昨日の私、明日の私。

はちこ

第1話

 人間の体は、ひたすら細胞分裂を繰り返している。一番短い周期で細胞が入れ替わっているのは腸。数日で入れ替わるそうだ。確かに、髪の毛や爪は伸びているのを実感できる。さらに皮膚は4週間、血液が4か月、そして骨は4年で全てが入れ替わる。つまり、私は4年経つと、細胞的には別人。毎日少しずつ、昨日の私に別れを告げて、明日の私に出会っているのだ。

 そう聞くと、なんだか不思議な気分になる。なぜって記憶は残っているし、性格も変わっていないから。そして、そんな私は、過去の出来事にとらわれて、いつまでもくよくよしたり、うまくいかなかったことを思い出しては、何度も何度も後悔する。その上、起こってもいない何かにおびえ、いつも最悪の状況を想定しては、様々なシミュレーションを行っている。過去は変えられない、でも、未来は変えられる。そう分かっていても、過剰に心配症な上に、くよくよした性格は治りそうにない。本を読んだり、SNSにあふれる名言を見ては考え方を変えようとしてみるが、なかなかうまくいかない。さらに、人と比べる癖もやっかいだ。どうしたって自分に自信がもてなくて、他人をうらやんだり、嫉妬したりしてしまう。その他人だって、細胞が入れ替わって別人になっているというのに…


 子育てが少し落ち着いた今日この頃、前に比べると、自分と向き合う時間がとれるようになった。さらに、若い時よりも、自分に残された時間を意識するようにもなっている。明日も生きているという保証はないのに、残された時間を意識するというのも変だが、「人生80年」と言われて久しく、やはり自分も人並みに年を取って、そしてその先に死があると思っている。だからこそ自分を変えたい、そして、昨日よりも今日、今日よりも明日を活き活きと生きていたい。そんな風に考えるようになった。 

 そう思い始めて始めたことの一つに「断捨離」がある。断捨離は、入ってくるものを断ち、必要ないものを捨て、最終的には執着する心から離れる。出会った”モノ”との別れ方のプロセス。入ってくるものを断ち、必要のないものを捨てる時に、一番邪魔をするのが、執着する心。逆に言えば、執着する心と別れることが出来れば、断つこと、捨てることは楽になる。ただ、執着する心ほど別れがたいものはない。別れがたいが、執着する心を少しずつ手放していきたい。そうすることが、自分を変える近道のようにも感じている。

 昨日の私にこだわること、つまり執着する心が、今の私を苦しくさせる。今が苦しいと、明日の私が心配になる。逆に言えば、昨日の私を手放せば、今は今として生きられるし、明日の私はきっと違う私と思うことも出来そうだ。

 毎日毎日、古い細胞に別れを告げて、新しい細胞に出会う。4年経てば体全体別人になっている。きっと執着する心を手放した新しい私になれる。そう信じて、今を精一杯生きる。昨日でもなく、明日でもない、今の私と。

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