第16話「目覚める殺意」
ザザッ
結希達は草木をかき分けながら進む。詩音と風紀、愛奈を拠点に残し、結希と仁、孝之の三人で森を歩いていた。
「クソッ、榊の奴どこにいるんだ……」
元々ゲーム内で自由が許されているため、生徒達はバラバラに行動している。それぞれの生徒が現在どの位置にいるかは、剣崎しか知らない。
「それにしても、ゲームオーバーになったら全滅なんだよね。犯人はどうなんだろう? 生徒の中から見つけろって言ってる割には、犠牲者の抽選に選ばれなかったりとか、結構優遇されてるよね」
「剣崎が直接手を下すんじゃないか? 殺したいほど憎んでるだろうし」
剣崎のゲームの目的は未だに曖昧だ。犯人を心理的に追い詰めることだろうと目星は立っているが、実際犯人はこの状況の中どう思っているのだろうか。
「剣崎……江波の敵討ちのためとはいえ、やり過ぎだろ……」
仁は木々の間から見える太陽を見上げて呟く。ひとまず、今は一番犯人の可能性が高い人物の元まで行き、自首するよう説得するしかない。怪我をした右足の太股を押さえながら歩いた。
「……」
バッ
「ひっ!」
見張りをしていた愛奈は、びっくりして腰を抜かした。木に縛り付けていた美琴が、何の前触れもなく目を覚ましたのだ。
「み、美琴ちゃん……」
美琴がクラスメイトの殺害に使っていた包丁を、彼女の顔へ向ける愛奈。
「動かないで!」
鋭い視線を浴びせる美琴。愛奈は負けじと包丁で威嚇する。ロープで拘束されていては、攻撃も抵抗もできない。
「……」
ガッ
「あっ」
突然愛奈の視界が斜めに傾いた。続いて襲ってきた足の付け根の痛み。美琴が愛奈の隙をついて、足を引っかけたのだ。
バタッ
倒れた拍子に、包丁を落としてしまった。そして、包丁は美琴の手元へ……。
「詩音」
風紀の呼び掛けで、詩音は目を覚ました。一眠りしたことで、疲れが程よく取れた。体力は完全に回復したようだ。
「これ、制服」
風紀が詩音にセーラー服を手渡した。これは美琴に襲われた後、シャツに着替えるために脱いだものだ。背中の生地を包丁でザックリ裂かれたはずだが、その跡は無くなっていた。
「裂かれたところ、縫っといた。その辺に落ちてた布で補修して申し訳ないけど」
「え?」
セーラー服に似た濃い灰色の布で接ぎ当てが成されていた。風紀が詩音の寝ている間に補修しておいたようだ。
「丁度修学旅行用の鞄にミニ裁縫セット入れてたし。ずっと薄いシャツだと冷えるでしょ」
「ありがとう、風紀ちゃん!」
風紀に感謝を述べ、シャツを脱いでセーラー服を身に纏う詩音。極限状態に身を置いていると、たとえ夏の屋外でも寒さで肌が凍えてしまう。
それに加え、貸してもらったシャツも、美穂の弾丸によって肩回りが血まみれになってしまっていた。一刻も早く着替えたかったところだ。
「さてと、孝之達まだ戻ってこないかしら?」
ガラッ
風紀は小屋の扉を開け、外を覗いた。
そこには首を血で染めて倒れた愛奈と、拘束から解き放たれた美琴がいた。
「え……」
風紀の声に反応し、美琴は振り返った。
「フフフ、いたのね……」
ダッ
風紀の姿をとらえると、美琴は包丁を手に一目散に駆け出した。風紀は瞬時に扉を閉めた。
ガッ ガッ ガッ
凄まじい力で扉を開けようとする美琴。負けじと風紀も扉の取っ手を押さえる。
「開けろ! 開けろ! ぶっ殺してやる!」
扉越しに美琴の叫び声が聞こえる。
「くっ……美琴の奴……起きてたのね……」
美琴は今まで気を失ったふりをしていた。早い段階で意識を取り戻し、拘束から脱出するタイミングをうかがっていたのだ。そして、見張りをしていた愛奈の隙を突き、包丁を奪って拘束を解き、彼女を惨殺した。
「広瀬君! 霧崎君! 結希!」
風紀は大声を出し、森に出た孝之達を呼んだ。
「……!」
美琴は近づいてくる気配を感じ、扉をこじ開ける手を止めた。仲間を呼ばれては不利になる。大人数相手では勝ち目がない。焦りを感じ、小屋を去った。
「ふぅ……」
