フィオナ ~とある冒険者ギルド受付嬢の出会い~

柳生潤兵衛

四人組

 カストポルクスという星。エンデランス王国子爵領の町ダイセン冒険者ギルド


***

 

「フィオナ、新規登録の希望者のようだ。君が担当してくれ」


 私はフィオナ。二十五歳。

 十二歳からここで下働きを始めてから十三年。正規職員になって十年で、若手から中堅へと差し掛かっている。


「はい」


 私達は生まれた時に、女神ディスティリーニア様からスキルを一つ授かる。

 スキルには、教えてもらったり訓練したりあるいは自然と身に付くスキルと、女神様から特別な期待を込められた者が、誕生時に授けられて後天的には取得できないスキルがある。


 後者は極々限られた人数しか存在しない。

 そんなスキルを授かった人は、国に召抱めしかかえられて国の騎士や魔術師を率いるまでになったりする。


 前者のスキルを授かった多くは、それぞれの特徴を活かせる職業に就くのがほとんどだ。

 生産系のスキルであれば職人や商人に、戦闘系や魔法のスキルであれば冒険者や領軍、時には教会に身を捧げる者もいる。

 私は生産系でも戦闘系でも無い知識系のスキル、【管理】を授かった。

良い家柄や、金銭的に余裕がある平民であれば、学校へ通い国や地方の官吏かんりにもなれるスキルだが、貧しい家の出の私は就業可能年齢の十二歳から冒険者ギルドで下働きをしてスキルを活かしてきた。


「冒険者登録をしたいんだけど、ここでいいのか?」


 受付カウンターには、私と同じくらいの年齢の黒髪の男が立っていて、その脇には珍しい白い毛の獣人の女の子と、お揃いの茶髪で姉妹らしき女の子二人の計四人。

 冒険者も“仕事”なので、登録可能年齢は十二歳。獣人の子は微妙だけど、女の子二人は絶対十二歳以下ね。


「はい、大丈夫ですよ。お一人ですね?」

「いや、四人だ」

「えっ?」

「四人だ」


 ええ~っ! 見えないんですけど~? 四人? 全員?

 ギルドの正規職員になって十年。今まで色々な冒険者を見てきたけれど、十二歳以下の子供を堂々と連れてきた人は初めてよ?

 何この人?


「あ、あの……、あなた以外は十二歳以下のように見えますけど」


 百歩譲って、獣人の女の子は十二歳以上に見えなくもないけれど、全員ってことはないわ!


「みんな十二歳以上だ」


 なに言っちゃてるの? この人! 


「……見えないんですけど」

「みんな十二歳以上だ」


 だから! ぜんっぜん見えないんですけど? バレバレですけど?

 この男じゃ話が通じ無さそう。こうなったら女の子に直接聞くしかないわ! 一番小さな子に聞こう。


「……お嬢さん何歳?」


 女の子は、自分の手で指折り数えて元気に答えてきた。


「なな――」


 そう! 七? さ? い?


「――なななんと! 十二歳だ。な? アンニタ?」

「うん! じゅうにさい!」


 この男! 遮ってまで私を騙したいのかしらっ! 最っ低!

 その子の手! どう見ても七じゃない! 私を……冒険者ギルドをおちょくっているのかしら?


 ……いいわ。落ち着くのよフィオナ。落ちつけ私。

 このギルドには、鑑定石っていう物があるわ。

 これを使えば、名前や年齢、大まかなスキルも判る。

 でも、人間正直が一番。ここはこの男に自分で本当の事を白状してもらいましょう。

 ほら、他の二人の女の子が男を不審に満ちた目で見ているわ。もしかしたら彼女達もこの男に騙されて連れてこられたのかもしれないわね。


「本当ですか? 調べるので必ず判るんですよ?」

「本当だ」


 まだ言い張る気?


「ちなみに、そう言い切れる根拠は?」

「そういう民族だからだ」


 はあ~? そんな民族いる~? 私、見た事ありませんけど~?

 ほらっ! 女の子達が驚きのあまりに目を見開いてから、あなたを睨んでいますよ~?


 ……いいでしょう。この男に現実を突きつけてやりましょう!

 鑑定石を使います!


 ギルドの貴重品保管庫から鑑定石も持ってきました。


「これは石に手をかざした人のステータスの一部を鑑定できる物です。そのお嬢さんの手をかざして頂けますか?」


 アンニタと呼ばれた女の子と、男が軽く目を合わせた。


「アンニタ、手をかざして見せてあげなさい」

「うん!」


 さあ! あなたの嘘が白日はくじつもとに晒されますよ?

 アンニタちゃんが鑑定石に手をかざすと、鑑定石の内側に私にしか見えないようにステータスが表示された。


 ――じ、十二歳? えっ? 嘘……。何かの間違い?


 でも、鑑定石は嘘を表示しない。

 私が間違っていたのだわ。私が人を見た目で判断したからこんな事態を招いたのよ……。


 誠意を持って謝罪しなければ! ギルド職員の品位を落としてしまうわ。

 私は姿勢を正して、胸に手を当てて頭を下げる。


「たしかに十二歳でした。失礼致しました。皆さんの冒険者登録を進めさせていただきます」


 他の二人の女の子も十二歳以上だった……。

 人を見た目で勝手に判断する愚かさを思い知ったわ。

 ……いるのね。そういう民族って。


「お待たせしました。こちらが皆さんの冒険者証です。再発行にはお金がかかりますから、無くさないように注意して下さいね」


 冒険者証と規則冊子を渡して説明する。

 男の方と、アンニカさんというアンニタちゃんのお姉さんに規則の説明をしているけど、男の人は上の空。アンニカさんはまじめに聞いてくれている。

 獣人の子とアンニタちゃんは、何にも聞かないで打ち合わせ用のスペースに行って、素行の悪い冒険者がちょっかい掛けてきたのを面白そうに撃退している。

 登録したてなのによくやるわ……。

 この四人は何者かしら? いずれ大物になるに違いないわ!


 私も負けていられない! 人を見た目で判断するのではなく、しっかりと人となりを見抜けるような立派なギルド職員になるのよ!


「よし! お仕事、頑張ろう」


***


 フィオナはその後、数回彼らを見かけたが、以降会う事は無かった。

 ギルド職員は、新たな冒険者と出会い、時には相談に乗ったり育成したりして、町・地域に貢献する冒険者と良い関係を築く事が求められる。


 冒険者は活動場所を選ばない。いい依頼を求めて他の地域や国に移動する事も珍しくない。

 もちろん、依頼を完遂出来ずに途中で命を落としてしまった冒険者との悲しい別れもある。


 フィオナら冒険者ギルドの職員は、様々な出会いと別れを繰り返し、今日も新たな冒険者と出会う。



 ただ、フィオナは知らなかった。

 

 この四人は、他の世界から最強ダンジョンをくぐり抜けて転移してきた猛者である事、いずれ大物になるどころではなく、既に大物なのだという事を……。


 彼らの高等魔法で巧妙にステータス偽装されていた事を……。


 そんな民族なんていないという事を……。


 アンニタちゃんは、本当は七歳だという事を……。


 頑張れ! フィオナ。




※※


下記作品の、57・58話内のエピソードをフィオナ視点で書いた物語です。

『魔法大全』を持って征く! 俺と最強白狐娘の異世界“ながら”侵攻記

https://kakuyomu.jp/works/16816927860248472734


併せてお読み頂ければ幸いです。

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フィオナ ~とある冒険者ギルド受付嬢の出会い~ 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee

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