことに正直驚いた。
折角の出会い。
偶然の出会い。
自分の分と合わせて、一番好きなミュージシャンが歌ってたバースデーソングを一曲。
曲の途中、その子の頬にはずっと涙が流れていた。
声を掛けようとしたが、その子は曲が終わると小さくお辞儀をし、すぐに駅の中へ行ってしまった。初対面の相手にいろいろ言われても迷惑かと思い、その子の背中を見送った。
雨も降っていたし、ちゃんと帰れたか心配にだった。
ふとそんな事を思い出しながら、今日の最後の曲。
去年と同じバースデーソング。
今日も自己満。
自分におめでとう。
そして、お疲れさま。
また1年がんばろう。
歌い終わった時、一人の女性に声をかけられた。
その人も、今日が自分の誕生日だったらしい。
こんな偶然が何度もあるのだろうか。
そんな事よりも、この出会いに感謝。
せっかくだからもう一曲。
さっきのバースデーソングをもう一度。
俺が歌っている途中、女性は涙を流していた。
あ、そうか・・・
気づいた。
丁度1年前、雨の中俺の歌を聴いてくれてたのは、彼女だったのか。
本当はもう終わりだったけど、おまけにもう一曲。
次は、ハッピーな気分になれる曲を歌おう。
だって、今日は誕生日だから。
誕生日は笑いたいと思うから。
俺も。
君も。
プライス・レス~off season~ 風見☆渚 @kazami_nagisa
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