美琴の姿がなくなったことを確認し、風紀はその場に座り込む。美琴の残虐性は孝之から聞いていた。想像以上に殺気立っており、心臓の鼓動が止まらない。
「愛奈……ちゃん……」
開いた扉の隙間から、愛奈の遺体が見えた。詩音はゆっくりと立ち上がり、外へと出る。
「おい、大丈夫か!?」
「なっ……遠藤!」
森の奥から孝之達が戻ってきた。彼らも死んだ愛奈に気付き、そばに駆け寄る。無駄だとわかっていながら、必死に呼び掛ける。
「愛奈! 愛奈! くっ……ダメか……」
「ウソだろ……」
一同は愛奈の死を受け止めた。しかし、詩音だけはどうしても受け入れられず、尚も呼び掛ける。
「愛奈ちゃん……起きて……起きてよ……嫌だ……こんなの……嫌だ……」
悲しみに暮れる詩音を、結希は背後から優しく抱き締める。ついに同じグループ内から死者が出てしまった。
「美琴がいない! まさかアイツが……」
「さっき森の中に逃げてったわ……」
孝之が美琴の不在に気付く。拘束していた大木には、ボロボロのロープだけが残されていた。愛奈は助けを求める間もなく、美琴に包丁で切りつけられ、殺されたのだった。
「マジかよ……」
《5番 遠藤愛奈 死亡、残り9人》
「剣崎の拠点はどこよ……」
智江は相変わらずの単独行動を続けていた。助かりたい一心に狩られ、森をさ迷っていた。わずかな望みにかけて、剣崎の拠点を探す。行ってどうするという目立ても、どうにかなるという自信もない。
ただ、剣崎に会ってこのゲームに終止符を打ちたかった。
ザサッ
「誰!?」
物音をとらえ、周囲を警戒する智江。他人を犠牲にする覚悟は既にできる。いざとなれば、仲間を蹴落としてまでに生き残るつもりだ。
だが、それは彼女も同じだ。
ザクッ
「うがっ!?」
何者かが自分に飛びかかったと思いきや、喉元を刃物で掻き切られた。斜めになる視界に佇んでいたのは、勇ましく包丁を握る美琴だった。
「みこ……と……」
もはや刃物の扱いは軍人並みに手慣れていた。底知れぬ殺意と合わせ、獲物を瞬時に狩り取った。
「あと7人……」
《20番 野口智江 死亡、残り8人》
夜が更けた。結局四日目も犠牲者を重ねて終わってしまった。広い森に翻弄され、榊の居場所へなかなかたどり着けない。詩音達は小屋の中で考えあぐねていた。
「明日は早朝から出発して、榊のところへ向かおう。一秒でも時間を無駄にしないように」
明日はゲーム五日目。最終日だ。明日も無駄に時間を浪費し尽くせばゲームオーバー。生徒は全員殺される。阻止するには、ゲーム終了時までに榊の元へ行き、彼が江波をいじめていた事実を確認し、剣崎へ告発する。
残された道は、それしかなかった。
「でも美琴が厄介よね……」
危惧すべきは美琴の存在だ。彼女は拘束から解き放たれ、森の中でしめしめと獲物を待っている。生徒を見つけ次第、なりふり構わず攻撃してくるだろう。かなりの障害だ。
「あぁ、だから明日は二手に別れよう。榊のところへ行くチームと、美琴を引き付けるチームにな」
孝之は作戦を立てた。一方が美琴の攻撃を引き付ける囮となり、もう一方が榊の元へ説得に向かうというものだ。リスクが高いが、ゲームを終わらせるには命の危機を背負うしかない。
「それで、美琴ちゃんの囮は……誰が……」
「……」
小屋が静まり返る。
「……俺がやる」
孝之がゆっくりと手を上げた。作戦を提案した者として、囮という一番危険な役回りを買って出た。
「待って。一人で行かせるわけにはいかないわ。私も行く」
風紀も勇気を出して手を上げた。結果は詩音と仁、結希が榊への説得、孝之と風紀が美琴の囮役だ。
「孝之、生きて帰ってこいよ」
「あぁ。仁、お前達もな」
お互いにランプの元で誓い合った。明日、長かった地獄に最後の決着を付けようと。
ピロンッ
全員のスマフォが鳴った。剣崎からの通達だ。詩音達は恐る恐るメールを開いた。
『いよいよ明日がゲーム最終日だ。そこでお前らに伝えたいことがある』
* * *
生存者 残り8人
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