二ノ環・西の大公爵2
陽が沈む頃、私たちは予定どおり西都の城門を潜りました。
西都は険しい山々に囲まれた自然豊かな都です。流れる河川は光を弾いたように輝き、目にも鮮やかな自然の緑が都のいたる所で楽しめます。広大な都でありながら自然と共存する素晴らしい場所でした。
馬車が停車し、ゆっくりと扉が開かれます。
一番先にイスラが馬車からぴょんっと飛びだして、次にハウストが降りていきます。
そして最後の私を振り返り、手を差し出してくれました。
知っています。こういう時は手に手を置くのですよね。
こういったエスコートはやっぱり慣れませんが、パートナーからのそれは素直に受け入れるのがマナーだと学びました。ましてや私はハウストと結婚するのですから尚更です。
「足元に気を付けろ」
「ありがとうございます」
馬車から降りると、ずらりと整列していた西都の方々に出迎えられました。西の大公爵ランディとその関係者の方々です。
「ようこそいらっしゃいました!」
「よ、ようこそおいでくださいましたっ」
公爵家の家紋を身に着けた二人の男性が近づいてきました。見るからに豪快そうな巨漢とひょろりと縦に長い長身の青年です。
二人の姿にハウストは穏やかな笑みを浮かべる。
「久しぶりだな。息災か?」
「お陰様で。魔王様もお元気そうでなによりです」
巨漢の男が親しげにハウストと話し、次いで私を見て恭しく礼をしました。
「初めまして、先代当主のランドルフです。そしてこっちが息子の、おい、ランディ」
「は、はい父上っ。お初にお目にかかりますっ、当主のランディと申します……!」
ランドルフにせっつかれるようにしてランディが挨拶してくれました。
なるほど、こちらの巨漢が先代当主のランドルフ。ハウストがまだ現役で通用すると言っただけあってとても壮健です。
そしてこちらの高身長の青年が現当主のランディ。彼は豪快なランドルフと並んでいるせいか頼りなく見えてしまいます。でもこの若さで当主の座を譲られた訳ですから、きっととても頼もしい方なのでしょう。
彼らの自己紹介が終わると次は私とイスラです。でも先にハウストが間に入ってくれます。
ハウストは私の背中に手を当て、ランドルフとランディに紹介してくれる。
「紹介しよう。俺の婚約者のブレイラ。この子どもが勇者イスラだ」
「初めまして、ブレイラと申します。この子がイスラです」
そう言ってイスラの手を引いてお辞儀しました。イスラも手を繋がれたままぺこりと頭を下げます。
「オレがゆうしゃだ」
「こ、こらイスラ。そうじゃなくて、ほら、最後は『です』ですよ」
言葉足らずすぎて太々しいイスラの自己紹介に私の方が焦ってしまいます。
私の言葉にイスラもハッとして、またぺこりと頭を下げて最初からやり直します。
「ゆうしゃのイスラ、です」
「ガハハハハハッ、これはこれはご丁寧に! 三界の王の一人、勇者様にこうしてお会いできるとは恐悦至極!」
ランドルフは大きな声で豪快に笑いました。
そして一頻り笑うと、ハウストと私に向き直ります。
「魔王様、ブレイラ様、この度はご婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
ランドルフとランディが改めて婚約をお祝いしてくれました。
婚約宣言をした時に書簡を頂きましたが、こうして直接お祝いされると嬉しいものです。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「仲睦まじくて結構なことです。まさかあの人間嫌いの魔王様が人間を妃に迎えられるとは」
「いろいろあってな」
「先代魔王の件は聞いております。でもだからこそ、人間をお迎えするとは驚きました」
ランドルフの直球すぎる言葉にハウストは苦笑し、私は笑ってしまいそうになります。
豪快な見た目どおり裏表のない方なのですね。いささかまっすぐ過ぎるようですが。
「さあ、魔王様、ブレイラ様、勇者様、こちらへどうぞ。視察でいらっしゃっていることは存じていますが、どうぞごゆるりとお過ごしください。といっても西の領土の自慢は豊かな自然だけですが」
「それを楽しみにきている。名所の大瀑布をブレイラとイスラにも見せてやりたい」
「それは良いっ。ランディに案内させましょう!」
「は、はいっ。ご案内いたします!」
後ろを歩いていたランディが慌てて返事をしました。
現当主はランディの筈なのですが、この影の薄さではどちらが当主か分かりませんね。私が想像していた人物像と少し違っていました。でもランドルフ同様、悪い方ではないようです。
そのまま私たちは西都の中心にある大公爵の城館に案内されました。
この後、ランドルフやランディと食事会があるのです。
有りがたいことに到着した今日は盛大な催しが開かれることはありません。西の領土の貴族たちとの夜会は明日からの催しでした。
そう、明日からは予定がぎっしり詰まっています。
ハウストは朝から会議があります。そして私はというと、王妃外交の一環で西都を視察します。といってもまだ本格的なものではなく、視察という名の散策のようなものです。西都を案内して頂けるのです。
でも私にとっては初めての王妃外交。しかもハウストと別行動なので緊張します。
明日に備えて今日はゆっくりしたかったので、今夜は食事会だけで助かりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます