第14話 笑顔を守りたい
「ビバル。ユグルの町にはどのくらいの食糧があると思う?」
「さあ。けどここら辺一帯はハースタンの穀物庫だからな。腐るほどあると思うぜ」
確かにビバルの言うように、ユグルの周りには広大な畑が広がっている。
「何考えてるんですか、グラルド様……あんたまさか……」
「ユグルを占領する。それで家も食糧も解決だ!」
実に単純明快だ。
無いなら有るところに行けばいいのだ。
あまりにもクレバーな思い付きなので思わず笑みがこぼれてしまった。
「ちょっと待ちなさいグラルド。そりゃあまりにも身勝手よ。ユグルにだって普通に生活してる人たちがいるのよ」
様子を見ていたアイシャが話に割り込んできた。
アイシャは眉間に皺を寄せて怒っている。
さらにシエラまで話に加わってきた。
なんだろうこの感じは。
何か懐かしい感じがする。
そうだ。これは学級会でクラスの女子に糾弾された時と同じ空気だ。
否定も反論も謝罪すらも許されない、魔の時間だ。
「あの、グラルド。わたしは、あなたに感謝しているけど、これ以上わたしと同じような人を増やして欲しくない……」
「……シエラ、お前の希望を言ってみろ。どうしたい」
「普通に生きている人達の生活を壊さないで欲しい……」
「わかった。お前の言う通りにしよう」
「おい、ただでさえ不利な状況だってのにそんな約束しちまうのか?戦争は綺麗ごとじゃ勝てないぜ」
「一般市民や建造物への攻撃は禁止。勿論奴隷狩りや略奪も禁止。俺たちが獲るのは領地の支配権のみだ」
「グラルド様、それはなんと崇高な戦いでしょうか。しかし、我々に未来はありませんな!はっはっ……はぁ……」
「心配するな、へライオス。どうせ戦うのは俺だけだ」
皆絶望に打ちひしがれた顔をしてる中、シエラだけは嬉しそうな笑顔を見せた。
こんな笑顔を向けられたのは二回産まれて初めてだった。
この子は、自分の命が危険に晒されることよりも、他人の命が救われることを喜ぶというのか。
この笑顔だけは守らなければいけない。
それが、俺がこの世界に産まれた理由なのだ。
なんてことはないだろうけど、笑顔が可愛かったからやる気が出たのは事実だ。
二回目の人生なんてどうせおまけのようなものだ。
それなら、シエラの笑顔のためにがんばるというのも悪くないだろう。
さて、どうしたものか。
やると決めたら早くやりたくなるから不思議なものだ。
早速明日ユグルに行ってみよう。
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