第19話 かっこいい服が欲しい
「グラルド様!まさか本当にユグルを落としてしまうとはっ……!」
「ヘライオス。これでお前の悩みは解決しただろ」
「ユグルを占領したら次はハースタン公国の本隊が来るだろうな。ヘライオスの悩みはつきねえよ」
「ビバル殿の言う通りです。私の悩みはつきませんが、今日は一先ず祝杯をあげましょう!」
「祝杯にはこいつもいれてやってくれ。ジョイスだ」
俺はジョイスを皆に紹介した。
「……ジョイス?ジョイス・ハーマン!?」
「元ユグル領主のジョイス・ハーマンです。よろしくお願いします」
「お目にかかれて光栄であります。わわ、わたくしめは、ヘ、ヘライオスと申します」
へライオスは目を泳がせて挨拶した。勝負に勝ったのに権威に負けるとは不甲斐ない男だ。
「(グラルド様、なぜハーマンがまだここにいるのですか!?)」
「ユグルの政務はジョイスに任せた。お前も宰相として二人で仲良くやってくれ」
ヘライオスは開いた口が塞がらないようだった。
楽しそうで何よりだ。
「早速ですがグラルド様。まずは領民にユグルがグラルド王国になった事を伝えねばなりませんな」
「それはすぐにか?」
「ええ、早い方がいいでしょう」
「ちょっと待て。その前に格好いい服が欲しい」
「はあ、服ですか?」
「そうだ。格式高い男の服だ」
「……何を言ってるんですか?」
「グラルド殿。服なら私の物を着るといい。マールに用意させよう。マール来てくれ!」
「お呼びですか?ハーマン様」
どこに潜んでいたのか、さっきのおばさんがさっと現れた。
「グラルド殿に最高の服を用意してくれ」
「はい、かしこまりました」
マールは俺の手を引いて衣装部屋へと連れていった。
「さあて、どれがいいですかね。まずはその服を脱いでもらいましょうか」
「……服を脱ぐのか?」
「とって食いやしませよ。恥ずかしながらないで。ほれ」
マールは俺の一張羅をはぎとった。
それからお盆を手渡してきた。こんなお盆でナニを隠せというのだろうか。
しかし、このお盆だけが羞恥心を守る唯一の要だという事実は受け入れないといけない。
お盆で前を隠して待つことにした。
マールは服を手に取ってうんうん唸っていた。
「それじゃあこの服を着てください」
マールの用意した服を着た。
黒地に金糸の刺繍が入った、いかにもエレガントな服だ。
「あらあら、まあまあ。素敵ですこと。馬子にも衣装とは言ったもんでさ。これならどこの娘も惚れちまうよ」
俺は鏡に自分の姿を映してみた。
少し華美な気もするが悪くない。いや、この身体であればどんな服でも着こなせる。
全身がファッションリーダーだ。
「ほお、悪くない。これでモテモテになるのか?」
「ええ、モテモテでさあね。なんたって百万バルの服ですからね。それはもう娘達も目の色変えて追ってくるでしょう」
「……それはモテモテなのか?」
「ええ、そりゃあもう。お金が人を着て歩いてるようなもんでさ。みんな夢中になりますよ。私もあと十歳若かったらグラルド様に言い寄るんですけどねえ」
マールの言うことはあまり信用しないほうが良さそうだ。
俺はマントを羽織って、衣装部屋を出た。
女性たちを探そう。服の効果を確かめるためにはそれが一番早い。
ホールに行くとアイシャとシエラがいた。
「アイシャ、シエラ。もうこっちに来てたのか」
「あら、グラルド。あなた大丈夫なの?怪我はない?」
「無傷だ。問題ない」
「心配になって見に来たの。町の中は平和そうだったけど、誰も傷つかなかった?」
「気絶させただけだ。問題ない」
「ちゃんと約束守ったのね。偉いじゃないの!」
「ありがとうグラルド。約束守ってくれて」
「気にするな。問題ない」
…………。
「どうしたの?何か用?」
「問題ない」
そうだ、エリザを探そう。
エリザはヘライオス達と一緒にいた。
「エリザも来ていたのか。みんな揃ったな」
「グラルドさん。一人で急に行っちゃうから驚きましたよ。ケガとかは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「そうですか。本当に丈夫な身体ですね」
…………。
「おお、グラルド様!なんと、見間違えましたな!ご立派なお姿で!」
ヘライオス。ああヘライオス。
「へライオス。これからはお前に苦労をかけないようにしよう」
「なんですか急に?もうグラルド様の奇行には慣れましたよ」
服の効果は無かった。
マールは信用しないでおこう。
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