第七話 僕達私達の日常です(真)~イカれた愛に首輪の贈り物~③

「こういう時は、恥ずかしがらなくていいのよ」


 と、綾瀬のそんな言葉。

 そして、そんな彼女に連行されてから数分後。


 現在、直江は綾瀬の部屋へとやってきていた。

 そしてそして――。


「あの、ちょっと聞きたいんですけど」


「あら、なにかしら?」


 と、直江の太ももをツンツンしながら、言ってくる綾瀬。

 直江はそんな彼女へ言う。


「いやこれ……ベッドで横に並んで座る必要あるんですか? 普通にそこの座布団を使えばいいんじゃ」


「へー……そう、あんた照れてるでしょ?」


「そりゃ照れますよ! 僕は柚木の家しか上がったことないし、柚木はあんなだし……っていうか、顔を近づけてくるのやめてくださいよ!」


「直江ったら緊張しすぎ。別に取って食うわけじゃないんだから……でも、今みたいに可愛い直江もあたし、好きよ」


 同時、耳に「ふぅ」っと、息を吹きかけてくる綾瀬。

 直江がそれに対し。


「ひゃうっ!?」


「あははははっ、なんだか今日の直江……本当に可愛いわね」


 足をぱたぱたしながら言ってくる綾瀬。

 どうやら彼女、本格的に御機嫌にようだ。


(この様子を見るに全部、僕をからかう材料なんだろうな)


 綾瀬の部屋に二人きり。

 おまけにベッドで並んで座っているこの状況。

 さらに「好き」とか言ってくるのも全部。


 正直、心臓に悪いことこの上ない。


 綾瀬は微妙に性格が歪んでいるが、美人なことは美人なのだ。

 しかも、柚木やクロと違って映画に出て来そうな美人。


「あら……直江ったら、やたら情熱的な目でわたしを見てくれるわね」


 と、考えている傍から言ってくる綾瀬。

 彼女はそのまま立ち上がり、直江へと言葉を続けてくる。


「さて……情熱的で野獣な直江に襲われないうちに、わたしはお菓子の準備でもしてくるわ」


「え、いや……悪いからいいですよ! さっき、お茶もいただいたばかりなのに!」


「何気にしてるのよ? 直江はお客様なんだから、わたしがおもてなしするのは当然。だから、あんたは黙って座ってなさい」


「いやでも――」


「で・も・は・な・し」


 と、直江のおでこをピコンとつついた後、部屋から出て行ってしまう。

 すると当然、部屋に残ったのは。


「…………」


 相手が綾瀬とはいえ、女の子の部屋に。

 それも、ベッドの上に一人きり。


 圧倒的に気まずすぎる。


 とりあえず、立とう。

 このままベッドに座り続けるのは、ハードル高すぎる。

 そして、直江が立ち上がったその時。


 ガタ。


 と、半開きになっていたクローゼット。

 そこから、何かが落ちたのが見えてしまう。


「んー……あんまり触らない方がいいんだろうけど」


 落ちたところを見たのに、そのまま放置。

 それはそれで気が引ける。


 直江はそんなことを考えた後、クローゼットの方へと歩いて行く。

 そして、落ちた物へと目を向ける。


「ノート……だよね?」


 拾って勉強机の上に載せてあげよう。

 別にそれくらいならば、失礼ではないに違いない。


 そして、直江は後悔した。

 そのノートを手にとったのを。

 ノートに書かれたタイトルを見てしまったのを。


「な、なんだ……これ?」


 ノートの全面に張られていたのは、更衣室でお着換え中の直江。

 そして、その下に書かれたタイトルは――。


「直江……観察、記録?」

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