光輪

判家悠久

every scene.

 金曜の夜更けを跨いだ、2027年3月27日土曜日。六本木テレビの深夜人気番組『朝まで健康的なテレビ』は、改正BPOによるもっと柔和な進行との指導を程なく受け入れて、看板は変わるも、活発な討論番組として深夜から早朝迄の長時間番組を継続承認される。


 今月のこの日のテーマは「深淵!ドーなのU・F・O」。以前の国体とはを論じていた面影はほぼなく、不思議系を解読しようと、手を替え品を替え活発な討論が展開される。

 司会は長年そのまま現役の田原総一朗。総合司会は局アナの鮭延一途と、無制限に酷使される局アナの自律AIカリンが、巧みに討論を導く。

 そして車座に並ぶパネラーの8人は、最古参のUFO研究家魚沼英満、ギークな軍事研究家菱川松樹、政府の御意見番の民間シンクタンク所長水野富臣、胡散臭い国際経済学者香宗我部舜、タレントでも群を抜く明晰な慶長大学大学院生成宮ニーナ、海外各映画賞を受賞する新進気鋭監督宇喜多純哉、野党社会統一党の剽軽な参議院議員栃尾真司、与党自由救国党の重鎮参議院議員上杉延子等が、UFO即ち未確認飛行物体と言う終わり無き議論をど真面目に論じ合う。


 六本木テレビの通称ハイラウンジスタジオを一望出来る、サブ・コントロール・ルームで前のめりになるのは、ヒットメーカーのプロデューサー祝延謙太に、 うら若きディレクター織部晶が、一喜一憂しながらも、田原総一朗の進行を見守る。


「祝延P。今回のテーマも際どいですね。結局都市伝説のUFOじゃない、バッチリキッカリの未確認飛行物体に傾倒してるじゃないですか。はあ、絵師さんにCG外注出したのに、素材注ぎ込むタイミング逸してますよ。残りの2/3を何処かで投げますからね。銀河系宇宙人入れないとどうしても視聴者の大半逃げますからね。次いでにAIカリンのパラメーターも振り役を強めます」

「織部D。改正BPOなんって、今や形骸化だろう。意見書3枚書いて、ほらごめんなさいだ。そもそもSNSの規制超えて、これだけUFOの動画が溢れきっていては、俺達は事実追求している立派な報道記者そのものだ。六本木テレビの入社の誓いを忘れたか」

「今回の朝健、巧みに都市伝説検証番組な宣伝でしたけど。いざ初っ端から、これって、ギークな菱川さんが軌跡だけで次々ぶち当てて、諸外国の無人航空機の真夜中の夥しい襲来になってますよ。そう、解像度上げたら、半民生の無人航空機は大網羅に、軍需もロシアのペテルギウスβ筆頭に、中国の地平線、韓国のドンギー01、終いには今や調印だけの同盟国のアメリカのプレデター7もわんさか。スカイクルーズ以外に、本当の狙いとして何したいのですかね」

「さあな。日本はGDP7位国に欠け落ちても、パンデミック特措法で準鎖国だからな。周辺国は、今の日本はどうなのと気になって仕方ないだろう」

「田原さんの俯瞰で語る、流行病前の日本の在り方のままで良かったと思うのですけどね。次いで第二次冷戦に突入して、文化交流も途絶えて良いのですかね。まあおやつ無しで三食きちんと食べていたら、そこそこの生活は出来ていますけどね。いざですか、貧するに慣れると底がないものですね」

「そもそも、日本の大周辺地域は軍事立国なんだよ。第二次冷戦に呑まれない様に、不可侵を貫きたかったら、今ではアクセルワクチンで流行病を予防出来ているも、見せかけのパンデミック特措法で入国制限するしかないさ」

「まあ、アクセルワクチンを打たないナチュラリストが3000万人がいれば妥当な法案ですけど。これって意図的な国策を感じますよね。あっとモニター、また火花散った。どうします、CM割り込みますか」

「CMはいいから、そのまま。今や朝健のお約束の下りだ。さて」



 収録中のハイラウンジスタジオフロアは、今やタイマン状態の慶長大学大学院生成宮ニーナが果敢に、応じるは冷静な司会田原総一朗。


「ですからね田原さん。ロシアは世界の敵なのです。今や大国の意思で不干渉地域に指定された祖国ウクライナ、いいえ彷徨える各国を復活させて下さい。日本国には、それを進言する義務は有ります」

