第三章・あなたが教えてくれました。 私の目に映る世界は色鮮やかで美しいと。6

「……あの、ハウスト。お腹が空いていませんか? なにか作りましょうか」

「いや、食事はいらない」

「そうですか……」


 あっさりと拒否されて視線が落ちる。

 居た堪れずに指先を握り締めてしまう。

 でも不意に、視界に影が落ちました。私より一回り大きなそれはハウストです。


「ブレイラ」


 名を呼ばれて顔をあげると、思いがけないほど近くにハウストが立っていました。

 思わぬ距離に驚いて一歩下がりましたが、手が優しく掴まれる。


「ハ、ハウスト?」


 事態についていけなくて動揺する。

 どうしてこんなに近い距離に、触れあう距離にいるのか分かりません。


「あの、ハウスト?」


 どうしました? 問いかけようとした私の唇が塞がれました。

 大きく見開いた視界一杯にハウストの整った容貌が映ります。

 有り得ない近い距離。でも唇の感触はたしかなもので、心臓が止まりそうになる。


「な、なな、なにをするんですか!?」


 驚きのあまり引っくり返りそうになりました。

 慌てて身を引こうとして、腕を捕らえられてやんわりと抱き締められる。


「ハ、ハウスト……」


 声が震えていました。

 だって、今、ハウストに抱き締められている。口付けられて、優しく抱き締められているんです。

 嘘みたいです。夢みたいです。心臓が激しく高鳴って壊れてしまいそう。


「あの、ハウスト、ど、どど、どうして……」

「お前にはいつも感謝している。とても助けられているんだ」


 見つめあいながら囁かれた言葉に胸が締め付けられる。

 許されているのでしょうか。

 怒っていると思っていたのは勘違いで、ハウストは最初から私を許していたのでしょうか。


「……いえ、私は何もできませんでした。あなたが間に合わなければイスラは連れて行かれていましたから」

「お前の所為じゃない。俺の油断が招いたことだ」

「でも……」


 言葉をまた口付けで遮られました。

 二度目の口付けに胸が震える。

 二度目なら偶然ではありません。夢ではありません。


「ブレイラ、お前は俺が好きなんだな」


 そう問われ、私は馬鹿みたいに口を開いたり閉じたりしてしまいます。

 胸が苦しくて、うまく言葉が出てきません。早く返事をしなければと思うのに、胸が張り裂けそうなんです。

 もしかして、もしかしてハウストも私のことを好きでいてくれているのでしょうか。

 きっと、きっと好きでいてくれていますね。だって口付けてくれました。優しく抱き締めてくれました。

 好きです。今すぐ伝えたいです。

 でも言葉が震えてしまう。だって、ずっと恋していた相手です。

 だから、せめて……と小さく頷きました。

 顔は恥ずかしいほど真っ赤です。なんとか頷いて答えた私に、ハウストの目元が優しくなる。


「そうか、お前は初めて会った時と変わらないな」

「ハウスト、……ぅ、ん……」


 また口付けられました。

 緩く開いた唇にハウストの舌が忍びこんできました。

 驚いて思わず奥へ引っ込めましたが、口付けの甘さに誘われるようにおずおずと舌を差しだしました。


「う、……ん、ぁ……っ」


 舌を絡められ、そっと離れたかと思うと、今度は角度を変えて深く唇を重ねられる。

 どうしていいか分からず私はされるがままになってしまう。


「わっ、ハウスト! お、降ろしてください!」


 突然抱き上げられて驚きました。

 思わず腕を突っぱねようとしましたが、「落ちるぞ」と囁かれて今度は逆に抱きつく。

 するとハウストは面白そうに目を細め、私の体を優しくベッドに横たえました。


「あの、あの……、わたし」


 見上げれば彼と目が合い、どうしようなく心臓が高鳴る。

 今、抵抗しないことが何を意味するか分かっています。

 他人との接触を極力避けてきたので私は童貞で、もちろん誰かに抱かれたこともありません。でも、幼い頃から詰め込んできた知識にそういったものもあります。

 怖くないといえば嘘になります。

 でも、私は抱かれたい。


「ハウスト……」


 名を呼ぶとハウストは笑み、優しく口付けてくれました。

 唇を重ね合ったままハウストが私に覆い被さり、服の布越しに体をなぞられる。

 なんともいえない感覚が体に甘く灯り、小さく身じろぐと彼が喉奥で笑った気がしました。


「ん、あ……」


 笑わないでください、そう伝えたいのに唇からは吐息のような声が漏れてしまいます。

 ハウストの唇が私の首を這い、衣服を乱しながら胸へと降りていく。

 隙間から覗く胸の突起を舌先で弄られると、悩ましい熱がじんっと腰を重くする。

 気が付けば衣服を脱がされ、私はハウストの下で素肌を晒していました。

 恥ずかしくなって彼から逃れようとしましたが、その前に手首を捕らえられ、ベッドに優しく押し付けられました。


「大丈夫だ、ブレイラ。悪いようにはしない」

「でも……」

「気持ちよくしてやりたいだけだ。お前には感謝していると、いつも言っていただろう」

「……ハウスト」

「大丈夫だ」


 もう一度ハウストは言うと私の額に口付けました。

 宥めるようなそれは心地良くて口元が綻ぶ。緊張で硬くなっていた体から徐々に力が抜けていくようです。

 それに気付いたハウストが「いい子だ」と掴んでいた手首を解放してくれました。


「あ、ん……」


 手が腰へと降り、太腿の裏側を撫であげられる。

 足の付け根をなぞられたかと思うと、大きな手が性器を覆ってやわやわと揉み始めました。


「ぅっ、う……あ」


 唇を噛み締め、漏れそうになる声を耐えます。

 他人の手で性器に触れられるのは初めてで、体内を巡る甘い熱をどうしていいか分かりません。


「ブレイラ、噛むと傷になるぞ?」

「っぁ、でも、……ふっ、ぅ」


 それでも唇を噛む私にハウストは困ったように小さく笑うと、そっと唇に口付けてくれました。

 甘やかな口付けに噛み締めていた口元が綻ぶ。すると唇の僅かな隙間から舌が差し込まれて深く絡めあう。


「あ、ぅ……んっ、ああ……ッ」


 性器をゆるゆると扱かれ、ハウストの手の中で徐々に硬くなっていく。

 先端からは透明の雫が零れ、扱かれる度にくちゅくちゅと卑猥な音が鳴り、はしたなく反応してしまう羞恥に居た堪れなくなってしまいます。

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