第五章・私は愛されたかったのです。たとえ娼婦のような真似をしても。3
「ハウスト、お久しぶりですね」
そう言ってニコリと笑むと、許可も得ずにハウストの隣に座りました。
そんな私の行動にハウストは少し驚いたように目を瞬く。当然ですね、こんな失礼で不躾な真似はしたことがありません。
でも今、一歩踏み込みたい。これは賭けなのです。
私はハウストの逞しい腕に手を置き、そっと凭れかかりました。
「会いたかったです」
一瞬、時間が停まった気がしました。
でもそれは気の所為で、時間は停まっていない。もう後戻りはできません。
私は彼の腕にしなだれかかるように身を寄せ、もう一度言葉を繰り返す。
「会いたかったです」
「ブレイラ……」
「あなたに会いたかったんです」
声の震えを押さえるのに必死でした。
緊張、躊躇い、不安、そして拒絶されるかもしれない恐怖。それらが混ざり合って、今にも心が破裂してしまいそうです。
今、きっと私は娼婦のような顔をしていることでしょう。
あまりの情けなさに泣きたくなります。でも、それでも私は彼が欲しい。
「ハウスト」
名を呼び、彼の頬に手を伸ばす。
彼を見つめたまま、彼の唇にそっと唇を寄せていく。
お願いです、拒絶しないでください。私はあなたに抱かれたい。心の中で馬鹿みたいに祈りました。
今まで祈ったことなどない癖に、初めての祈りがこれでは神様もさぞかし呆れていることでしょう。
唇が触れあう寸前、ハウスト……吐息とともに名を呼ぶ。
見つめ合う距離が近くなり、唇が触れあいました。
口付けたまま、彼の手が腰にまわって抱き寄せられる。
「ん……」
腰を抱かれ、抱き締められ、深くなる口付け。
勝った! 賭けに勝ちました!
彼に触れ、彼からも触れられたのです。拒絶されなかったことが泣きたくなるほど嬉しいです。
口付けの合い間、唇が触れあいそうな距離でハウストが口元だけで笑う。
「まさかお前に誘われるとは思わなかった」
「……いけませんか?」
「いや、意外だと思っただけだ。お前はもっと潔癖なんじゃないかと」
そう言ってハウストが啄むような口付けをしてくれる。
戯れのようなそれはとても心地良いのに、少しだけ切ないのはどうしてでしょうね。
私からもお返しの口付けをすると、体を抱き上げられてハウストの膝の上に座らされました。
向かい合わせで膝を跨ぐようにして座らされ、近い距離とふしだらな格好に恥ずかしくなる。
羞恥に身じろぐと、ハウストはおかしそうに笑いました。
「だが、やはり慣れている訳ではなさそうだ。あれから誰ともしてないのか?」
息を飲みました。
他意はないと分かっています。でもハウスト以外に抱かれたいとも、触れられたいとも思ったことはありません。
私はそんなふしだらな人間ではありません。でも今、それは酷く説得力に欠けて、自分でも笑ってしまいそうです。
「……した方が良かったですか?」
「お前が決めることだ」
「そうですね……」
苦笑しました。
馬鹿な質問をしました。どんな答えを期待したんでしょうね、聞かなければよかったです。
ハウストの肩に手を置き、笑みを浮かべてそっと口付けました。
今はなにも考えたくない。
体だけでもハウストと触れあって、その存在を感じていたい。
「あ、……ん」
首筋に口付けられ、ゆっくりと夜着をたくし上げられていく。
薄手のローブ型の夜着はさらさらと流れ動き、たくし上げられるにつれて素足を露わにしていきます。
裾がするすると上がっていき、太腿まで晒される。ハウストに跨ったままなので隠すことも出来ない羞恥に唇を噛む。しかしなんの抵抗もできずに、上から夜着を抜き取られました。
「ぅ……」
夜着を脱がされて一糸纏わぬ姿になる。
ハウストは夜着を身に着けたままだというのに、自分だけが裸になっている間抜けさに胸がぎゅっと締め付けられました。
でも、その痛みに気付かない振りをします。
今はハウストに触れたい。ハウストに気持ち良くなってほしい。何度も私を抱きたいと思ってもらえるように。少しでも私が必要だと思ってもらえるように。
ハウストの手が私の性器に伸びたことに気づき、「待ってください」と触れられる前に制止しました。
ハウストの手を取り、長い指に唇を寄せる。
「ハウスト、私がします」
じっと見つめて言うと、彼は意外そうに目を丸め、次に笑みを浮かべました。
それを了承と受け取り、私はゆっくりとした動作で彼の膝から降りました。
そしてソファに座った彼の足の間に跪き、おそるおそる股間のものに手を伸ばす。
「っ……」
衣服越しでも質量を感じるそれに息を飲む。
片手で包めぬほどのそれに両手を添えました。
でもそれ以上は困惑してハウストを上目に見ると、楽しそうに見下ろしていました。
「どうした」
「いえ……」
試されている気がしました。
進むか、退くか、自分で決めろと言われているようでした。
そんなもの答えは決まっています。
私は意を決し、ハウストの下肢の衣を寛げる。
そこから緩く勃起したものがのぞく。
彼の猛りに息を飲むも、おそるおそる両手で触れました。
戸惑いながらも硬いものを手で扱く。
扱けば反応して更に硬くなっていきます。しかし、彼にとってその刺激は子供の遊戯のように拙いだけのものでした。
「口でしてくれないのか?」
「く、くち……」
「嫌ならしなくていい」
「できますっ」
反射的に答えていました。
出来ないなんて思われたくありません。口淫なんてもちろん初めてですが、彼が気持ち良くなってくれるなら構いません。
怖気づきそうになる気持ちを奮い立たせ、私は両手を添えて大きく口を開けました。
「う、ん……、ん、ん……」
口内に入りきらないほど大きなものを頬張り、股間に顔を埋めて頭を前後に動かす。
私の唾液とハウストの先走りが混ざりあい、耳を塞ぎたくなるような卑猥な音が響きました。
しばらく口淫しているうちに、口内の刺激に私の下肢の中心もじんっと熱くなる。
腰を重くする甘い熱にもじもじと腰を揺らしてしまい、その無意識の動きにハッとして全身を赤くしました。
そんな私の姿にハウストが喉奥で笑います。
「まるで動物みたいだな。だが、人間とはそういうものだ」
言い返す言葉もなくて私は黙りこむ。
ハウストの言う通りなのです。
「もういい。よく頑張ったな」
ハウストは優しく言って私を立ち上がらせました。
見つめたハウストの顔は普段と変わらないものです。
必死で奉仕しましたが、私の口淫はハウストにとって単調で物足りないものだったのでしょう。
飽きられるかもしれないと不安になっていると、ハウストは苦笑して私の腰に手を回す。
お尻を撫でられ、指が割れ目をなぞる。
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