「ニーナさん。でもね、冷たい言い方をするけど、今の君は日本国籍の日本人だよ。この大地で暮らし、憲法で守られている以上、適切な意思の上で活動した方が、君のより安定した生活に繋がる筈だよ」

「いいですか、私は他人事を言ってるのでは有りません。私の生父はウクライナで抗戦しては死にました。その後の私達は悲しみにくれましたが、日本に逃れ、現在の日本の継父の理解もあって、高等教育の道を歩んでいます。出来うる事を為すのが、世界中に散った、ウクライナ、いえ紛争に巻き込まれた兄弟達の務めと思います。そうですよ田原さん、第二次冷戦は深刻な問題です。今や全体主義の国々は半分以上の勢力に筆頭しています。ですからこそ、世界中の不干渉地域に祖国としての自治権を戻し、真実の自由主義に戻るべきです」

「ニーナさん、それは絵空事だね。全体主義は今や世界の人々が望んだ結果の末の世界循環になってしまっている。そもそもSNSで何故自ら進んで、全ての個人情報を報告しないといけないのかな。誰かに見て褒めて貰いたいからでしょう。人間の根幹って、やはり承認欲求のエゴそのもので、国家がそれを体良く真っ先に認めている今の状況は、あるべくしての姿だよ。その対極の何でも反対のレジスタンスとはを再定義すべきですよ。何が真の目的で何処に向かうのか。そう、既に純粋無垢なレジスタンスはどうしても僅かで、やはり疲れ切って反抗する体力も無いですよ。過度な肩入れはそこ迄にしましょう」

「ですが、レジスタンスがこの世界にいる以上、第二次冷戦で引かれた辛すぎる線引きは解消すべきです。このままでは蹂躙されて行く地域紛争が絶えません。戦争反対。これこそが真実の路です」

「でもねニーナさん。どちらの側であってもですよ、戦争にも紛争にも、正解は無かったと思い知るのですよ。2022年のロシアのウクライナ侵攻は非常に辛い出来事ですが、両国ともに、自由な場所、インターネットを存分に使い倒して、第二次冷戦のトリガーにしてしまった。アップされた動画の数々で世界中が完全な暴力を許容してしまったのは、まず大きく嘆くべきだったのです。そう動画は客観視を促せるが、主観視もそのまま浸透させる事を証明してしまった。長い時間を掛けての共に生命を奪い合う事に虚しさを覚えてしまい、正しいか正しくないかの幾重もの議論で、どうしても二分してしまうのは、前提である、凄惨な戦争と紛争とはの根源を深く考える時間が無さ過ぎたね。だけどね、ニーナさん、君達は若い。これから丁寧に時間を掛けて、世界の全ての出来事に互いに真摯に話し合うべきなのです。この朝健の様にね。私は出来ると信じていますよ。理性的な新たな平和の未来をね」



 朝健の映ったモニターには、田原の発言にSNSからの賛辞が次々送られて来てテロップとして流れる。

 それを見守る、織部Dと祝延Pがただ感慨深げに拍手を送りながらも。織部Dが不意に拍手の手をゆっくり止める。


「流石は田原さんですよ。まあ、良い展開なのですけど。祝延P、ドッペルゲンガーって信じます」

「ああ、見ると本人が見ると死ぬとか、何も話さないとかの、超常現象だろ。それがどうした」

「それ、いつの間に、同時刻に田原総一朗さんが二人もいるんですか。朝健は生放送、24区テレビのホワイトナイト24も女子大生生番組で、罰ゲームの超絶ワサビ寿司でお笑い芸人そのままのリアクションしてますよ。ディープフェイクでもこの滑らかなフレームレート制作出来ないですよ。田原さんは双子の弟さんいませんよね。いやホワイトナイト24は部分収録かな、それにしては裏かぶりのお伺い来てませんよ。はあ、まあ、あの24区テレビなら有りえるかな」

