欲望について


 ふと、今日から煙草をやめようと思った。昨夜、久しぶりに酒を飲みながら、煙草を吸い過ぎ、器官をやったのか、空咳が良く出る。ということで、本代も確保するために、煙草をやめる次第である。

 煙草を吸いたいという欲望を変えるのは、自分にとって非常に困難であったが、最近、禁煙ブームが流行っている。隠れ家の店で煙草を吸い、駄弁をするのが好きであったが、そこも禁煙になってしまった。私としては少し寂しい。私は幼いころから、将棋道場でおじさん連中の副流煙を吸って生きてきた身であるから、男性が煙草を吸うことが常識だと思っていた。

 ところで、自分の欲望を変えろと言ったのは確かデカルト、である。例えば、痩せたいけど、ダイエットは嫌、と言えば、どちらかの欲望を変えねばなるまい。しかし、人間というのは強欲だ。動物の方がよっぽど質素に生きているのではないか? とたびたび疑問する。そう欲望は尽きないものである。

 しかし、年収一千万稼ぐ人と、年収二百万稼ぐ人、どちらが幸福か? と言ったこともおよそ一般化出来ないに違いない。勤務時間や、ストレスのかかり具合、楽して稼ぐが稼ぐまでに相当な努力を要した人たち、など、色々あるに違いない。

 私の給料は公表しないが、平均的な給料が二十万だとすると、ずっと少ない。しかし、幸福である。本を読み執筆する時間を確保し、さらに働いている時間がずっと少ないから。無論金は欲しい。寧ろ私は金の思想である。同時に愛も信じる。けれど、金がなければ、飯も食えない。

 自分は不幸だと思っている人がいたら、どういった自分であったら幸福であるか、考えてみるといいと思う。例えば、それがノーベル賞を取りたい、という欲望であれば、何故ノーベル賞を取りたいのか? と尋ねてみるのも面白い。それを突き詰めていけば、根源に、自分の本来の欲望が横たわっているに違いない。

 もしその欲望が、現実とあまりにもかけ離れているのであったら、自分がどれだけその理想に向かって、現実を構築しているか、考えてみるのも面白いかもしれない。環境のせいにするのは簡単だ。しかし、環境の力も大きいが、自分の意志の力も大きいのである。

 煙草をやめてみて思ったのが、情動で書いていた詩が、段々と冷静さを取り戻した、というところである。摂取するものが変われば人間は変わるのかもしれない。本当に生理的に、人間そのものが変わってくる、そんなイメージを持つ。

 欲望は生きる上で必要だ。欲望を損なえば、どんな人間に成長するか、ちょっと不安なところもある。ただ、あまりにも過剰な欲望は、人を損なう。だから、もし今の自分の欲望に違和感を持ったら、自分の欲望をよくよく吟味するといいのかもしれない。ちょっとおかしく書けば、事務的に自分の欲望を整理すると、本当に自分が何をしたいのか、見えてくるかもしれない。

 ヒグラシの声が綺麗だ、夏のセミもいいな、こんな哀音を聞きながら、煙草をのむのが好きだったが、黙って聞くのも悪くないと思う、今日。

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