第20話 世紀末覇者

 「……ヘライオス。これは正気なのか?」

 「ええ、何か問題でも?」

 「こんな世紀末覇者みたいな椅子に座って町を練り歩くのか?」

 「ええ、ここら辺の即位式の伝統ですから」

 「…………けど暗殺とかされるかもしれないし」

 「グラルド様を暗殺できるような人はいないでしょう」


 よくわからない内にとんでもない事になっていた。

 金細工の禍々しい椅子に座って、神輿のように担がれて、町をぐるっと回りながら新王のお披露目パレードをするというのだ。


 今まさに領民達を目下に従えて、乗り心地の悪い椅子に揺られている。

 領民達は何のパレードかよくわからないまま、祭りの見物にでも来たかのようにパレードを見守っていた。


 「ユグルの民よ。ユグルはユートリアス王国となった。我らが王グラルド・ユートリアス様を讃えよ!」


 100メートルおきくらいに兵達が揃って大声をあげる。

 それから銅鑼を叩き鳴らす。


 「偉大な王グラルドは、一人敵陣に乗り込み千の兵の前に立つ。その覇気は、兵の波を割り、その腕は雷鳴を轟かす。兵の屍の山の上、一人立つのはグラルド王。ああ我らがグラルド王~」


 え……吟遊詩人?そんなやつまでいるの?

 なんだろうこの恥ずかしいパレード。

 早く終わらないかな。


 「グラルド王ですって。誰かしらあの人。なんかの余興?」

 「さあ。けどちょっと可愛い顔してるじゃないの」

 「ユグルはハースタン公国じゃなくなったのか?」

 「おいグラルド王よ!税金無くしてくれ!」


 そんな市井の声が聞こえてくる。


 ほとんどの領民は未だ何が起きたのか分かっていない。

 ユートリアス王国なんて聞いたこともない国がハースタン公国の兵を打ち破るなんて思いもしないだろうから当たり前だ。


 町を半分ほど回ったあたりで、兵達の足が止まった。


 「どうした?何かあったか?」

 「それが、変な女が騒いでいて」


 変な女?

 前方を見ると何やら見慣れたオレンジ色の髪が見えた。


 「お前、どうして私を置いて行った!野良犬に食われそうになっただろ!」

 「パレードの邪魔だ!そこをどけて!」

 「うるさい!邪魔するな!降りてこいグラルド!降りろー!」


 モルちゃんだ。すっかり忘れていた。

 そういえば昨日戦場で気絶させたままだったな。

 また暴れそうだからもう一回気絶させるか。


 俺は椅子から降りて、モルちゃんの前に立った。


 「なんだお前、そのかっこいい服は。そんなかっこいい服を着て偉くなったつもりか。私は騙されないからな!」


 モルちゃんっ……!

 俺は思い違いをしていたようだ。

 モルちゃんはとてもいい子だ。


 「昨日は悪かったな。お前も立役者だ。一緒に周ろう」


 俺はモルちゃんの手を引いて椅子の上に上がり皆に向かってモルちゃんを紹介した。


 「この者は昨日の戦いで戦果を挙げた偉大な魔法使い、モルモル・メルメルだ!」

 「ど、どういうつもりだこれは。こんなことで私は懐柔されないぞ」


 兵と見物人達の間で歓声があがった。


 「あっ、あの子昨日見たぞ!馬鹿でかい火球を出してた子だ!」

 「あんな魔法使い見たことないぞ!」

 「モルモル!モルモル!」


 モルちゃんは嬉しそうに皆に向かって手を振った。

 パレードの主役はモルちゃんに譲った。

 あとは寝ながらやり過ごそう。

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