「田原さんのそれはだな。ドッペルゲンガーとは違うがバイロケーションの方が当てはまるかな。定説では分離して2つになるが、田原さんは徳が高すぎて可能な限りだ。そう田原さんは、この首都圏に隈なく存在するんだよ。他の局のモニター見てみろ、しっかり映ってるから。右から順に、国民放送の深夜散歩のナビゲーター。教養放送の私の書歴のレビュアー。新橋テレビのショッピングナビゲートの、漕ぐの軽快だね田原さん、細身のエアロバイク良いよ買おうかな。そして六本木テレビの朝まで健康的なテレビはナウだ。赤坂テレビのオールランキング100では、彦根の埋もれ木を美味そうに食べて、たまには和菓子食べたいよな、今度皆に差し入れするか。24区テレビのホワイトナイト24は、田原さんまだもんどりを売ってるよ、笑いどころ知ってるのか引くね。テレビ虎ノ門のミッドナイトライブハウスにようこそは、ヘビーメタルバンドを従えて演歌のメロディー歌うなんて多彩だな。あとの地方局は、メトロポリステレビのアニメのEX異世界源氏物語で高僧か、画面の半分ノイズはまあ虎ノ門は爆心地だからな。横浜放送、幕張テレビ、テレビ浦和が放送網途絶してるのは、相当広範囲な訳だな」

「いや待って下さい、祝延P。ドッペルゲンガー違う、そのバイロケーションとしても、どうしてここ迄田原さんが分身出来るですか、田原さんは確かにあの高齢でも只者では無いのですが、何をどう超常現象を起こせるのですか」

「織部D、まだ気付かないのか。モニターの良くカウンター見てみろ」

「2027年3月27日土曜日、そして3:44:55、もう明朝ですよね。いや、コンマ55が00からずっとループしてます。六本木テレビはまだ最新設備ですよね、放送機材のテーブル壊れる筈もないのですけど、おかしいな、サーバー叩けば直りますかね」

「織部D、壊れてはいない。編集ディスクのSSD放送映像遡って観てみろ」


 織部D、遮二無二に編集ディスクに齧りついては、SSDに記録されてる朝健の放送映像をほんの10分前からプレイバック。


 3:37:03。モニターに緊急速報のテロップ。ロシアからの世界追討宣言が発布。

 3:39:59。続け様に緊急速報のテロップ。ロシアによる限定地域での戦術核の行使発言。

 3:41:31。尚も緊急速報のテロップ。内閣府からの緊急速報、直ちに頑丈なフロアに隠れて、戦術核に備えよ。

 3:42:15。画面のワイプに、メトロポリステレビ提供の、ロシアの無人航空機ペテルギウスβが高解像度暗視映像で低空を徘徊する中継を見せる。

 3:43:31。ワイプが突如ホワイトアウトし、クラッチノイズが一瞬入っても、朝健の収録が続く。


 織部D、呆気にとられながらも、半開きの口が漸く言葉を吐く。


「まさか、東京が、こんな無人の未確認飛行物体に、なんですか、」

「まあ今更だな。第二次冷戦前のディスカバージャパンを忘れらなくて、周辺国は官民共に攻めて無人航空機で日本の模様をリアルタイムで見たいからな。航空レーダー適用外で容易く入って来るものさ。甘かったかどうかは、日本に限らず世界中は今もこの有様だ。現実を受け入れよう」

「そんな、まさか私達、いや、そう、死んでるんですか」


 織部D、不意に朝健のモニターに視線を移すと、田原総一郎のいる筈の席に何故か笑みに満ちた大日如来の等身大の仏像が鎮座する。


「いつの間に御本尊のセット。いやこの頬笑みは、田原総一郎さん、そのもの、これはどうして」

「織部D、やっと見えたか。どうやら現実を思い起こした時に、田原総一郎さんの、本来の大日如来の御姿が見えるらしい」

「田原さんは、実は大日如来だったのですか」

「いや本来の大日如来曰く、知れず長らく説法を説いていたら解脱の境地に辿り着いたとの事だ。何だ、本人から聞いた事ないのか」

「あっと、いや、無いも、うっすらと有るかな。流行病またですかねが、現世は忙しないねから、急カーブで感染者が減った様な。まさか、ですよね」

「大日如来は実に謙虚な方さ、さあ、織部D。もう分かっただろう、あっちに行こうか」

「それは、涅槃の事ですよね」

「ああ、この流れ行く金剛光の集約先に歩むだけさ。因みに、俺が一緒で良かったか」

「大丈夫です。そういう台詞待っていましたから」


 大日如来から降り注ぐ金剛光の中、祝延謙太が右手を伸ばすと、織部晶が左手をそっと手を置き、ただ溢れる御光の先へと恐れも何も無く旅立ちの一歩を踏み出す。

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