第17話 勝利の栄光をわが手に

 なぜか戦場のど真ん中にモルちゃんがいた。

 モルちゃんはここぞとばかりに胸を張ってこちらを見ていた。

 なにしに来たんだろうこの人。

 まさか助けに来たのか。


 「苦戦してるな!お前ごときじゃこの人数を相手取るのは厳しいだろう!アッハッハッ」

 「モルちゃん、何してるの?」

 「お前に!変わって!強い!わたしが!蹴散らしてくれるわ!アハッ!アハハッ!」


 モルちゃんは詠唱を始めた。

 モルちゃんの頭上には、俺に放った火球の十倍くらい大きい火球が練り上げられつつあった。


 こんなもの放ったら兵隊どころかユグルまで焼けてしまうかもしれないだろ。

 本当になにを考えているのだろうこの子は。

 俺の考えが甘かったのか。この子はバカだったのだ。関わってはいけないタイプの人だったんだ。

 どう見ても目が正気の人のそれじゃない。


 俺はすかさずモルちゃんにチョップした。


 「ぎゃふんっ!」


 モルちゃんが頭を抱えてしゃがみ込むのと同時に火球は空気中に拡散して消滅した。

 危なかった。あんなもの放たれたらまたアイシャに怒られる。


 「なにするんだお前!痛いじゃないか!謝罪しろ!」

 「お前が何してるんだ。正気なのか。今忙しいんだからあっちにいけ」

 「頭にたんこぶができた!謝罪しろ!」

 「すみませんでした……今忙しいからあちらで待っていていただけませんか?」

 「せからしか!やっぱりお前は焼き尽くす!」


 モルちゃんは再び詠唱を始め火球を放ってきた。

 俺じゃなければ確実にやられるタイミングだった。


 「え、ちょっと待って。俺なんかした?」

 「黙って焼かれろ!このすっとこどっこい!アハッアハハ!ウヒハ!」

 「おいやめ──」


 連続して火球が降り注いでくる。


 「いい加減にし──」


 話そうとする度に火球が直撃して言葉を遮られる。

 ダメージが無いとは言え脇腹を指でつつかれたくらいの感覚はある。しかも炎が邪魔でまわりがよく見えない。

 なんだろう。構って欲しい年頃なのだろうか。

 はっきり言って不快極まりない。


 俺はおもむろにモルちゃんの首筋にチョップした。

 モルちゃんは白目を剥いて倒れた。

 おさげの髪がちょうど髭みたいに顔に乗っててちょっと笑える。


 さて、邪魔者は消えたし、戦いを再開するか。


 周りを見ると、兵士達はみんな逃げてしまっていた。

 倒れている兵隊達以外に立っている者はいない。

 遠くに走って逃げている兵隊達が見えた。


 勝った。苦しい戦いだったが俺の勝ちだ。

 初陣にしては上出来だろう。


 あとはジョイス・ハーマンというかっこいいマントをした男を捕まえれば決着だ。

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